【「グランツーリスモ」評論】ブロムカンプ作品の基本型を崩さぬ、これぞ路上の「スター・ファイター」!!

2023年9月16日 13:30


「グランツーリスモ」
「グランツーリスモ」

フランチャイズに依存しきったSF大作群をよそに、オリジナルな同ジャンルと格闘してきたニール・ブロムカンプ。そんな独創性を旨とする監督にこそ、スタジオは積極的に投資すべきでは? なんて憤りをカジュアルな低予算スリラーだった前作「デモニック」(2021)を観ながら感じていたのだが、どうやらソニーピクチャーズは、この才能豊かな男を見限ってはいなかったようだ。

本作は2015年の「チャッピー」以来、最大級のキャンバスから遠ざかっていたブロムカンプの、捲土重来を告げるモータースポーツ映画だ。えらく方向性の違うネタに着手したなと思うだろうが、eスポーツの天才的プレイヤーがリアルレーシングの舞台に立つサクセスは、あまたのカーレースものにおいてハイテクノロジーな風趣に満ちている。日本でも下山天監督の「ALIVEHOON アライブフーン」(2022)が同テーマに挑んでるが、むしろ自分は本能的に、CGを導入した嚆矢の一本「スター・ファイター」(1984)が重なる。シューティングゲームの記録保持者が、宇宙戦争の兵士にスカウトされるSF映画だ。

そもそもこうしたモータースポーツ映画自体、バーチャルプロダクションとCGの併用により、今や実写と区別のつかない域へと到達している。それはゲームプレイヤーが本物のレースの世界に参入する、この映画のシームレスな設定に通ずるものと考えると面白い。

なによりブルーカラーな主人公がブルジョアに戦いを挑んでいくレボリューショナリーな作劇の構図も、ブロムカンプ作品の軸芯にある共通した哲学といえるだろう。ストーリーは事実に基づいているが、むせかえるようにエモーショナルな加工と視覚演出がほどこされ、そこもまた彼らしい。「ワイルド・スピード」シリーズのような先鋭化したカーアクションものを凌ぐにはどう手を打つべきか、この作品はそれを迷いなく主張している。

かつてF1の激走世界を描いた古典的名作「グラン・プリ」(1966)は、「観客がクラッチペダルを踏む態勢でスクリーンと対峙し続け、終映後は右足を引きずって劇場を出る」と評されたが、自分は2023年の現在、その賞賛を本作に冠したい。

(尾崎一男)

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