加納実紀代 : ウィキペディア(Wikipedia)

加納 実紀代(かのう みきよ、1940年7月17日 - 2019年2月22日)は、日本の女性史研究家。女性史研究のパイオニアの一人とされる。

略歴

日本統治下の京城府(現:ソウル特別市)の陸軍官舎で生まれる。陸軍軍人の父の転勤で国内へ戻り、1944年に広島市に移住する。1945年8月6日に原子爆弾に被爆し、父は遺骨も残らず亡くなる。母の実家近くの香川県善通寺市で育つ。

1963年京都大学文学部史学科卒。中央公論社勤務、1968年退社、研究者となる。

1976年、戦時女性史の研究会「女たちの現在(いま)を問う会」を立ち上げ、11月3日にミニコミ『銃後史ノート』を創刊する。創刊号から3号までは手作りで200~300部の発行だった。途中から商業出版社が関わり、数千部が発行された。1985年8月発行の第10号(=復刊7号)特集「女たちの戦後・その原点」で戦前篇が完結したのを機に、1985年度第5回山川菊栄賞を受賞した『現代日本人名録』2002。その後も戦後篇に取り組み、1996年7月発行の『全共闘からリブへ 銃後史ノート戦後篇8 68・1〜75・12』に至るまで、20年がかりで「銃後史ノート」全18号を刊行した。

1996年6月27日、文部省は翌年度用中学校社会科教科書の検定結果を公表。従軍慰安婦について記述した7冊すべてが合格した。同年12月2日、藤岡信勝、西尾幹二、小林よしのりらは「新しい歴史教科書をつくる会」(略称:つくる会)の結成記者会見を開催。「この度の文部省の教科書検定は安易な自己悪逆史観のたどりついた一つの帰結だ」との声明を発表し、文部大臣に対し記述削除を要求すると述べた『毎日新聞』1996年12月3日付大阪朝刊、社会、27面、「『従軍慰安婦強制連行』削除を 歴史教科書でもゴーマニズム宣言 書き直しを陳情」。「会創設にあたっての声明を出した同会呼びかけ人(一九九六年十二月二日)声明文」 『西尾幹二全集 第17巻』国書刊行会、2018年12月25日。。同年12月15日、加納、鈴木裕子、川田文子、金富子、石川逸子、森川万智子ら8人の女性は、「つくる会」結成に言論界・経済界から78人が賛同者として名を連ねたことを重く見、「『新しい歴史教科書をつくる会』に抗議する女たちの緊急アピール」と題する声明を作成した。1997年1月15日、総勢56人の連名による「女たちの緊急アピール」を、つくる会の呼びかけ人9人と賛同者78人に郵送した。また、雑誌等にも掲載した「『新しい歴史教科書をつくる会』に抗議する女たちの緊急アピール」 『国民文化』1997年1月号、国民文化会議、14頁。。

2002年4月から2011年3月まで新潟県新発田市にある敬和学園大学で特任教授を務めた。研究・執筆・講演などの活動とのバランスをとるため、限られた授業数のみ担当する特任教授の勤務条件が適しており、若者たちに日本の近現代史を通して日本の現在と行く末を考えてほしいという願いもあって、日本近現代史を担当していた田中利幸の後任者として着任した。「日本史概説」「歴史学」やゼミを受け持ったほか、「敬和学園大学 戦争とジェンダー表象研究会」を立ち上げ、共同研究の成果を西洋史学会やジェンダー史学会で発表した。一般市民向けのシンポジウムを重視して若桑みどりや上野千鶴子を招いて講演会やシンポジウムを開催し、地元の女性史研究グループの活動も支援した。

定年退職後はフリーとなって女性史・ジェンダー史の研究を続けたが、持病の肺気腫が進み、酸素吸入が必要となった。2018年5月にすい臓がんとの診断を受け、闘病しながら、1980年以降に書いた文章をまとめた『「銃後史」をあるく』を同年11月に刊行した。

2019年2月22日、すい臓がんのため死去。享年78。葬儀は本人の遺志により行われなかった。

著書

単著

    • 増補新版、インパクト出版会、1995年、ISBN 4-7554-0050-3。
    • 増補新版 新装版、インパクト出版会、2019年、ISBN 978-4-7554-0295-1。

