コラム:第三の革命 立体3D映画の時代 - 第11回

2010年11月22日更新

第三の革命 立体3D映画の時代

一昨年春に連載し、好評を博した映像クリエーター/映画ジャーナリストの大口孝之氏によるコラム「第三の革命 立体3D映画の時代」が復活。昨年暮れの「アバター」公開により、最初のピークを迎えた感のある第3次立体映画ブームの「その後」について執筆していただきます。第11回は、「3Dテレビの長い歴史」パート3です。

第11回:3Dテレビの長い歴史(3)その1

【図2】「Panasonic Quasar」のデモ映像
【図2】「Panasonic Quasar」のデモ映像

■電子式3Dテレビの始まり

3Dテレビ史の3回目である。テレビというものは、ディスプレイだけの場合と、放送を前提とした場合では、立体化の容易さがまったく異なる。放送を考慮しないのであれば、非常に古くから様々な3D化の試みがなされてきた。

【図1】シモン社製の透光性セラミックス・シャッター式メガネ
【図1】シモン社製の透光性セラミックス・シャッター式メガネ

例えば、1945年の12月にRCAのアルフレッド・N・ゴールドスミスは、カラー、ステレオ音響、そして裸眼立体という、極めて先進的な3Dディスプレイのデモを行っている。表示技術は、フィールド・シーケンシャル(走査線の奇数フィールドと偶数フィールドに、それぞれ左右の画面を当てはめる方式)で撮影して、パララックス・バリアの裸眼3Dディスプレイに表示するというものだった。1946年10月に特許申請し、1951年12月に受理されているが、実用化はしていない。

なお前々回の記事で、1953年にアメリカン・テレビジョン研究所のウリセス・A・サナブリアが、円筒形の回転ビュワーを用いる機械式アクティブ・ステレオ方式の3Dテレビを開発したと述べた。これと同様な回転式の機械式ビュワーは、他にもいくつか考案されているが、扇風機を目の直前で高速回転させるような危険性や騒音の問題で定着しなかった。

【図3】松下電器産業の裸眼3Dテレビ
【図3】松下電器産業の裸眼3Dテレビ

そこで駆動箇所のない電子式シャッターのメガネが、1976年にJ・A・ローズとA・S・カラタラらによって考案された。ただし500Vもの駆動電圧を必要とする透光性セラミックスを用いていたため、感電の危険性があり、消費電力も大きく、価格も高いという問題があり、これも普及することはなかった。【図1】

その後、低電圧・低電力で駆動する液晶シャッター・メガネが、現在のReal D社の前身に当たるステレオ・グラフィックス社のレニー・リプトンによって、1980年に考案された(特許の取得は1985年)。

■実用化に先んじた日本メーカー

しかし、この液晶シャッター・メガネを3Dテレビに応用したのは、松下電器産業(現パナソニック)が最初だった。「The Technology of SPACE 3-Dimension TV: Panasonic Quasar」と題した試作機を、1981年にシカゴの展示会で発表している。ちなみにこの時のデモ映像【図2】の中には、映画「トロン」(1982)のCGの一部(オープニング・タイトルからロサンゼルスの夜景になるカット、および主人公フリンがデジタイズされてエレクトリック・ワールドへ転送されるシーン)も手掛けているロバート・エイブル&アソシエイツが制作した作品もあった。

なお松下電器産業は、4視点からなるレンチキュラー式(5台のプロジェクターを用いてリアプロジェクション)の裸眼3Dテレビ【図3】も試作しており、こちらは科学万博‐つくば'85の松下館に展示している。

■本格的3Dシステムとなった立体VHD

【図4】立体VHD「13日の金曜日 PART3」(左) 【図5】立体VHD「ジョーズ3」(ともに筆者所有)
【図4】立体VHD「13日の金曜日 PART3」(左) 【図5】立体VHD「ジョーズ3」(ともに筆者所有)

