劇場公開日 2000年9月23日

「シャーロットは去りゆこうとしている20世紀の暗喩なのです NYの夕映えの中に美しく佇んでいたWTCのツインタワーは、シャーロットだったのかも知れません」オータム・イン・ニューヨーク あき240さんの映画レビュー(感想・評価)

4.0シャーロットは去りゆこうとしている20世紀の暗喩なのです NYの夕映えの中に美しく佇んでいたWTCのツインタワーは、シャーロットだったのかも知れません

2021年4月8日
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鑑賞方法:DVD/BD

「オータムインニューヨーク」はシナトラの大ヒット曲でジャズのスタンダードナンバーですが、本作とは関係は有りません

48歳の中年男と22歳の若い女の恋愛のお話
リチャード・ギアだから許されますが、普通は何それキモイ!と拒否反応で炎上しそうです

ところが、そうじゃない
本作は確かに表面的にはそういう映画です
でもちがうんです
テーマはそれではないのです

2000年8月11日の米国公開
劇中の晩秋からクリスマスのNYは1999年の事です
20世紀の最後の秋から年末です

美しいNYの夕暮れのシーンが数多くあります
在りし日のWTCのツインタワーが夕映えに黒いシルエットになって印象的に写されます

シャーロットは心臓に病気を抱えて余命1 年くらいと言われています
つまり彼女は去りゆこうとしている20世紀の暗喩なのです

主人公のキーンはこの20世紀に青春を送ってきた、公開当時の多くの観客を代表しているのです
日本で言えば団塊の世代です

彼らは若さを捨てられないのです
青春をいつまでも永遠に謳歌できると信じているのです
そんなことありえないのに

だから彼らを反映しているキーンは、自らの青春を若い時のまま永遠に維持しているようなシャーロットに惹かれてしまうのです
手放したたくないのです

しかし時は残酷に過ぎて行くのです
若い時はドロレスが言ったように「1分半」みたいにあっという間に過ぎてしまうのです
シャーロットが象徴している20世紀の青春は最後の秋を終えようとしていたのです
だから夕暮れシーンが多いのです

冒頭はレッツ・フォール・イン・ラヴという曲が流れ、晩秋の紅葉を写します
英語の秋(fall)と掛けている訳です
また夕暮れの英語もまたDusk fallなのです

そして人生の秋を、キーンが象徴する団塊の世代はこの20世紀の最後の秋に迎えていたのです

20世紀最後のクリスマス
年が明ければ21世紀
NYには雪が積もり雪がちらついています

そして、どうあがいても20世紀の青春や若さを失うしか無いことを、遂にキーンは受け入れたのです
年相応に中年男から初老の男になって行くことを受け入れたのです

20世紀の青春の思い出はようやく過去のものになったのです
若さにしがみつくことの限界を知ったのです

だからラストシーンは、キーンが孫を抱いてあやしているのです
キーンのこぼれるような笑顔はもう立派な「じいじ」になっています

2000年8月11日の公開
そうその1年と1月後の同じ日
911の惨劇が起こりWTCのツインタワーは崩れ去りました

20世紀の思い出は崩壊したのです
NYの夕映えの中に美しく佇んでいたWTCのツインタワーは、シャーロットのように本当に余命1年だったのです
本作はソフトに20世紀の甘美な記憶からサヨナラを告げていたのに、現実は残酷に無惨に強制的に別れさせて21世紀に連れ去ったのです

もちろん撮影時にそんなことが起きるなんて、監督も俳優達も誰も想像もしていなかったのに、本作は期せずしてそれを織り込んだかのように作られているのです
映画の神様の不思議です

ラストシーンの赤ん坊は今年21歳になります
来年はシャーロットと同い年
団塊の世代はもう70代
このようなな物語は最早成立しないのです

21世紀にリメイクするとしたら?
団塊Jr とシャーロットの恋愛?
それこそキモイ!です

あき240