共編著

銃後史ノート
  • - 創刊号から第3号の合冊
  • - 初版発行1980年
編著
共著
  • 「“神の子”逸枝の死と再生」加納実紀代著、「解説 高群逸枝と皇国史観」加納実紀代著
  • 「屹立する精神」加納実紀代著(p259-278)
  • 「天皇制と表現民衆の生活史の中から」加納実紀代著(p152-181)
  • 「女性解放と天皇制」加納実紀代著(p223-240)
  • 「軍隊内男女平等と自己決定権」加納実紀代著(p99-106)
  • 「『母性』の誕生と天皇制」加納実紀代著(p56-61)
  • 『天皇ヒロヒトの戦争責任・戦後責任』(アジア民衆法廷ブックレット 連続の記録)山田朗共著、アジアに対する戦争責任を問う民衆法廷準備会編、樹花舎 1995
  • 「売春は『悪』か」加納実紀代著(p5-22)
  • 「女がヒロシマを語るということ」加納実紀代著(p226-243)
  • 「母性主義とナショナリズム」加納実紀代著(p189-216)
  • 「落ち目の経済大国のいらだち」加納実紀代著(p24-37)
  • 「現代生活と婦人」加納実紀代著(p125-136)、「女の立場から」加納実紀代著(p137-142)
  • 「日本国天皇の像をジェンダーで読む」加納実紀代著(p81-98)
  • 「プラクティカルなファシズム」加納実紀代著(p124-139)
  • 「『大東亜共栄圏』の女たち」加納実紀代著(p88-103)
  • 「リアル『戦争への道』」加納実紀代著(p147-168)
  • 「『お国のため』に死ぬことと産むことと」加納実紀代著(p89-126)
  • 「『魂たち』の海」加納実紀代対談(p241-270)
    • 「『魂たち』の海」(p494-521)
  • 「主婦は長期契約の売春婦?」加納実紀代著(p12-23)
  • 「母性天皇制とファシズム」加納実紀代著(p283-307)
  • 小泉郁子と『帝国のフェミニズム』」加納実紀代著(p241-291)
  • 「フェミニズムと暴力」上野千鶴子、加納実紀代対談(p4-56)、「交錯する性・階級・民族」加納実紀代著(p248-271)
  • 「白の軍団『国防婦人会』」加納実紀代著(p3-17)
  • 1940年興亜日本社の復刻、岩淵宏子、長谷川啓監修、加納実紀代解説
  • 「の地平がひらくもの」加納実紀代著(p332-361)
  • 「ジェンダーフリー・バッシングと『日本の伝統』」加納実紀代著(p255-263)
  • 「男女共同参画小説を読む -「岬美由紀」、「音道貴子」を中心に-」加納実紀代著(p344-364)
  • 「の女性と植民地主義」加納実紀代著(p167-191)
  • 「『混血児』問題と単一民族神話の生成」加納実紀代著(p213-260)
  • 「日・独・米女性の戦時活動 -国際比較にむけて-」加納実紀代著(p8-22)、「まとめにかえて -ジェンダーで見る三国の戦時女性表象-」加納実紀代著(p110-113)
  • 「『日本人妻』という問題 -韓国家父長制との関連で-」加納実紀代著(p256-266)
  • 「『母性』の誕生と天皇制 -母性概念をめぐって-」加納実紀代著(p68-73)
  • 「をひらく」加納実紀代著(p1-24)、「国防婦人会、その幻想の性 -元気な銃後の女たち-」加納実紀代著(p171-182)
  • 「とのいる風景」加納実紀代著(p81-99)
  • 「市川房枝 -『帝国のフェミニズム』の陥穽-」加納実紀代著(p180-197)
  • 「『銃後の女性』の戦争責任を問う」加納実紀代述(p99-112)
  • 「『小国』に腰を据える」加納実紀代著(p148-152)
  • 「立つ瀬がない -被害/加害の二重性を超える-」加納実紀代著(p399-420)
  • 「『帝国の慰安婦』と『帝国の母』と」加納実紀代著(p193-212)
  • 「加納実紀代」加納実紀代述(p278-299)
  • 加納実紀代の講演記録を掲載
  • 「『平和』表象としての鳩と折鶴 -二〇一八年一一月一七日・『を歩く』出版記念会講演-」加納実紀代述(p84-102)

関連文献

  • 「加納実紀代『女たちの』」古久保さくら著(p514-524)
  • 「ブックガイド 加納実紀代著『ヒロシマとフクシマのあいだ-ジェンダーの視点から』」河口尚子著(p258-260)
  • 「『ヒロシマとフクシマのあいだ』(加納実紀代著)」相川美恵子著(p125-130)
  • 「加納実紀代さんを送る -追悼-」池田浩士著(p110-111)

注釈

出典

外部リンク

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