劇場公開日 2007年7月28日

「普通じゃない人々」リトル・チルドレン かなり悪いオヤジさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0普通じゃない人々

2023年5月25日
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メインのアダルトチルドレンW不倫よりも、元幼児性愛服役囚と少年を誤射した過去のある元警官のサブストーリーの方に断然魅力を感じる1本だ。ご近所で開かれた『ボヴァリー夫人』読書会で意見を求められたサラ(ケイト・ウインスレッド)は、ブラッド(パトリック・ウィンルソン)との不倫を物語に重ねながらこう語るのである。「他の人生への渇望、不幸な生き方を拒絶したフェミニスト(の物語)」であると。

公園で子供を遊ばしている最中、サラとブラッドがふざけてキスをした時と、プールに幼児性愛者が紛れ込んできたときのお母様方の反応が、全く同じだったことに皆さんはお気づきだろうか。私は子供たちにけっして“間違ったこと(人)”を見せない正しい母親であることを皆一様に示そうと、まったく同じ行動をしかも同時にとるのである。

(ニューヨーカーに対するコンプレックスの裏返しでもある)コンプライアンスに毒されたその過剰反応ともいえる同調主義に、英文学博士になれたのにあえて論文を書かず修士にとどまったサラと、大学法学院を卒業したのに司法試験に落第し続けるブラッドは、同じような嫌悪感をもよおし急接近、お互いの子供をだしに使ったドロドロの不倫にはまっていくのである。

一方、幼児性愛者のロニーには、自分の面倒を唯一見てくれる同居の母親がいる。「いい子でいるのよ」が口ぐせで、部屋には子供を象った陶器がところ狭しと並べられている。その母親が急死してロニーは気づくのである。自分はマミーの「いい子」プレッシャーの反動で幼児性愛に陥り、死んだマミーは“いい子”じゃないロニーの代わりに“いい子”たちの置物をコレクションしていたことを。

そのロニーを目の敵にする元警官ラリーは、過去に犯した少年誤射事件のトラウマから、子供たちを変態男から守ることに異常ともいえる執念を燃やしていたのである。つまり、普通になることを嫌がった2人(サラとブラッド)と、普通になりたかったのになれなかった2人(ロニーとラリー)の物語なのである。人生において共通の“凹み”を持つ者同士が惹かれ合う、『ロブスター』的ストーリーといってもよいだろう。

そんな4人の人生がある事件をきっかけにクロスするのだが、ロニーとラリーはともかく、サラとブラッドの決着のさせ方がなんともお粗末。コーエン兄弟ならばきっと、ベビーシートに座ることを嫌がったサラの娘ルーシーが、ラリーの運転する車と衝突して事故死するくらいのインパクトあるラストに書き変えてしまったことだろう。が、直近作の『TAR』同様監督のトッド・フィールドは、4人それぞれに“救い”を与えるのである。生きている限り、過去のあやまちはいくらでもやり直しが効くのだ、と。

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かなり悪いオヤジ