濃いカリスマ、北村一輝が初のミュージカルとなる名作「王様と私」で「人生を変える」挑戦!【若林ゆり 舞台.com】

2024年4月8日 10:00


「観た人の人生を変える、自分の人生も変える、くらいの作品にしようと本気で挑んでいます」
「観た人の人生を変える、自分の人生も変える、くらいの作品にしようと本気で挑んでいます」

北村一輝が、ミュージカル「王様と私」の王になる! これはミュージカルファンのみならず、映画ファンにとっても驚きとともに「納得!」の配役なのではないだろうか。「王様と私」は1860年代にシャム(現タイ)の王室付き家庭教師を務めた英国人女性の半生を描いた、マーガレット・ランドンの伝記小説を原作とするブロードウェイ・ミュージカル。「サウンド・オブ・ミュージック」のリチャード・ロジャースオスカー・ハマースタイン2世の代表作だ。女優のガートルード・ローレンスのために書かれたが、助演のはずの王役、ユル・ブリンナーが圧倒的なカリスマ性を発揮して大ブレイク。1956年の映画版も大ヒットした、掛け値無しの名作だ。

日本では市川染五郎(後に松本幸四郎、現・二代目松本白鸚)が王様役として、65年の初演より長らく上演を重ね、東宝ミュージカルの代表作に。2015年には本場ブロードウェイでの公演に渡辺謙ケリー・オハラと主演し、ロンドン・日本公演でも喝采を浴びた。

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この歴史ある、絶対的な求心力を必要とする役を誰ならできるのか。そう考えたとき、北村一輝の名が挙がるのは必然だろう。だが、北村はミュージカル未経験。最初にオファーが来たときは「『無理です』と、即、お断りしました」という。

「その後も熱心に口説いていただいたのですが、渋りましたね。悩んだなんてものじゃない。ミュージカルはやはり、歌がものすごく重要だと思いますし。そこが壁でした。他人様の前でお金を頂戴していいのか。自分なら観たいと言えるのか。それでも決断したのは、口説いてくれたプロデューサーが旧知の方で、20代の頃に声楽を習って発表会をしたときに、一緒に歌った仲間だったということ。そのときの声を覚えてくださっていて『絶対にできます』と言うので、その言葉に乗ってしまおう、と覚悟をきめました」

やると決めたからには「最高のものをお見せする」ため努力は惜しまない。それが北村の、プロとしての矜恃だ。これまでも「今夜、ロマンス劇場で」の俊藤龍之介役や、「地球ゴージャス」の舞台「ささやき色のあの日たち」などでミュージカルっぽい歌も披露し、歌唱力は証明済みだが、「それは本格的ミュージカルじゃないから」。目指すハードルを高く置き、毎日「カラオケ行こ!」を実践しているそう。

「昨年の夏に返事をしたとき『とにかくすぐにボイストレーニングを始めさせてください』とお願いして、できる限り通っています。レッスンに行けない日も毎日ひとりでカラオケボックスに行っています。この頃は、『レ・ミゼラブル』と『オペラ座の怪人』をたくさん歌います。そういう作品で主演される方は、もう最初のワンフレーズだけで全然違うじゃないですか。だからもう、ここを目指さないと。本格ミュージカルとしての歌からいかないとだめだと思っていて。毎日やっているのは、腹筋と喉の筋肉を使って毎日歌うことが大事だと声楽の先生に言われたからです。どこまで伸びるかわからないですけど、やってみせます(ニヤリ)。できるかできないかというより、もう『うまいから聞きに来てくださいね』と強気で言って、自分の首絞めてやるぐらいじゃないといけないなと思っています」

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幼い頃から映画が大好きで映画を観まくり、映画俳優になるためにあらゆる努力をしてきたという北村。根っからの映画人を自負するだけに、これまで舞台に対しては「自分の居場所じゃない」というアウェイ感がぬぐえなかったという。

「これまでに何度も舞台はやらせていただいていますし、稽古場で役を掘り下げていくという過程ではもちろん学ぶことも多かったから、いい経験になったと思っています。でも、映画をやっているときほど自信がもてないままだったり、自分の立ち位置を探っているうちに終わってしまったりということもありました。でも今回は、作品づくりを楽しめている自分がいて、自分でもちょっとびっくりしています(笑)」

ミュージカルを観るのは好きで、よく行っているという。

「ハマったのは映画です。若い頃に『ウエストサイド・ストーリー』や『サウンド・オブ・ミュージック』、『グリース』などが大好きで、何度も観ました。そのうち舞台も観に行くようになって。ニューヨークで『レ・ミゼラブル』も観ました。やはりミュージカルは、歌の力が命だと思いますね。感情の波動を伝える力が強い。そこが好きなところです。だからこそ、自分がやるとは想像もしていませんでしたね」

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アンナを演じるのは、元宝塚トップスターの明日海りお。彼女の目に映る王は、尊大で時代錯誤な価値観の持ち主で頑固なのだけれど、勉強家で努力家で、公正な判断力も俯瞰力もあり、子どもっぽい純粋さをも持ち合わせている。実にチャーミングな人物だ。

