田中さくら監督が語る田辺・弁慶映画祭への思い、今後の展望「いろんな記憶も喪失も全て抱きしめて生きていきたい」

2024年3月1日 13:00


田中さくら監督
田中さくら監督

3月2日よりシアター・イメージフォーラムにて「田中さくら監督2作品同時上映“薄暮の旅路”」が公開される。昨年8月にテアトル新宿で開催された「田辺・弁慶映画祭セレクション2023」内で、3日間満席を記録。その反響を受けて単独公開が決定した注目の田中さくら監督に、上映作品である「夢見るペトロ」「いつもうしろに」や田辺・弁慶映画祭、そして今後の活動などについて聞いた。


――全編16ミリフィルムで撮影され、いくつもの選択と決断の中で、少しずつ前を向こうとする少女の“心の旅”を描いた「夢見るペトロ」。大学在学中に本作を制作しようと思った経緯や心情(意図)を教えてください。

田中監督(以下略) 脚本を書き始めたのは、大学4年の暮れでした。京都での大学生活は私の人生の中で一番密度の濃い時間だったので、「卒業」によって無慈悲におしまいにされてしまうことがなかなか受け入れられず……飼っていた犬が死んだこともあり、突然やってくる別れとか変化を受け入れたり、折り合いをつけることについてぐるぐると考えていたことがきっかけのようなものでした。

――作品で描かれている過去、幻想、現実とは?

「いま」は過去の集積で、過去も幻想も目に見えない触れられないものだけど、確実にいまに影響を及ぼすものとして、常にその存在を意識していたいです。過去の自分のありように今の自分が責任をとっていくことが未来の自分がどうなるかを決定していく、そういう意味では過去も今も未来も地続きというか、同じ重さと奥行きを持っているもののように思います。

「夢見るペトロ」
「夢見るペトロ」

――“映画”でどういった世界を表現したいと考えていましたか。

前の質問と続きますが、現実は、過去や幻想といった目に見えないものに左右されながら進んでいく時間だと思います(夢や無意識もそうです)。生々しい私たちの現実が、こういった目に見えないもの(時間・空間)に影響されながら形作られていることは、すごく、希望があると思うんです。その可能性というか、希望を持ちたいと考えながら作品と向き合っていました。

――過去や思い出たちとの“出会い直し”を描いた「いつもうしろに」。「田辺・弁慶映画祭セレクション2023」で併映作品として本作を撮ろうと思った心情(意図)を教えてください。

夢見るペトロ」と並ぶことで生まれる影響を考えながら、テーマ性や世界観に確かなつながりを感じられる作品にしようと思って「いつもうしろに」を書きました。劇場上映が決定した上での制作だったので、クオリティや画づくりなども劇場を意識しました。

――「夢見るペトロ」よりさらに作品のクオリティがあがった(映像が洗練された)ように感じました。準備、撮影の現場ではどのような変化があったでしょうか。

夢見るペトロ」では、“曖昧さについての曖昧な映画“というものを撮影の古屋幸一さんはじめ、仲間たちと探りながらつくり上げていった感覚がありましたが、「いつもうしろに」では、「夢見るペトロ」で掴んだ感覚をもう一度物語に落とし込むことでつくりあげていったという点が大きく異なると思います。また、制作体制も大きく変わっています。前作はいわゆる「学生映画」。大学のサークル仲間と撮った作品でした。サークルには専門知識を教えてくれる先生もいなかったので、撮影の古屋さん以外は私も含め全員映画づくりにおいて素人でした。「いつもうしろに」は初めて学校の外に出てつくった映画で、これからの日本映画を盛り上げる20代から30代の素晴らしい若手スタッフに参加していただきました。そういう意味では、技術的なところにおいても準備から現場に至るまでクオリティがあがったと思います。

「いつもうしろに」
「いつもうしろに」

――作品で描かれている喪失や記憶(思い出)とは?

「過去・幻想・現実」の質問と重なりますが、じっと見つめ、大切に抱えて生きていくべきものだと思います。「今」や「現実」はどうやっても過去とは切り離せないものだし、刹那的に生きる寂しさってあるなと思っていて。いろんなことがあるだろうし辛いし苦しいけど、誰一人同じ時間を過ごした人はいなくて、全部いまの自分を形づくるものだから、そうしたいろんな記憶も喪失も全て抱きしめて生きていきたいと思います。併映作品ということを前提につくった物語なので「喪失」や「変化を受け入れること」みたいなところで繋がりがあります。大切な人が去っていってしまう、いわば「捨てられる」主人公と、自ら大切だったものの元を去ってきた「捨てる」主人公という点では、二つの作品の主人公は対極にいるかもしれません。

――「田辺・弁慶映画祭」に参加して得たもの、また審査員特別賞と俳優賞を受賞したことで心境の変化などはあったのでしょうか。

サークルで映画を撮っていた頃は、誰かに映画を観てもらうという機会はほとんどなく、あるともしても一緒に作った仲間に作品を送って観ておいてもらう、という程度のものでした。映画祭に応募して、多くの人の目に触れるという経験は非常に新鮮でした。そのうえ、審査員特別賞・俳優賞というかたちで評価していただけて。大友啓史監督や俳優の磯村勇斗さんら特別審査員の方々から作品への言葉をいただきましたが、「物語や映画って伝わるんだ」と初めて実感しました。驚いて、あまりに嬉しくて、全身に鳥肌が立つような感じがしました。学生時代内向きにつくっていた映画を、今度は外向きにつくりたいとその時から思うようになりました。

画像4

――昨年劇場公開し、お客さんの反響を受けてどのように感じましたか。

テアトル新宿で3日間の上映期間をいただき、大変ありがたいことに全ての回が満席になりました。人生で一番多くの方に映画を観ていただいた機会で、たくさんのご感想もいただきました。特に若い方、同世代の方の作品に対する熱を感じました。自分に引き寄せて物語を受け取ってくれた人もたくさんいましたし、日々色々なことに心を忙しくしていると考えることもないような繊細で手に取りづらい記憶や感情について見つめてくれている人が多かった印象で、すごく嬉しかったです。やはり、映画は生み出した先にある相互作用にこそ醍醐味があるなと実感しました。

――現在長野在住ですが、今後の活動や目標について教えてください。

長野に住み始めて1年が経ちました。東京には2年ほど住んでいましたが、これまで住んだことのある静岡や京都にはない、やはり唯一無二の魅力があると思います。人が集まり、感情が生まれ、芸術が生まれる場所の熱気というものはすごいもので…。ただ、東京にはできないこと、地方にしかできないこと、それぞれあると思うので、どこにいても作品をつくることに変わりはありませんが、その場所その場所にちゃんと影響を受けながら今後も映画を撮り続けていきたいです。


田中さくら監督プロフィール】

1999年生まれ。同志社大学在学中に、自主映画サークルで映画を制作。卒業後、東京のテレビ番組制作会社でディレクターを務め、一昨年の第16回田辺・弁慶映画祭で「夢見るペトロ」が審査員特別賞と俳優賞(紗葉)の2冠を獲得。「田辺・弁慶映画祭セレクション2023」上映に合わせて新作短編「いつもうしろに」を制作した。なお、3月2日の公開初日に、キャストの大下ヒロト、紗葉、佐藤京二村仁弥在原貴生雪乃とともに登壇して舞台挨拶を行う。

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