劇場公開日 1972年4月29日

「完全なる暴力肯定の世界観」時計じかけのオレンジ Moiさんの映画レビュー(感想・評価)

4.5完全なる暴力肯定の世界観

2024年4月19日
iPhoneアプリから投稿
鑑賞方法:CS/BS/ケーブル

怖い

興奮

感想

この作品でます注目するところは、
劇中の社会設定と美術装飾全般である。

写真家でもある監督のきびしい設定要求に
制作側が見事に応えている感がひしひしと
感じられ、当時最先端のポップカルチャーと
前衛芸術をエスプリの効いたセンスでまとめ
上げた、決して明るい未来とは言えない殺伐
とした世界を創造していて、現実的な社会科学
の水準は映画制作当時よりも低く、同時に経済
状況も悪化している貧富の差が激しい、
近未来の閉塞観に満ち溢れた世界を見事に
現出させている。

21世紀の今現在、鑑賞しても、
シチュエーション的、モード的、また、映像的
なものを含め、古さを全く感じさせない。
映画自体の完成度合いが高く、特筆に値する。

次は原作と脚本である。原作者が危険な本と
喧伝した理由が、主人公達不良グループの
人間性が極端に暴力に偏っている事。また、
そのような人間に対して反社会性を矯正する
治療と称して、人間性を根本から否定し、
破壊する心理的拷問と、極致的な名を変えた
暴力の応酬を行う、人間の精神破壊がテーマ
となっている。

キューブリックは原作の要点を押さえ、
映画脚本をよりデフォルメしているため、
さらに強烈な印象を作り出す事に成功している。
不良グループ内だけで共感されるスラングを
会話に多用して不気味な存在感と雰囲気を
増大させている。英語の意味と発音に韻を
ふんだスラングなので英語に精通していない
と深く本意を理解できない。外国人にして
みると、その訳の解らなさがまた恐ろしく感じる。

主演のマルコムマクダウェルは当時無名に
近い、舞台出身の新進気鋭の俳優であった。
そのエキセントリック且つ、二重人格者的演技は
全世界に衝撃を与えた。
アレックスはこの俳優でなければいけない。
というより、この俳優しかいない。

真面目に何でも真にうけてしまう人は、
この映画を観ない方がいい。真に受けると
あまりにも危険で恐ろしい。

映画を観終わった後、
なんとも言えない後味の悪い気分になるが、
時間が経つと再び怖いもの観たさで観たくなる
中毒性の高い映画である。

⭐️4.5

Moi