液晶シャッター・メガネに話を戻すと、この方式をコンシューマー向け商品で初めて採用した「立体VHDプレーヤー」が、1986年に日本ビクター、シャープ、松下電器産業の3社から発売されている。VHD(Video High Density Disc)とは、レーザーディスク(LD)に対抗する形で、日本ビクターが中心となって開発し、1983年に発売されたビデオ・ディスク規格である。最初は15社ものメーカーが参加してLDを圧倒していたが、形勢は徐々に逆転されてしまった。そこで、VHDのシェア奪回を狙って企画されたのが「立体VHDプレーヤー」で、ディスプレイは通常のブラウン管テレビがそのまま使用できる。

そしてこれに対応する3Dコンテンツも、1986~7年に日本ビクターから発売されている。そのラインナップは、「13日の金曜日 PART3」(1982)【図4】、「ジョーズ3」(1983)【図5】、「エマニュエル」(1984)など当時の第2次立体映画ブームの作品を中心に、「肉の蝋人形」(1953)、「ダイヤルMを廻せ!」(1954)など50年代の作品も加えた映画作品の他、「デッドヒート」(1987)などのアニメーション、「少年隊 キュービックファンタジー」(1987)などのオリジナルソフト、「VHDモモコクラブ」(1986~7)などのビデオディスクマガジン(一部が立体映像)といった全22枚がリリースされた。これらは、家電製品としては初めての本格的な3Dコンテンツと3D視聴システムだったと言える。しかしLDの優位性を崩すことはできず、1988年には消滅してしまった。

画像5

■3Dゲームも登場

1980年代に液晶シャッター・メガネが応用された分野には、もう一つゲーム機もあった。1987年に、任天堂がファミリーコンピュータ・ディスク・システム用の「3Dシステム」【図6】を発売し、専用ソフトは任天堂の「ファミコングランプリII 3Dホットラリー」(1988)の他、コナミ、ポニーキャニオン、スクウェア、ジャレコ、アスミックから発売されている。

セガも同年に、セガマーク・/マスターシステム用に液晶シャッター眼鏡「3Dグラス」【図7】を発売し、自社で「スペースハリアー3D」(1987)といった専用ソフトも提供した。しかし、任天堂もセガも売れ行きは伸びず、結局両社は3Dゲームから1年ほどで撤退してしまった。

また液晶シャッター・メガネは、ナムコの「サンダーセプター2」(1986)や、タイトーの「コンチネンタルサーカス」(1987)といったアーケード・ゲームにも応用されたが、1989年までに消滅してしまった。

■普及の障害となったフリッカー

【図8】パイオニアの「3D Museum」(筆者所有)
【図8】パイオニアの「3D Museum」(筆者所有)

これらの3D製品があえなく失敗した最大の理由は、フリッカー(ちらつき)だった。日本のテレビは60iと呼ばれる、60Hzのインターレース方式(奇数と偶数のフィールドが揃って1フレームとなる)で放送されている。液晶シャッター・メガネは、フィールド・シーケンシャル方式を採用していたため、片目には30Hzしか表示されないことになる。これは、かなり不快なフリッカーを感じさせ、とてもじゃないが長時間見続けられるものではなかった。

そこで、三洋電機とNHK放送技術研究所が共同研究を行い、120Hzの倍速表示にすることでフリッカーレス3Dを実現させ、エレクトロニクス・ショー&オーディオ・フェア'87に試作「立体LV(レーザービジョン)プレーヤー」を参考出品している。

フリッカーレス3Dの技術は実際の製品として、パイオニア、日本電気ホームエレクトロニクス、セガが共同開発し1993年に発売された「レーザーアクティブ」に採用されている。しかし肝心の3Dコンテンツは、「3D MUSEUM」(1994)など2タイトルしか発売されず、レーザーアクティブ規格自体も短命に終わってしまった。

>>次のページでは90年代の3D小ブームと日本の電器機器メーカーの挑戦を紹介。

筆者紹介

大口孝之のコラム

大口孝之(おおぐち・たかゆき)。立体映画研究家。59年岐阜市生まれ。日本初のCGプロダクションJCGLのディレクター、世界初のフルカラードーム3D映像「ユニバース2~太陽の響~」のヘッドデザイナーなどを経てフリー。NHKスペシャル「生命・40億年はるかな旅」のCGでエミー賞受賞。「映画テレビ技術」等に執筆。代表的著作「コンピュータ・グラフィックスの歴史」(フィルムアート社)。

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