劇場公開日 2000年4月1日

ヒマラヤ杉に降る雪 : 映画評論・批評

2000年3月29日更新

2000年4月1日よりみゆき座ほか全国東宝洋画系にてロードショー

見どころは工藤夕貴だけじゃない!

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スコット・ヒックス、お見事である。工藤夕貴のハリウッド進出や日系人のリアルな描写 に注目が集まったので、説教臭い社会派ドラマな先入観を与えがちだが、これは失った愛に囚われ続ける男のポゼッションの物語。そんな男の孤独にこちらの胸まで締めつけながら、最後は人間の優しさに胸を熱くさせてしまうのだから。やはり「シャイン」で世界を熱い感動で包んだ実績は伊達じゃない。

過去と現在、凍てつく雪景色と熱気でむせかえる法廷。さまざまな 要素をお得意のインターカッティングで交錯させる演出で愛憎渦巻くイシュマエルの胸のうちを鮮やかに浮かび上がらせるそのお手並みにも、もちろん惚れ惚れするばかり。だが、この物語を色味を抑えた雪景色さながらに静かで冷たいポゼッションの傑作たらしめたのは、イーサン・ホークという存在があればこそ。ときに甘く、ときに険しい彼の瞳は、初恋のときめきも、失恋の絶望も、愛の妄執に憑かれた男の怒りも、すべてを鮮やかに映し出して見せる。「表情だけで演じるのはチャレンジングだった」という彼は、自覚がないようだが、彼の最大の魅力は瞳なのである。その瞳が静かに訴えてくる恋の痛みに、人の優しさに、きっと涙が止まらないだろう。

杉谷伸子

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