「STAND BY ME ドラえもん」中国配給を経て「雄獅少年」日本配給へ 注目の会社「OCE」が目指す未来とは【アジア映画コラム】

2023年6月13日 08:00


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北米と肩を並べるほどの産業規模となった中国映画市場。注目作が公開されるたび、驚天動地の興行収入をたたき出していますが、皆さんはその実態をしっかりと把握しているでしょうか? 中国最大のSNS「微博(ウェイボー)」のフォロワー数280万人を有する映画ジャーナリスト・徐昊辰(じょ・こうしん)さんに、同市場の“リアル”、そしてアジア映画関連の話題を語ってもらいます!


本コラムの第一回では、日本映画の中国展開が「STAND BY ME ドラえもん」の成功によって広がっていったという事実を紹介しました。同作を中国で配給したのは「Open culture entertainment」(以下「OCE」/正確には「OCE」の前身である「Orix China」が配給)という会社です。実は、この会社、現在では中国での日本映画の配給を担当するだけでなく、日本国内での中国映画配給の事業もスタートさせました。

同社が関わっているのが、2021年に中国で最も評価されたアニメ映画「雄獅少年 ライオン少年」(2021年・中国のソーシャル・カルチャー・サイト「Douban」中国アニメ映画部門・年間1位)。GAGA(ギャガ)、泰閣映畫、面白映画との共同配給で、日本公開を迎えました。

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今回は、上海にいる「OCE」の社長Samさん、日本オフィスの佐々木史朗さん&リャン・ジェンさんに、同社の歴史、日本における中国映画の事情&配給の背景について、詳しくお話を聞きました。


――まずは「OCE」設立の背景についてお聞かせください。

Sam:「Open culture entertainment」は、2019年12月に設立し、20年1月に正式にスタートしましたが、ちょうどその頃コロナも広がっていきました。ですが、日本映画の買付については、実は15年から既に行っています。当時、日本のシンエイ動画さまから、最初に買付したのが「STAND BY ME ドラえもん」。日本の大手制作会社やアニメ会社とは、かなり早い段階で非常に良い関係を築けたと感じています。

同社の前身はオリックスグループの中国本社です。オリックスが中国で設立した法人の一つである「オリックス(中国)投資有限公司」でした。そこに、私が所属する新規事業開発部という部署があり、そこで日本映画の買付がスタートしました。

15年、日本の映画会社は、中国の映画市場についてあまり知りませんでした。そこで、私たちは中国の映画市場における海外映画の買付や配給、特に経済的分野について、多くの時間をかけて研究し、日本側に丁寧に説明していきました。そうして、日本側の信頼を得ることができました。特に、今年で9年目を迎える「ドラえもん」シリーズや、5年目を迎える「名探偵コナン」シリーズといった大型IP映画の制作会社とは良好な関係を築けています。このような信頼関係から、業界内の評価も高まり、やがて事業部全体が完全に独立。現在の「OCE」が設立しました。

「OCE」社長Samさん
「OCE」社長Samさん

――「STAND BY ME ドラえもん」は、中国映画市場における日本映画の象徴的な1本です。同作の成功があったからこそ、その後、日本映画が中国市場で活躍するようになりました。

Sam:おかげさまで「STAND BY ME ドラえもん」の興行成績は、当初の成績を大きく上回る結果となりました。日本のライセンサー様も大変驚かれており、中国の映画市場におけるポテンシャルを実感されておられました。

そして「STAND BY ME ドラえもん」の公開を通して、中国の消費者が日本映画、特にアニメ映画に馴染みがあり“映画館に足を運んで 観たい”という気持ちが強いことを実感しました。2010年代以降、中国の映画市場は飛躍的に成長し、15年には全体の市場規模が凄まじい規模に発展しておりました。しかし、質の高い日本映画が市場にありませんでした。私たちは、日本映画の可能性を感じ、この道を切り拓こうとしたのです。その後、多くの企業も日本映画の魅力に気づきました。中国映画市場では、政治的な理由で韓国映画の展開が非常に難しく、一方で人気のあるアメリカ映画はライセンス料が高額で非常にコストがかかる。そのため比較的リーズナブルな価格で量産を続けている日本映画が注目されるようになりました。

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――現在の中国映画市場では、日本のアニメ映画は確かにブランド化されています。それに比べて、日本の実写映画の興収はあまり芳しくありません。実写映画「銀魂」などの作品も買付していましたが、日本の実写映画についてどう思われますか?

