劇場公開日 2017年3月11日

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「映像の素晴らしさ、それだけの映画なのでしょうか? 違う、とても政治的な映画であった 政治的なメッセージを強力に発信していると感じました」クー嶺街(クーリンチェ)少年殺人事件 あき240さんの映画レビュー(感想・評価)

5.0映像の素晴らしさ、それだけの映画なのでしょうか? 違う、とても政治的な映画であった 政治的なメッセージを強力に発信していると感じました

2021年4月18日
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鑑賞方法:DVD/BD

映像の没入感は物凄い次元で、まるでその場にいたかのように感じられるでしょう
特に終盤の薄暗い通りでの刺殺の犯行の一部始終
それはその背後での人々の動きが感嘆すべき演出と撮影、照明なのです

しかし、映像の素晴らしさ、それだけの映画なのでしょうか?
違う、とても政治的な映画であった
政治的なメッセージを強力に発信していると感じました

今日は2021年4月18日です
日米の首脳会談が昨日あったばかり
台湾という文言が共同声明に約半世紀ぶりにつかわれたとして世界中に衝撃が駆け巡りました
本作をこのタイミングで観る意義は大きく新しい視点をもたらしてくれました

本作は1961年の台湾を舞台にしています
ちょうど今から60年前のお話

本作を観るにはまず台湾とは何か?を知らねばなりません

台湾は1895年から1945年までの50年間は日本領でした
日本の敗戦後、台湾は元の中国に返還されました
でも、それは今の中国のことではありません

その時の中国とは、中国大陸を支配していた民主主義の国民党政府の中華民国が中国だったのです

しかし太平洋戦争が終わると国民党政府軍と中国共産党の八路軍との内戦が激しく起こります
最終的に中国共産党が大陸全土を制覇して、国民党の中華民国政府は台湾に逃れました

その結果、中国大陸には中華人民共和国という新しい国が1949年にでき、戦前は中国大陸を支配していた中華民国は台湾を支配するだけの国になってしまったのです

もともとの台湾の住民から見れば、日本人が去り台湾の人々だけになった島に今度は大陸から大勢の人々が1949年以降逃れて来て支配層に収まったのですから、支配層が入れ替わっただけみたいな案配です

もともとの台湾の人々を内省人、大陸からまるで落下傘のようにやってきて政府の幹部に収まったのが外省人という訳です

やがて、中国共産党は「一つの中国」論で台湾は国ではないと言い出します

今からちょうど50年前、台湾は国連の常連理事国の座を中華人民共和国に奪われ国連を脱退する羽目になりました
遂には台湾は国ではないとされ、日本も米国も世界中のほとんどの国が国交を正式には断絶したのです
だから半世紀ぶりに「台湾」の文言が日米首脳会談の共同声明にでたことが大変な意味を持つのです

こういうことを、本作を観るに当たっては最低限理解した上で観ないと何もわからないし、伝わらないと思います

本作はそんな複雑な台湾の成り立ちが大きく反映されています

日本式の家屋、軍刀や短刀
外省人の父
内省人の庶民の人々
これらは全て台湾はどんなところなのかを説明しているのです

軍の戦車や軍人が多く画面に現れるのは、1958年にあった中国共産党政府が台湾への侵攻を試みた金門島砲撃事件から間もない頃の時代だからです

そして本作公開は1991年
今からちょうど30年前

それは1989年の天安門事件の2年後のこと
1989年とは中国共産党が中国大陸を制覇して中華人民共和国という国を作った年からちょうど40年の節目の年のことでした
その年に中国共産党は民主化改革を要求した若者たち数千人を戦車で轢き殺したのです
調べれば「人間せんべい」という凄惨な画像が見られることでしょう
本作で戦車が何台も少女の前を通り過ぎるシーンはなぜ存在するのでしょうか?

そして2021年の今年
台湾海峡は戦争が近いような雲行きです

美しい台湾の少女は、お前を一番分かっているという大陸から来た人々の息子に殺されてしまうのです

台湾の声にならない悲鳴が聞こえてくるような気がします

あき240