コラム:編集長コラム 映画って何だ? - 第44回

2021年12月24日更新

編集長コラム 映画って何だ?

2021年の、個人的「今年の10本」をご紹介

2021年も残り1週間。昨年同様、海外の映画祭に参加できなかったので、例年よりも鑑賞できた映画の本数は少ない1年でした。それでも、ふり返ってみれば、なかなか豊作に恵まれた年だった気がします。個人的に、今年見て心に残った10本をご紹介したいと思います。

DUNE デューン 砂の惑星

ドゥニ・ビルヌーブは、本当に凄い映画監督だと思います。「ブレードランナー 2049」もそうでしたけど、インディーズ映画のトーン&マナーで、超ビッグバジェットの大作アクションを撮って、きちんと大ヒットに導いている、作家性とビジネス面の両方を兼ね備えた類い希なる才能だと。かつて、デビッド・リンチは「砂の惑星」で失敗しました。作家性は存分に発揮しましたが、ビジネス面では惨敗だった。「DUNE デューン 砂の惑星」は、アカデミー賞の作品賞候補になる類の作品にして、全世界で4億ドルも稼いでいるという文句なしの一本。

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「アメリカン・ユートピア」

これを見て、学生の頃「ストップ・メイキング・センス」を見て興奮した思い出が、つい昨日のように蘇りました。「ストップ・メイキング・センス2021」と言ってもいい本作は、楽器がコードレスになっていて、マーチングバンドのように舞台上を動き回ります。スパイク・リーによる撮影は、舞台上で撮影しているはずのカメラマンの姿を、一度も登場させないという離れ業も見せてくれました。デビッド・バーンは、私よりも年長なのに、あんなにタフに動き回って凄いなあって感心しきり。ニューヨークでこのステージを生で見るのが私の来年の目標です。

「プロミシング・ヤング・ウーマン」

今年のアカデミー賞作品賞候補作の中では、個人的にもっとも押したかった一本です。#MeToo 以降のハリウッドで、セクシャルな演出がこんなに際どく描けるのかと感心しましたが、監督が女性だと聞いて納得しました。クロエ・ジャオに監督賞は譲りましたが、エメラルド・フェネル監督もまたオスカー候補になりました。2020〜2021年年は「女性監督の時代」が現出した感があります。フェネル監督の次回作がめちゃめちゃ楽しみです。

「ONODA 一万夜を越えて」

私が中学生の頃、小野田寛郎さんの帰還は連日ワイドショー案件でした。その前に帰還した横井庄一さんが憔悴しきっていたのに比べ、小野田さんは元気な姿で帰ってきたので、鮮明に覚えています。しかし、現地(フィリピンのルバング島)でどんな暮らしをしていたのか、映像化されたのは今回が初めてだと思います。それをフランス人監督が撮っているのが衝撃的ですね。「東洋の魔女」もフランス人監督ですし。何か、フランスで日本の昔の案件を映画化するムーブメントが起こっているんでしょうか。

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ドライブ・マイ・カー

いま、濱口竜介監督がビンビン来てますね。「偶然と想像」もベルリン映画祭で受賞していますし、さながら「NEXT是枝裕和」みたいな雰囲気でヨーロッパの映画祭を席巻しています。「ドライブ・マイ・カー」は、西島秀俊も良かったですが、助演の人たちがみんな素晴らしかった。ロケーションもなかなか良かった。あの赤い車は、私が輸入車セールスマン時代に扱っていたSAAB 900ターボというスウェーデンの車で、個人的にもめちゃめちゃ懐かしかった。

「マトリックス・レザレクションズ」

これは、製作決定のニュースを聞いたときは「嫌な予感」しかなかったのですが、予告編を見てから楽しみにしていました。内容的にも、個人的には大満足で、キアヌ・リーブスキャリー=アン・モスにとっても非常に有意義だったと思います。「モーダル」の意味が分からないって感想をよく聞きますが、「マトリックス世界をゴルフ場だとすると、その近隣にある打ちっぱなし練習場がモーダルだ」って例えでどうですかね。

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「SLEEP マックス・リヒターからの招待状」

ここからは、ドキュメンタリーを4本。まず、マックス・リヒターは、ドゥニ・ビルヌーブ監督の「メッセージ」で彼のアルバム「ブルー・ノートブック」の曲が印象的に使われているところからチェックしていました。本作で、彼の創作のスタンスや方法について知ることができて、非常に共感を覚えるとともに、生のコンサートを聴きに行きたいと強く思うようになりました。この映画を見た日から、私はSpotifyで「SLEEP」を聞きながら就寝する習慣になって、もう1年近く続いています。

ダ・ヴィンチは誰に微笑む

クリストファー・ノーラン監督の「TENET テネット」に、オスロ空港の保税エリアで高級美術品が大量に保管されているというエピソードが出てきますが、「ダ・ヴィンチは誰に微笑む」では、実際にそこに絵画を保管して、ディールしている人たちが登場します。ダ・ビンチの「サルバトール・ムンディ」にしても、売買に関わった人たちがみんな実名で登場するのは画期的です。超高級美術品の売買で暴利を貪る怪しい人たちや、世界屈指の大富豪たちが、みんな実名なんですよ。ちょっと興奮しましたね。

「リル・バック ストリートから世界へ」

ヨーヨー・マがネットで「The Swan(瀕死の白鳥)」を踊っているリル・バックの動画を発見 → 自宅のパーティーに呼んで「The Swan」を踊ってもらう → パーティーに来ていたスパイク・ジョーンズがそれを撮影してYouTubeに放流 → Buzzってオファー殺到 という、ネット時代のサクセスストーリーです。しかも、メンフィスのストリートで踊ってたんですよ、元々は。個人的に、大好きなストーリーでした。リル・バックも生で見たいアーティストです。

「素晴らしき、きのこの世界」

子どもの頃、父に連れられて山にキノコを採りに行ってました。だから、小さいころからキノコが大好きで、この映画も興味津々で見ました。映像的には、まず、タイムラプス撮影が半端ないですね。もの凄いタイムラプス職人がスタッフにいますよね。あと、キノコ博士のポール・スタメッツも尋常じゃないキノコ愛を見せています。映画に登場するジャーナリストのマイケル・ポーランが監修したドキュメンタリー「Cooked: 人間は料理をする」は、NETFLIXで見ることができます。

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以上、あくまで個人的な「今年の10本」の紹介でした。最近はドキュメンタリーを見ることが多いので、「アメリカン・ユートピア」も含め10本中5本がドキュメンタリーになっているのは我ながら驚いています。あと、日本映画が1本しかなかったのはちょっと残念。私自身、日本映画をたくさん見る機会を作れなかったことが原因です。

2022年も、素晴らしい映画にたくさん出合えることでしょう。そして、いよいよ海外の映画祭に出かけられそうな予感がしてきました。来年の渡航が、今からとても楽しみです。

筆者紹介

駒井尚文のコラム

駒井尚文(こまいなおふみ)。1962年青森県生まれ。東京外国語大学ロシヤ語学科中退。映画宣伝マンを経て、97年にガイエ(旧デジタルプラス)を設立。以後映画関連のWebサイトを製作したり、映画情報を発信したりが生業となる。98年に映画.comを立ち上げ、後に法人化。現在まで編集長を務める。

Twitter:@komainaofumi

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