劇場公開日 2007年3月10日

ラストキング・オブ・スコットランド : 映画評論・批評

2007年3月6日更新

2007年3月10日より有楽町スバル座ほかにてロードショー

クレバーでスリリングなサスペンス映画

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先頃のアカデミー賞授賞式でオスカー像を手中に収め、“映画賞総なめ”の仕上げをしたフォレスト・ウィテカー。いかに彼が“人食い大統領”の異名を持つウガンダのイディ・アミンを迫力たっぷりに演じたのか。読者の興味はその一点に尽きると思うが、実はこの映画、物語上の主人公はアミンではなく、ニコラスという若い白人医師なのだ。

映画は全編に渡って、憂鬱な曇り空のスコットランドからエキゾチックなウガンダへとやってきたニコラスの視点で展開していく。序盤のアミンは、彼の目に映ったお茶目で気前のいい人物として描かれる。一国の大統領の信頼を得て有頂天になったニコラスの思いは、中盤あたりで「何か変だな」という疑念が入り混じるようになり、終盤には「もう駄目だ」と絶望に変わる。

ケビン・マクドナルド監督がジャイルズ・フォーデンの原作小説の構成をそのまま踏襲したのは当然の選択だったのだろう。独裁者アミンの怪物性を探究するなら、そのものずばりのドキュメンタリーを作ればいい。そうではなく架空の外国人をあえて主役に据え、無知で脳天気でよく言えば純粋な若者の“過ち”を描いたからこそ、この映画は普遍的なテーマと奥行きを獲得したのだ。

外国人の視点を採用したことは、フォレスト・ウィテカーにとっても好都合だっただろう。彼は身の毛のよだつ大量殺戮シーンを直接演じることなく、その部分を観客の想像に委ね、アミンの分裂的な人物像を表現することができた。やがて“真実”が露わになったとき、私たち観客はすでにニコラスとともに極限状況のクライマックスの真っ直中に引きずり込まれている。命の危険を代償とする重い教訓。何とクレバーでスリリングなサスペンス映画だろうか!

高橋諭治

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