劇場公開日 1959年11月17日

「夏の時期に見るにはピッタリな情緒的作品。南京豆=落花生」浮草 コバヤシマルさんの映画レビュー(感想・評価)

3.0夏の時期に見るにはピッタリな情緒的作品。南京豆=落花生

2022年8月3日
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内容は、伊勢志摩に興行にくる一座とそれを取り巻く人々との葛藤・慟哭・情緒・疑心・運命・宿命・軋轢・後悔・愛情をリメイクしカラー映像作品に表現した作品。好きな言葉は『ヤクザな親なら無い方がましや!』旅の一座で12年振りな夫婦水入らずの時の自身の子供に対する親の気持ち。寂しさの中にも諦観と、曲げられない自身のこだわりが感じられる。『どんなええ芝居したかてこの頃の客にはわからんわい』久しぶりの息子と話する場面は、観客と映像作品作りに励む立場の違いと時代の流れを感じられる。『丸橋忠弥なんて全然社会性あらへんやないか。今の世の中との繋がりや。』親子水入らずで釣りしている時の会話はクリエイティブに生きる人がその時大切にしたかったテーマなんだろうな。浮草のテーマである流れ者一座の業の深さと運命的な出会いや映像が見るたびに気付く事があり面白い。好きな場面は、旅の一座が初公演で国定忠次の後引き幕の後ろから客席の入りを覗いてる三人に対して注意する女の人とセットの地蔵が手前に置かれている事で、壁に耳あり障子に目ありみたいに感じられ上手い演出だなと感じる。その他にも冒頭の白い灯台と柿色の一升瓶と赤い郵便ポスト📮の対比はこれから起こる物語の関係性を示している所は素晴らしい。見れば見るほど恐ろしいほど練り込まれた作品にはカラーで見れば余計に伝わってくるものがあります。映像美もさることながら杉村春子の表現力は半端ない数々の小津作品に参加されてますが、この作品が一番印象に残りました。脇役でありながら絶対的な存在感と血に根をはった伊勢志摩にある目印の灯台の様で安定感のある表現に釘付けになります。庭から眺める鶏頭の赤。サルビアの赤。干してる鯉のぼりの赤🎏大雨の中の傘の赤。最後の場面で夜汽車のテールランプの闇に光る赤。煙草の光の赤。郵便局の赤。口紅の赤。闇夜に光る提灯の三つ巴の紋様の赤。夏の船の修理場🚢に見える船の吃水線の赤。夏の暑さにはスイカの赤。かき氷🍧のシロップの赤。青と赤の対比や自分的には、時折上から降ってくる花吹雪の白い色が色んな思いを呼び起こされる様で感銘うけました。タイトルの浮草は、根無草とも呼ばれ秋になると休眠し海底に沈み春になると再び水面に出てくる『無き者草や鏡草』と呼ばれこの映画の旅の一座やそれに纏わる人々の心境を表す表現は味があって好きです。カラーを意識した作りに目を見張る映画でした。終幕付近に『親子3人で暮らそうか?!』と口にする主人公は自分では生き方も変えられない事が分かっていて自分に嘘をつく表現と嘘と理解した上で『ありがと、ありがと』という杉村春子の本音と諦めに思える表現は、今の歳になって解ってくる深い表現を発見した様で辛いですが面白い作品です。

コバヤシマル