「『パズルメント』という曲で王が歌っているように、すごく重大な決断を迫られる状況の中で、彼なりの苦悩がありますよね。子どもたちに英語の教育を受けさせなくてはならないというのは、なぜなのか。そのあたりは作品の中で描かれていませんが、それは彼が時代の変化を感じていて『これからは違うぞ』と考えているからだと。すべての行動に『なぜ、なぜ?』という思考があると考えると、いろんな感情が出てくるなと思っています。王は頑固にも見えますが、国民のため、国のためにこの先どうすべきなのか。王は王でいなければならないし、先祖の代からやってきたことをいまどうすべきか迷いながらも、弱いところは見せられない。僕の捉え方では頑固と言うより、愛情ゆえに苦悩している人間だと感じています」

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アンナと王は正反対に見えてウマが合うのは、「愛ゆえに苦悩している」部分が似ているからだ。

「アンナが来てお互いにぶつかりますが、その裏側に愛情があるというのは、立場やキャラクターが似ていると気づいてお互いを理解するようになるからですよね。彼女は異国の地で、息子を守らなきゃいけない。母親としてすごく強い愛情があるし、家を得るために闘い続けるのは頑固というより愛だと思います。愛ゆえに頑固にならざるを得ない、それをお互いに気づいて、双方を理解していく。アンナの人間的な大きな愛情とやさしさが、時に王を素直にさせて、アンナとの距離を急接近させるのではないか。その過程もわかりやすく出していきたいと思っています」

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今回は演出家・小林香が翻訳・訳詞を書き直し、演出をリニューアルすることも、北村のモチベーションに火をつけた。本作は70年以上前につくられただけに、古く見えかねない部分があったが、「新しい時代のフィルターを通して」(小林)刷新するという。

「王は、国を取り巻く環境や価値観がものすごいスピードで激変する時代にあって『どう変わっていくべきなのか、変わらずにいるべきなのか』と悩むわけですよね。この状況は、いまの日本ともすごく似ていると思います。いまはコンプライアンスが問題になって、いままでは当たり前だった価値観が『ノー』と言われる時代。何がよくて何が断罪されるんだかわからなくて混乱するし、王の悩みに共感できる点がたくさんあると思う。だからこそ、いま上演する意味がすごく大きいと思います」

「作品づくりにおいても、何でも新しくするのが一概にいいとは言えませんが、やはりいまだからこそできる、いますべき表現というのがあると思うんです。たとえば僕はミュージカルで歌を聞いていると、よくわからないところが出てくることがあります。聞いていて区切り目がおかしかったり、普段使わないような言葉を歌っていたりするのを聞いて『んん?』ということがよくある。それはやはり苦手だなと。もちろん英語で作っているから日本語に当てるのが難しいのもわかりますが、和訳するときは上面を訳すのではなく、その歌詞が何を言いたいのかという部分が大事ですよね。それは小林さんとお話した中でも共通認識だったので、小林さんの感覚で違和感がないように作っていただいて、その言葉で自分がミュージカルの力を示したいと思っています」

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こだわっているのは、「感情をいかに伝えるか」ということ。ミュージカルに偏見をもっている人たちの考えを変えたい、と意気込む。

「やはりミュージカルといえども、僕は芝居を見せたいですね。もちろん歌もダンスもプロのレベルでできて、初めてそう言えると思っています。『ミュージカルは急に歌い出すから違和感がある』という方もいるじゃないですか。そういう人たちに『あれ、全然違和感なかった、ミュージカルってこんなに楽しいんだ、感動できるんだ!』と思わせたい。王のいろいろな感情を、いままでにないほど深く濃く、お客様に感じてほしいなと思っています」

「王の苦悩という部分では、セリフや歌詞をどういうふうに僕が言う(歌う)かで変わるとも思っていて。たとえばいままで演じてこられた方々が強く歌っているところも、僕は『ここは弱くしよう』と思っていたりしますし。ユル・ブリンナーから日本でも松本白鸚さん、松平健さん、高嶋政宏さん、渡辺謙さんといろいろな人たちがいろいろな形で表現されてきた役ですが、その頑固さの裏側とかいろいろな部分が、もっとフィーチャーできるのではないかと思う部分があります」

「僕は台本をもらうと掘り下げて広げるということをよくするのですが、いまの時代から見て変えられるところは変えながら、もう少しこの本を深掘りする設計図を考えたとき、感情をデフォルメすることによってお客様に伝えられることがあるんじゃないか。僕は自分が『いい本だな、感動できるな』と思っているのは、今話したような登場人物たちの愛情深さだと思っているので、王の内なる愛情を強く押し出したいですね。これは僕にとって、俳優としての自分を進化させるチャンス。観た人の人生を変える、自分の人生も変える、くらいの作品にしようと本気で挑んでいます」

ミュージカル「王様と私」は4月9日~30日に東京・日生劇場で、5月4日~8日に大阪・梅田芸術劇場 メインホールで上演される。詳しい情報は公式サイト(https://www.tohostage.com/thekingandi/
で確認できる。

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撮影:若林ゆり

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