劇場公開日 1953年12月12日

「保険外交員が共犯の斬新な犯罪映画に観るワイルダー監督の卓越した作劇術」深夜の告白 Gustavさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0保険外交員が共犯の斬新な犯罪映画に観るワイルダー監督の卓越した作劇術

2020年4月18日
PCから投稿
鑑賞方法:DVD/BD

バーバラ・スタインウィックが悪女を演じ切る犯罪映画。ジョン・ヒューストンの「マルタの鷹」と並びフィルム・ノワールの最初期を代表するビリー・ワイルダーの傑作。

若い後妻フィリスから保険殺人を持ち掛けられた保険外交員ウォルターの回想で描かれる殺人トリックの、その中に先妻の娘ローラとその恋人ニノを絡ませる欲望渦巻く愛憎劇の不道徳な興味を煽りながら、最期はエドワード・G・ロビンソン演じる保険調査員バートンとの友情で閉めるという、脚本兼演出家ワイルダーの才覚が冴えわたる作劇術の素晴らしさ。保険会社の内部から構想されたジェームズ・M・ケイン原作の斬新さは、倍額保険の為の列車事故に装うサスペンスを生み、信頼熱い保険調査員の同僚がウォルターに事件の推理を語るスリルを増幅させる。共犯がバレるのを恐れてウォルターがフィリスを避ける時間経過に、バートンがフィリスを尾行してニノに行き着く展開もいい。

太平洋戦争中の有事の世相から題材は不謹慎と受け取られ、制作には幾多の困難が発生したという。脚本では共作のレイモンド・チャンドラーと衝突したとあるが、作品の完成度からは想像できない。フィルのスタインウィックが堂々とした演技力で悪女を熟したのに対して、ウォルター役のフレッド・マクマレイの個性が弱いのが惜しいと思ったが、悪女に翻弄されるだらしない男を誰も演じたがらなかったとある。それをカバーして余りあるのが、名脇役ロビンソンの優しさを秘めた強面の表情演技の深みであろう。「マルタの鷹」とこの「深夜の告白」はもっと評価されてしかるべきと思う。

Gustav