「オッペンハイマー」の映画的価値は? 原田眞人監督&森達也監督が解説

2024年4月8日 13:00


原田眞人監督と森達也監督
原田眞人監督と森達也監督

第96回アカデミー賞で作品賞を含む7部門を受賞した映画「オッペンハイマー」の公開記念トークイベントが4月6日、都内で開催され、映画監督の原田眞人森達也が登壇し、作品の魅力について語った。

本作は、「ダークナイト」「TENET テネット」などを世に送り出してきたクリストファー・ノーラン監督が、原子爆弾の開発に成功したアメリカの物理学者であるロバート・オッペンハイマーの人生を描いた伝記物語。2006年ピュリッツァー賞を受賞した、カイ・バードマーティン・J・シャーウィンによるノンフィクション「『原爆の父』と呼ばれた男の栄光と悲劇」を元にオッペンハイマーの栄光と挫折、苦悩や葛藤を描く。

映画を鑑賞したという原田監督は「この作品を観て『市民ケーン』を思い出したんです」と語り始めると、「1962年の『アラビアのロレンス』、1981年の『レッズ』、1987年の『ラストエンペラー』、そして2004年の『アビエイター』。これらの作品は全部歴史上に名を残した人の栄光と挫折を描いて、一大スペクタクルにした映画なのですが、『オッペンハイマー』はその系列に属しているなかでも最高峰の1本だと思っています」と絶賛する。

一方、「福田村事件」などを手掛けた森監督は「とても手応えのある作品」と評価すると、本作が広島や長崎に原爆が落とされた描写を映画の中に入れていないという一部の批判に対して「ずっと腑に落ちなかった。映画を観て改めて思ったのですが、しっかりと描かれている。映画には間接話法と直接話法がある。直接的に描けばいいものではなく、この映画はものすごく強烈な反戦映画になっていると思う」と断言する。

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原田監督は「原爆の被害に関しては三部作にするべきなんです」と語ると「原爆を作った側のロスアラモス研究所を中心とした話、それから広島や長崎の被災地の惨状、そしてもう一つはポツダム会談のこと。日本人は誤解しがちなのですが、日本の降伏を巡る論議という分科会で行われていたことで、メインの会場では一度も論議されていないんです。メインの会場で論議されていたのは、ポーランドの分割や、スターリンがイタリアをよこせと言ったことに対するやり取りがあっただけ。そういったポツダムの惨状を描く必要がある」と持論を展開する。

そのなかで原田監督は「僕自身、広島の惨状というものは『日本のいちばん長い日』のときに、原爆投下したシーンはワンカットしかいれられなかった。そのことを広島市民に『原田さんは原爆のことを描く気はないんですか』と言われて、コロナ禍の最中、一生懸命資料を読み込んで、広島の原爆投下を中心にした1カ月の話の脚本を書いたんです」と事実を明かす。

だからこそ原田監督は「オッペンハイマー」を観る前に「中途半端に広島に踏み込んでくれなければいいな」と思ったという。しかし映画を観て「広島に対する彼の罪の意識はしっかり描かれている」と評価すると「『我々は世界の破壊者になった』というアインシュタインと、彼を引き継いだオッペンハイマーの二人のチェンジアクションを完璧に描いている。そこに僕は胸を打たれました」と語っていた。

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原田監督が構想する三部作のひとつ。自身がすでに脚本まで書いているというが「もちろんやりたいですが、日本のお金だけではできない。原爆の被害者は日本人だけではなく、米軍捕虜もいれば、朝鮮人もいた。東南アジアの留学生もいたし、ペドロ・アルペさんという素晴らしいスペイン人の神父さんもいました。こうした人たちをすべてタペストリーとして描く広島の被爆映画。30億、40億というお金がかかる。でも『オッペンハイマー』が道を開いてくれたので、いつかこの映画を作るぞという気持ちになっています」と胸の内を明かしていた。

映画を観て改めて「ノーランは天才」と語った森監督。しかし一方で「天才ではあるけれど、相当乱暴です」と笑うと「『テネット』はいまだに最後まで観られない。何がなんだか分からないから。ノーランというのはそういうところがありますよね。映画に説明過多は必要ないと言いましたが、もう少し説明したら……というところがある。客を置いていってしまう。この映画にもそういうところがありますよね。天才ゆえなのかな。羨ましいですね、周りを気にせずにできるのが」と発言し会場を笑わせていた。

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最後に森監督は「以前から核抑止なんてありえないと思っていたけれど、プーチンが核兵器の使用をほのめかしたとき、核抑止理論は崩壊したと思う。それでも日本はいまだに核兵器禁止条約に批准すらできない。核保有国は矛盾するので分かりますが、日本は唯一の被爆国で核を保有していない。この映画で広島や長崎の描写が足りないと怒っている意見がありますが、何で核兵器を禁止しましょうという条約に日本が調印できないのかという疑問に対して声をあげるべきだと思います」とメッセージを送っていた。

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