コラム:若林ゆり 舞台.com - 第77回

2019年4月8日更新

若林ゆり 舞台.com

第76回:「ハムレット」という大役を得て悩める岡田将生の成長と色気に期待!

岡田将生は混乱し、悩んでいた。彼がこれから挑むのは、言わずと知れたシェイクスピアの名作「ハムレット」のタイトルロール。満を持しての挑戦である。何といっても初舞台だった「皆既食ーTotal Eclipseー」(映画版「太陽と月に背いて」ではレオナルド・ディカプリオが演じたランボー役)のとき、演出家だった蜷川幸雄に「君とシェイクスピアがやりたい」と言われてからもう5年。岡田自身も「いつかはきっとシェイクスピア作品を」と思い続けていたというのに、どうして悩んでいるのだろう?

「やりたいという気持ちはあったんです。でも『絶対やらないだろうな』というのと、『やりたい』って思う気持ちとがずっとせめぎあっていました。やはりシェイクスピアって生半可な気持ちで手を出してはいけない作品だし、中途半端に手を出すと痛い目に遭うと思っていたので。最初、『ハムレット』を、と言われたときは、泣きそうになるくらい嬉しかったです。申し訳なさもあったんですけど(笑)、やれる自信も少しありました。いままで4本の舞台をやってきたなかで、僕は舞台というものにすごく敬意を持っているんです。舞台に立った者にしかわからない喜びと悔しさがあると感じているので。この『ハムレット』に関しては、どうしてもやりたいという気持ちを抑えられなくて手を出しましたが(笑)、できなかったら役者をやめるくらいの覚悟でやらないといけないですよね。先輩方やインタビューをしてくださる方たちの反応からも、ことの重大さをひしひしと感じているんですが、もう、ちょっと混乱しているんです」

撮影:若林ゆり ヘアメイク:FUJIU JIMI スタイリスト:大石裕介 コート¥9200 Tシャツ¥17000 パンツ¥29000(すべてScye)
撮影:若林ゆり ヘアメイク:FUJIU JIMI スタイリスト:大石裕介 コート¥9200 Tシャツ¥17000 パンツ¥29000(すべてScye)

この取材時は、まだ稽古に入る前。戯曲を読み、演出家サイモン・ゴドウィンのワークショップを受け、取材陣から作品に対する思い入れたっぷりの質問攻めに遭う日々の中で「作品やハムレットという人間の魅力がどこにあるのか、わからくなってきちゃいました」と正直に明かす岡田。まだ前に進めない状態で考えすぎ、プレッシャーを感じすぎて、ちょっと煮詰まり気味だったよう。

「それだけ『ハムレット』が愛されていて、何度も見たくなるような芝居なんだと思います。稽古場に入るまでにいろいろ考えて、この作品と向き合うのがいかに大変かを知ることができているから、いまは本当にいい時間なんです。でもこれが長いこと続くとキツいかもしれない(笑)。ハムレットは激しくもあり繊細であり、いま生きている人にはいないような、熱いものを持っている人だと思っていて。それはどこか僕自身が持っている部分でもあるんです。今回、『ハムレット』をやりたいと思った理由はそこなんです。でも、読めば読むほどわからなくなってきて(笑)。ハムレットって熱は持っているんだけど、一瞬にして冷めるものも持っていると思うんです。彼が何者なのかは、稽古場で見つけていきたいですね」

画像2

悩める岡田将生だが、ハムレットは悩みの中にいるような役。これほどピッタリな配役もないと思えて、ゾクゾクさせられる。岡田にとっては「どう演じるべきか」という悩みも尽きない様子だ。

「圧倒的なセリフ量なんですが、言葉の連なる部分がすごく面白いんです。リズムもいいんですけど、僕としてはそのリズムに重きを置きたくないなと。リズムに乗ってセリフを言ってしまうと、結局誰がやっても同じものになってしまう気がして。役者が自分に酔った芝居をしてしまうと気持ち悪く見えてしまうんじゃないか、もっと客観性をもってやらなければいけないんじゃないか。気持ちいいままやってしまうのは嫌だな、と感じているんです。でも、すごく酔えるし酔いたくなる役で。酔えないとできない役でもあって(笑)。恐いですね。稽古場で自分が苦しんでいる姿が思い浮かびます。人を寄せ付けないくらい、ずっと下を向いているんだろうな(笑)。でも、それがハムレットにつながっていく気もしています」

こんなにまっすぐな岡田だから、先輩方も放っておけないのはよくわかる。先日は吉田鋼太郎が演出した「ヘンリー五世」を観劇して勇気をもらい、吉田と「ハムレット」について熱く語り合ったそう。

「先輩方に『おまえ、ハムレットできるのか? ナメてかかるなよ』ってハッパをかけられる度に、胸が苦しくなるというか、締めつけられるんです。日本一シェイクスピアを知っていらっしゃる鋼太郎さんがシェイクスピアの話をする中で『おまえ、なんでだかわかるか? 俺もわからない!』っておっしゃる(笑)。鋼太郎さんがそうなら、僕もわからないはずですよね。それがわかって少しホッとしました(笑)」

筆者紹介

若林ゆりのコラム

若林ゆり(わかばやし・ゆり)。映画ジャーナリスト。タランティーノとはマブダチ。「ブラピ」の通称を発明した張本人でもある。「BRUTUS」「GINZA」「ぴあ」等で執筆中。

Twitter:@qtyuriwaka

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