劇場公開日 2024年3月29日

「無法者とヒップホップの危うい親和性」RHEINGOLD ラインゴールド 高森 郁哉さんの映画レビュー(感想・評価)

4.0無法者とヒップホップの危うい親和性

2024年4月18日
PCから投稿
鑑賞方法:試写会

悲しい

興奮

本作については当サイトの新作評論枠に寄稿したので、ここでは補足的なトピックを書き残しておきたい。

この伝記映画で描かれるカター(本名ジワ・ハジャビ)は、日本では知名度が低かったものの、本国ドイツでは知らない人がいないスーパースターだそうで、ラッパーとしての活動にとどまらず、他のアーティストのプロデュースのほか、ファッションブランドや飲食店などを経営する実業家としても成功しているようだ。そうしたカターの絶大な知名度もあってか、ドイツ国内で興行成績1000万ドル超え、ファティ・アキン監督の長編映画として最大のヒットを記録。次いで2番目の自国ヒット作「屋根裏の殺人鬼フリッツ・ホンカ」(2019)が約45万ドルなので、文字通り桁違いの成功を収めたことになる。

本作は2015年に出版されたカターの自伝に基づくが、劇的効果を狙って脚色した部分も当然ある。たとえば映画では、金塊強盗の罪で収監された刑務所でひそかに録音機材を入手し、そこでレコーディングしたアルバムでデビューした流れで描かれる。だが実際には、カターの最初のアルバムは2008年にリリースされ、金塊輸送トラックを襲った事件は2009年。囚人番号を題名にした「415」はセカンドアルバムだった。

EU加盟国の中でも移民の受け入れに積極的なドイツでさえ、少数民族が直面する差別や格差が根強く、だからこそカターたちクルド系のラッパーたちが結束して起こしたヒップホップムーブメントが、同国におけるメインストリームへの対抗文化として支持された側面もあるのだろう。それはヒップホップの本場アメリカで1980年代後半から90年代に黒人たちによるギャングスタ・ラップが興隆した社会背景に通じるものがありそうだ。

ギャングスタ・ラップと犯罪に関連する映画としては、トゥパックとノートリアス・B.I.G.が殺害された未解決事件を題材にした「L.A.コールドケース」(2018年米公開)が思い出されるが、同作の製作後に新展開があった。元ギャングリーダーのドゥエイン・デイビスが2018年にトゥパック殺害事件への関与を告白、2023年9月に殺人容疑で逮捕、起訴されたのだ。裁判は今年6月に予定されており、まだ刑は確定していない。

カターと仲間たちが起こした強盗事件では、奪われた金塊の相当部分が行方不明になったままだという。評論でも触れたように、映画では金塊が隠されていると解釈することもできるファンタジックなラストシーンが描かれる。こちらの事件もいつの日か、あっと驚く新展開があれば面白いのだが。

高森 郁哉