蔵の中

劇場公開日:

解説

蔵の中に住む胸を病む姉と、彼女を慕い看病する弟の妖しい関係を描く。横溝正史の同名の小説の映画化で、脚本は「愛獣 悪の華」の桂千穂、監督は「ザ・ウーマン」の高林陽一、撮影も高林陽一と津田宗之がそれぞれ担当。

1981年製作/101分/日本
配給:東映
劇場公開日:1981年10月3日

ストーリー

雑誌「象徴」の編集者、磯貝三四郎のところへ、蕗谷笛二と名乗る少年が原稿を持ち込んで来た。「蔵の中」と題されたその小説の世界に三四郎は浸り込んでいった。--「蔵の中」に笛二と姉の小雪がひっそりと暮している。小雪は五歳のとき中耳炎で耳が不自由になって聾唖者となり、今は胸を病み、他人に伝染さないようにと、蔵の中に住んでいる。そこは、絵草紙、錦絵、能面などが散乱する頽廃美の空間。ある日、猛烈に咳こみ、喀血する小雪の唇を、笛二は吸い、その血痰を吐きすてた。姉に勧められるままに、笛二は唇に朱をさし、頬に白紛をぬり、弁天小僧の錦絵になぞらえて、美しく化粧をしたりしていた。その後も、小雪は喀血を繰り返した。「どうせ、長い命じゃない。したいことをするのよ」と呟く小雪。床に落ちていた遠眼鏡を拾いあげて、笛二は窓の外を眺めた。遠眼鏡の視野に、雨戸を開け放れた奥座敷が見える。そこには、小粋な年増美人お静の暮しがあった。お静は三四郎の愛人であり、二人はそこで愛しあい、言い争っていた。口のきけない小雪の唇を読むのに馴れている笛二に、二人の会話を読みとるのは造作も無かった。二人の話から、笛二は、三四郎の死んだ妻が莫大な財産を残して死んだこと、まだ四十九日も経っていないこと、死ぬ直前に、三四郎が妻の死を願っていたこと、血を吐いて急死したことなどを知った。三四郎は、自らの野心、欲望のために、妻に手をかけたのか。一方、小雪の病状は、重くなるばかりたった。重くなるにつれて、ふたりは、ますます妖美な世界にのめりこんでいき、お互いに貧りあう。その時、疑心暗鬼、痴話喧嘩の果てに、三四郎はお静の首に手をかけた。茫然と見る笛二。恍惚と歓喜の中、お静は妖しく黒髪をふりみだして、息絶えていった。「あたしを殺して、あの人がしたみたいに」笛二も又、愛してやまぬ小雪の首に、震えながら手をかけた。原稿を読み終えた三四郎は「蔵の中」に向って走り出した。

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映画レビュー

2.5なぜ姉、小雪役が 松原留美子さんだったのか?

2022年5月9日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館
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共感した! 1件)
sasaki

4.0今までの横溝正史原作の映画に欠けていたものはこれだと声をだしたくなると思います

2021年12月13日
Androidアプリから投稿
鑑賞方法:DVD/BD

1981年9月公開
「悪霊島」との併映でした
つまりどちらも角川映画なのです

今から思うと凄い併映番組です
横溝正史もの映画を2本立てで公開するなんて
無茶やるなというのが正直な感想
子供向けのチャンピオン祭りなら、怪獣ものとアニメものの併映で昔は多く普通にあったものですけれど、大人向けでこの番組はどうしたことでしょう?

40年も経ってしまうと、それが何故だか皆目分からなくなってしまってます

横溝正史は1981年12月28日、結腸ガンで79歳でお亡くなりになっています

ですからこの2本が、生前横溝正史が目にする事がてきた最後の作品になるのです
その死のわずか3ヵ月前の完成と公開ですから、大病の原作者が実際に鑑賞しえたかどうか分かりません

また、角川春樹社長や監督が原作者の余命残り少ない事を知って、本作と「悪霊島」の2作品の製作を同時に始めたのかどうか
それも分かりません

しかし、本作と「悪霊島」の2作品、しかも同時公開を意図したのはそうとしか思えません

この2本立ては、原作者横溝正史への角川春樹社長からの感謝の気持ちの表現であったのだと思います

角川書店、角川春樹事務所、角川映画の隆盛は、横溝正史ブームがあったからのこそ
感謝してもしきれるものではないのです

ブーム終焉後に、きっと慰労の意味を含んで、角川の月刊文芸誌に連載してもらった長編小説の出来映えが素晴らしく、先生がご存命で元気な内に映画化しようとしたのが、本作と併映された「悪霊島」です

普通なら、この作品だけで十分でしょう
しかし角川春樹社長は、横溝正史への感謝がまだ足りないと感じていたのだと思います

横溝正史のおどろおどろしい世界は、どの映画でも力を入れて映画化されています
しかし、耽美さは取り上げられていても、目を覆うような本当の淫靡さは抜け落ちていたのは確かです
だって大ヒット映画ばかりなのですから、それを真正面から取り上げることは憚られたのです

それで、先生に本当に満足を頂ける作品を別にもう1本撮ろうという気持ちになったのではないでしょうか?

監督は?
それはもちろん、1975年に「本陣殺人事件」を撮った、高林陽一監督しかありえないと角川春樹社長は即断したはずです

何故なら、その作品が横溝正史作品の映画化のすべての始まりだからです
その作品が無ければ、横溝正史ブームは文庫本だけのブームで終わっていたかも知れなかったのです
高林陽一監督が、ATGで自ら願って映画化し手くれたその作品が大傑作であったから、角川春樹事務所を設立して映画化の事業に乗り出す発想を得たのですから
高林陽一監督もまた横溝正史ブームの大恩人だったのです

本作では、金田一耕助は登場しません
推理ものですらないのかもしれません
それでも横溝正史の世界観、雰囲気を濃厚にそのまま薄めずに映像化されています

映画としては成功している作品であるとは言い難いのは確かです
いろいろ残念なところがあります
第一、観れば分かるとおり、本作は興行で成功させようなんてこれっぽっちも考えていないことが分かります

それでも横溝正史の小説を多感な思春期に読み耽り、その耽美で淫靡で陰惨な後ろ暗い世界に溺れたことがある人なら、間違いなく楽しめます

今までの横溝正史原作の映画に欠けていたものはこれだと声をだしたくなると思います

本作こそが横溝正史作品のその側面に焦点を当てて映画化できている作品であると思います

本作を病床の横溝正史が観ることができたかどうか?
せめてスチル写真だけでも見ることができたかどうか?
それは分かりません

でも、もし観れていたならきっと先生は大変喜んでくれたと思うのです
やっと私が本当に映像化して欲しかったところを映画にしてくれましたね
そんな言葉が頂けたであろうと思うのです

増村保造監督の「この子の七つのお祝いに」は、本作の翌年、1982年の作品です
第一回横溝正史ミステリ大賞の映画化です
もちろん横溝正史の原作ではありません
しかし、その作品は本作の横溝正史の小説の淫靡さ陰惨さをしっかり受け継いでいます

横溝正史のDNAは途切れてはいません
ジャパニーズホラーの源流は横溝正史なのかも知れません

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