劇場公開日 1980年8月30日

「パニック映画として高い完成度だと思う」地震列島 あき240さんの映画レビュー(感想・評価)

4.0パニック映画として高い完成度だと思う

2020年6月1日
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鑑賞方法:DVD/BD

地震映画は沢山有るようで実はそう多くない

大地震を目玉に扱う以上、多額の特撮シーンが必要となるからだ
なので、予算が掛かることを承知で撮られた著名な大地震映画の特撮シーン使い回した特番的なテレビ映画が必然的に多くなるわけだ
古くは1936年の米国映画「桑港」、1974年の米国映画「大地震」とかが元ネタになっている

本作は映画だが、1973年の日本沈没の特撮シーンを流用している点では同じだ
しかし特筆すべき点が2つある

ひとつは大震災の描写について専門家の知見を大幅に取り入れていること
東大教授や元地震観測所所長を特別スタッフとしてクレジットしている
専門家が参加しているのは日本沈没でも同じだが、より震災の映像リアリティを上げている
ビルの壊れ方、燃え方、高速道路の落ち方の映像表現は日本沈没からさらに進化を遂げている
本作の15年後の阪神大震災、31年後の東日本大震災の実際の映像と見比べても、かなり実際に近い映像表現ができていたのが分かるだろう

隅田川の堤防陥没による決壊で、下町全域の水没や、トンネルを伝わっての地下鉄の水没設定は、2019年の巨大台風の水害で殆どそのすればにまで切迫していた
その被害想定は本作そのままだったのだ

ふたつ目は脚本が新藤兼人であることだ
地震映画は結局地震がクライマックスになるということが決まっている
逆にいうとそれまでは人間ドラマであるということだ
人間ドラマが大地震による衝撃で街や建物が壊れてしまうだけでなく、その人間のドラマ自体を突き動かすきっかけの仕掛けとなる

つまり地震は、雪や雷雨や霧といった人間ドラマの良くある転換の背景と変わることがない
より大きな衝撃であるということが異なるだけに過ぎない

だから新藤兼人が脚本を担当したわけだ
それは成功していると思う
彼のような技巧がなければ、良くて1974年の米国映画「大地震」の劣化縮小版に過ぎなくなっていただろう

序盤の政府の専門家会議のシーンは、昨今のコロナ対策専門家会議を思わせてドキリとした
ドラマパートにもリアリティがあるということだ

水没した銀座線の赤坂見附駅と青山一丁目駅の間の地下トンネル内のシーンはポセイドンアドベンチャーの有名シーンのモチーフを借りて来て夫婦の再構築を演出している

終盤の大火災の中の雷光は、その後の高架水槽への落雷と大水の落水はタワーリングインフェルノのモチーフだ

そしてそれは黒い雨の予告でもあり、戦時中の東京大空襲や関東大震災とつながる記憶を結びつけるものだ
同時に特撮班と本編班が演出で見事につなぎ合わされている良い仕事でもある

続く荘重な音楽の中、夜明けの光が眩しく暗雲から差し込んでくる感動的なラストシーンとなる
明けない暗夜はないのだ

その時、人間ドラマもまた完結している
一組の夫婦はアンハッピーな結末だが、夫人は夫との永遠の愛を取り戻している
もう一組のカップルはスタートラインに立つことができたのだ
ヒロインは悪夢から覚めることができるのだろう
悪夢とはこの大震災の夜のことではなく、不倫と略奪婚の悪夢だ

パニック映画として高い完成度だと思う

あき240