劇場公開日 1995年12月9日

「【”幻の光”に吸い寄せられてしまった人を、引き留められなかった後悔の念に苛まれる女性の、深い喪失感からゆっくりと再生して行く姿を能登半島の美しい海岸を背景に、静かなトーンで描いた作品。】」幻の光 NOBUさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0【”幻の光”に吸い寄せられてしまった人を、引き留められなかった後悔の念に苛まれる女性の、深い喪失感からゆっくりと再生して行く姿を能登半島の美しい海岸を背景に、静かなトーンで描いた作品。】

2020年12月17日
PCから投稿
鑑賞方法:CS/BS/ケーブル

悲しい

知的

幸せ

ー是枝監督が、”様々な家族の姿”を拘りを持って描き続けている事は周知の事実である。そして、その根底には”人間の善性を信じる”という固い想いがあることも・・。
 それ故に、それを裏切るようなネグレクトなどの唾棄すべき行為に対しては、強烈な怒りを込めて、「誰も知らない」「万引き家族」などの作品に、”様々な家族の姿”として反映させてきた。
 今作では、愛する人と”家族”になった女性の深い喪失感とゆっくりと再生して行く姿を、能登半島での”新しい家族”の姿と、荒々しい海と向き合い生きる人々の姿を絡ませて描いている・・。-

◆冒頭の、ゆみこが幼い時、”四国の宿毛に帰るんじゃ・・、死ぬために・・”と言いながら姿を消した、ゆみこの祖母の姿が、その後の展開を暗示させるところから物語は始まる。

 ・大人になったゆみこ(江角マキコ)が、小さい頃知り合ったいくお(浅野忠信)と結婚し、ゆういちが生まれ、ゆみこは幸せな生活を送っている。
 が、ある日、いくおは突然”この世から”居なくなる・・。
 - 江角マキコさん演じるゆみこの、哀しみが深すぎて、涙も出ず、無表情で独り暗い部屋の中で佇む姿。-

 ・ゆみこは幼子を抱え、伝手で能登半島に住むたみお(内藤剛)と再婚するが、表情は暗いままである・・。だが、二人のために荒れた海に蟹を取りに行ってくれたとめのおばあさんを始め、たみおの父(柄本明)や、朝市の売り子のおばさんから、さりげないが、優しい態度で接しられ、ある日、ゆみこは漸く夫たみおに能登の海岸で問いかける。
 ”何で、あの人は死んだんや・・。分からへん・・。”
 たみおは、
 ”父ちゃんが言っていた事がある。海に出ていると、”誘われることがある・・。” チラチラとした灯りに・・。人間、誰でもそういうことがあるのではないかなあ・・。”

 - 海岸沿いを歩く葬列。鳴る鈴の音。
 それは、いくおが盗んできた自転車のカギについていた鈴の音、そしてゆみこがいくおの形見として、大切に持っていた鈴の音に聞こえる。
 絶妙な構成である。-

<ある女性の深い喪失感から、ゆっくりと魂を再生して行く姿を静かなトーンで描いた作品。 是枝監督が現在でも拘る”家族”を裏テーマにした作品でもある。
 ”二つの家族の姿:一つは、いくおと築いた家族、もう一つは、たみおと築いた家族”
 の姿を通して、
 ”人間の魂の揺らぎ”
 を、能登半島の荒々しいが美しい風景、逞しく生きる人々の姿を通して描き出している作品。>

NOBU