山田洋次監督、「春江水暖」グー・シャオガン監督を激励「黒澤さんも感激したと思うよ」

2023年10月30日 22:11


山田洋次監督とグー・シャオガン監督
山田洋次監督とグー・シャオガン監督

開催中の第36回東京国際映画祭で10月30日、国際交流基金と東京国際映画祭の共催による「交流ラウンジ」で山田洋次監督とグー・シャオガン監督が対談した。

グー監督は、長編初監督作「春江水暖 しゅんこうすいだん」がデビュー作にして2019年カンヌ国際映画祭批評家週間のクロージング作品に選ばれるなど国際的に高い評価を受け、山田監督が選考委員を務める今年の第36回東京国際映画祭黒澤明賞を受賞した。

黒澤明賞授与の理由として「春江水暖 しゅんこうすいだん」により、「ヒューマニズムあふれる人間観察と流麗なカメラワークによって一つの大家族の姿を描き、中国映画界から新しい世代の監督たちが登場しつつあることを世界に知らしめた」と評されたグー監督。

山田監督は開口一番「こんな素晴らしい映画があるのかと、僕はびっくりしました。軽やかで温かくて気持ちが良い。褒めすぎかもしれませんが、モーツァルトの音楽を聴いているかのよう。どんな監督が、どのようなプロセスで作ったのか気になりました」と大絶賛した。

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そして、「どのようにこのカットを撮ったのか不思議なことがあった。是枝(裕和監督)君を通して、どのように撮ったか聞きました。監督に会いたいなと思ったら、上海国際映画祭でお会いできた。素敵な青年。またお会いできてよかった」と再会を喜ぶ。

グー監督は、新作「西湖畔に生きる」を第36回東京国際映画祭のコンペティション部門に出品している。「このような機会をいただき、東京国際映画祭、山田監督に感謝しています。今回新作のワールドプレミアと山田監督にお会いすることに緊張していました。2作目は1作目と全く違うタイプの作品なので、評価が気になり、上映日は、ずっと客席にいらっしゃった山田監督のことを見ていました。Q&Aでの一つ目の質問で、席を離れられたので、怒ってらっしゃったのかなと」と感謝と不安を口にする。

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上海国際映画祭で会話をしたというふたり。「あの時に『春江水暖』の続編を作りなさい、と話していたら時間が来てしまって。だから今日話さないと思って」と山田監督。新作「西湖畔に生きる」の感想を「Q&Aで席を立ったのは予定があったからです。『春江水暖』の続編のような映画かと思っていましたが、全然違ったのでびっくりしたのは事実です」と率直に答える。

新作についてグー監督は「製作の動機が全く違います。1作目は観客のことを忘れて撮ることが大事だと思っていました。2作目は真逆で、お客さんが楽しめるような、詐欺をテーマに、『春江水暖』を見ていない人も自分の映画に入れるよう考えた」と方向性の転換を明かす。「上海映画祭で、山田監督はコメディを撮るのは難しいとお話しになりました。山田監督はその芸術性でアート映画を作れますが、ずっと観客向けの映画を作ってきました。社会の現実と向き合っても、軽やかであたたかな作品を作られていることに感動し、今回観客に向き合い、自分の家族が見てもわかるような作品を作ったのです」と、芸術性の高い「春江水暖」とは異なる、大衆向けのテーマに挑戦した。

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そのコメントを受けて山田監督は「コメディか悲劇かを決めるのは、観客です。面白く笑える映画を作ろうと思っても、作れません。まずは人間を描くことが大事で、我々監督が予想もしないところで観客は笑ったりします。ここが面白いだろう、と思って演出するのではなく、面白いと思うところは観客が決めること」と持論を語る。

そして、「今度の映画は大スターや2枚目も出ていて、普通の映画の作り方に近くなりましたね」と評し、「『春江水暖』はプロの俳優は一人だけ、ほかの出演者は市民、彼の家族や親戚だということが驚くべきこと。ごく自然に自分たちの生活を表現して、それがきちんとしたドラマになっている不思議な物語。こういうスタイルで行こうと考えたのではなく、ごく自然にああなったのではないかな」とグー監督作を分析する。

さらに、「『春江水暖』にクローズアップはなかったですね。引いたショットで長回しで。日本でいえば溝口健二だな。ヨーロッパだとテオ・アンゲロプロス。僕は黒澤明さんと仲が良かったんだけど、彼はアンゲロプロスが好きだった。黒澤さんの映画とは全く違うんだけど、彼がアンゲロプロスが好きなのが面白かったですね」と、グー監督の作品は巨匠の味わいを持つと称える。

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「『春江水暖』チームが素敵だったので、続編がいくらでもできるのでは? そんな話を上海でしました。甥っ子が北京電影学院で勉強していて、その子が映画を作ったと大騒ぎする。そんな話で(笑)。そしたら、その甥っ子は大失敗するの。でも傷ついた家族たちはそ知らぬふりをしなければならない。そういう話を僕なら考えちゃう(笑)」と山田監督が考えた「春江水暖」続編案を語る。

山田監督のアイデアに、「山田監督が『春江水暖』のストーリーを語るとき、カンフーの達人が拳法を語られるようで感激しています」とグー監督。さらに、山田監督は「黒澤さんも夢中になるとそういう話をしていて、僕もいつもカンフーの名人を前にするように、彼の話を聞いていました。映画が完成すると、映画館で見ると自分が予想していなかったような匂いのようなもの、そんなものがスクリーンから流れてくると。黒澤さんはよく言っていた。つまり、監督の人柄が出ちゃうんだよ。あるいは出るような映画でなきゃいけないんだよ」と生前の黒澤監督から受けた薫陶を明かす。

グー監督は、黒澤明賞受賞が、実際に東京に来て確認するまで半信半疑だったそうだが、若い人に賞を与えたかったと山田監督。「黒澤さんは『春江水暖』が好きだと思う。感激したと思うよ。黒澤さんはそういう人だよ。黒澤さんはルーカスやスピルバーグに尊敬されているけれど、彼らの作品よりあなたの映画が好きだと思うよ」と激励すると、グー監督は感無量の面持ちで、山田監督に「ありがとうございます」と日本語で何度も感謝を伝えていた。

山田監督はグー監督の人柄と「春江水暖」をいたく気に入っているようで「彼が僕のスタッフだったらいいね。クリエイターとして頼りがいのある人間」「あの名作と寅さんを一緒にできない。寅さんは2年あれば5本くらい作れるけど。僕のほうが大分お粗末」とグー監督を恐縮させるほど。

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山田監督は、今後の活動を尋ねた中国メディアに、「僕は中国の人達がとても好きで、いつか中国の人たちが喜んでくれるような映画が作れればいいなと思います。みんなが一生懸命働く中で、仕事はできないけど、面白いことを言って人を元気づける人、一休みの際にいい歌を歌ったりして、勇気づける人がいる。映画製作もその延長で、そのために映画を作ったり音楽を作っている人がいると思う。中国には魯迅の阿Q正伝のような大先輩がいるから、中国の人も寅さんのような人を愛さないはずがない。グー監督にもそんな映画を作ってほしい」とメッセージを送ると、グー監督は「山田監督が『春江水暖』続編の話をするとき、寅さんの物語もこう考えたのかな、というような包容と愛を感じます。甥っ子役は私ですね。学校にいるときは宿題が嫌でしたが、こうやって皆さんの前でお話ししましたし、この宿題は完成させたいです。監督の新作も見たいです」と誓っていた。

第36回東京国際映画祭は、11月1日まで開催。

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