ツイン・ピークス : 特集

2003年4月3日更新

デビッド・リンチとインターネット  飯田高誉

また、“デビッド・リンチ・ドット・コム”は、リンチの音楽作品も聴けるのである。その音楽作品とは、CDアルバム「BLUE BOB」である。昨年リリースし、欧米のリンチ・ファンやネットでアクセスする人々の間では今や話題になっている。ウエスト・ハリウッドにあるデビッド・リンチの自宅スタジオでこのアルバム「BLUE BOB」を制作協力したパートナーは、ジョン・ネフというミュージシャンで、最初は彼とこのスタジオで実験的にはじまったらしい。「ジョンは長年スタジオ・ミュージシャンをやっており、一方でこのスタジオのエンジニアでもある。このアルバムでは、サウンド・エフェクトとして自らギターやトランペットを演奏し、工場地帯のノイズ・サウンドからインスピレーションを得て、できるだけ自分が求めている音をつくるためにサウンド・ミキシングを使って実験的な音楽空間をつくり上げている」と語る。聴いてみると、リンチの初期映画「イレイザーヘッド」(77)のすべてのシークェンスを貫いているインダストリアル・ノイズの重低音を想起させる。「BLUE BOB」は、インダストリアル・ブルースという形容がぴったりで、30年代活躍した伝説的ブルース・ミュージシャンのロバート・ジョンソンに捧げている。去年の11月には、「パリのオリンピア・パレスで『BLUE BOB』のいくつかのナンバーを演奏し、たいへん好評だった」とリンチは話す。このアルバムは、日本でもCDとしてリリース間近であるが、“デビッド・リンチ・ドット・コム”にアクセスすれば、今すぐ聴くことができる。

販売:パイオニアLDC「9.11」以降、最近の世界情勢の急激な変化を前提に、「創作活動」とは何なのかということをリンチに問いかけてみた。この問いには、少し間をおいて、考えながらゆっくりと語り始めた。「世の中は“雲”のようなものであって、“雲”の流れはコントロールできるものではない。そういうときこそ、“雲”に惑わされるのではなく、自分が為すべきことに集中しなければならない。このことによってはじめて“雲”を越えることができるものと確信している」。そもそも人間の不条理な心理的葛藤を一貫して描写し続けているリンチにとって、“雲”の動きに翻弄されることこそ愚かなことであるということを知り抜いている。また、「私の創作活動における考え方は、こうだ。ドーナツを見よ、けっして真ん中の穴(虚無)は見るなと。つまり、不安に包まれずに、自身の仕事を楽しみ愛し続けることこそが重要なんだ。そうすると意外なところから応援者や協力者ができてくるものだ」と自信満々に語る。

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ハリウッドという迷宮の住人デビッド・リンチに、「あなたにとってハリウッドとは?」という最後の問いを投げかけてみた。「ハリウッドは、言葉で表すことができない。ハリウッドはマジカルな存在だ。まさに名声、富、栄光といった“光”と人間心理の葛藤や不条理を描写する“闇”の均衡で成り立っている。世界中に“ハリウッド”は知れ渡っているが、それぞれ捉え方がまったく異なる。ここは、創造力によって夢が達成できる場で、そこに富と名声がついてくるんだ。だから、ハリウッドは創造性によって支えられている場なのだ」。

デビッド・リンチと会うたびに、修行僧のような厳格さと寛容性、知性と不条理性という一見対極的ないくつものキャラクターをもつ彼の多重性に魅了されてしまう。そして、現実こそあたかも「ツイン・ピークス」の終わりなき宙づり状態で理解不能な実存的世界の中に自分が存在していることを認識してしまう。「ツイン・ピークス」という峠を越え、「ロスト・ハイウェイ」を疾走し、「マルホランド・ドライブ」を経由して、デビッド・リンチはどこへ向かうのか、しばらく注目してみたい。

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