Sam:観客の視点からみると、日本の実写映画の出来は決して悪くないです。ただ、中国の観客、特に若い消費者から見ると、あまりインパクトが残らない作品ばかりです。おそらく、観客はハリウッド映画に慣れていて、「アクション大作の視覚的なインパクト」が映画を選ぶ上で重要な要素になっているのでしょう。それに対して、日本の実写映画の多くは、独特の間を重視したテンポでできており、非常にシリアスで、細部にまでこだわった作品が多いです。これは悪いことではありませんが、テンポの速い映画を求める観客にとって利点ではありません。

マクロな視点で見ると、日本の実写映画は、基本的に“日本の物語”です。そういう意味で、日本に行ったことのない観客がほとんどですから、ハードルが高いのです。また、知名度のある日本のアニメと違って、中国では日本の実写映画に接するチャンスがあまりない。観客との距離は、まだまだありますね。

最後の理由は、俳優です。おそらく日本映画に親しんでいる人であれば、日本の俳優はとても身近に感じられるでしょう。しかし、一般的に中国において、日本の俳優の知名度はまだ高くはありません。ハリウッドスターに比べれば、誰が誰だかわからないというのが実情であり、わざわざ“俳優のために見に行く”という消費行動の可能性が低いのです。

――私も日本の実写映画を見るためのハードルは高いと感じています。日本の作品はどちらかといえば、日本人の観客の好みに偏っていて、グローバル性や普遍性に欠けている。これは日本の映画産業全体にとって、重要な課題の一つだと思います。

Sam:私もそう思います。過去に「ビリギャル」のような底辺から努力をして這い上がるというような国民性や文化の違いにかかわらず多くの人に共感を得られやすい普遍的なストーリーの作品を買付しました。その時、日本映画はまだ中国でそれほど知られていませんでしたが、成績は予想以上で、口コミも良かったのです。おそらく、今公開すれば、興行収入は倍増するかもしれません。そういう意味で、日本にはそういう作品がないわけではありません。今後、世界中の観客が共感できる物語を作れれば、中国本土だけでなく、他のマーケットも開拓できるはずです。

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――中国映画を日本で配給することの背景についてもお聞きしたいです。今お話があったように、中国では日本作品があまり普及しておりません。一方、日本における中国作品の人気、特に新世代の中国映画の認知度も非常に低いです。なので、日本での中国映画の配給は、非常にチャレンジングなことだと思います。まずは、日本での配給のきっかけについてお話いただけますか?</b>

Sam:最初は2019年のことです。パートナーである「猫眼映画」の手元に「ペガサス 飛馳人生」があり、日本配給を行いました。以前から中国映画を日本で配給したいと思っていました。中国映画のクオリティは年々上がっていて、製作費はもちろんですが、ストーリーテリング能力もかなり向上していると思っています。正直な話、ビジネス的な観点から中国映画の配給を進めるべきかどうか考えていた時期もありました。しかし、映画というのは文化事業であり、私たちが中国の観客に素晴らしい日本映画を紹介するように、日本の観客にも、もっと中国映画を観てもらいたいと考えています。これは文化交流であり、社名の「Open culture」のように文化の壁をなくすことにコミットし、質の高い作品を観客に提供することに専念しています。なので「OCE」設立前から、日本で中国映画を配給できるようにしたいと思っていました。

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個人的にチャレンジすることが大好きです。日本映画市場の規模は、現在では世界第3位。中国映画が日本市場に進出する可能性は十分にあると思います。面白いデータを紹介しましょう。中国で公開された日本映画の興収は、中国年間興行収入のうち、ピークの年でさえ全体の3%程度でした。もっと伸びる可能性があると思います。その一方で、中国映画の日本市場における占有率は1%もありません。中国映画を日本で配給するということは、かなりのチャンスがあると信じています。

日本で行われている中華映画特集上映「電影祭」は、面白映画さまのプッシュがあって始まった事業です。もともと同じようなことを考えていましたので、すぐに意気投合しました。今振り返ってみると、我々の初期の考えはかなり甘かったと言えます。日本には首都圏を中心に約72万人の中国人が住んでいます。ですから、最初は日本にいる中国人が大勢見に来てくれると期待していました。しかし、私たちの戦略は完全に間違っていました。なぜなら、多くの中国人の観客は、海賊版で中国映画を見るので、わざわざ映画祭に来る人はごくわずかだったのです。その後、我々は日本の観客に中国映画を宣伝するように戦略を調整しました。その変更で良い結果を得ることができました。

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2021年には、弊社は中国映画「唐人街探偵 東京MISSION」も買い付けています。正直にいうと、かなりコストがかかり、興収も目標としていた数字にはあと少し及ばなかったです。しかし、失敗を通して、日本の映画市場や観客の好みなど、多くのことを学ぶことができました。

――「雄獅少年 ライオン少年」は、日本の大手映画会社「GAGA(ギャガ)」と組んでいますが、これは新しい試みですね。</b>

Sam:いまお話をした「唐人街探偵 東京MISSION」でも、アスミック・エースさまと一緒に色々経験を積んできました。GAGAさんは世界的にも有名ですよね。日本の大手映画配給会社なので、今回一緒にお仕事ができて、とても良かったです。

リャン・ジェンさん(左)、佐々木史朗さん(右)
リャン・ジェンさん(左)、佐々木史朗さん(右)

――では、佐々木さんとリャンさんにもご質問させていただきます。電影祭で「雄獅少年 ライオン少年」が上映された際は、評判がとても良かったですよね。日本の観客の反応はいかがでしたか?</b>

リャン:先程Samも発言していましたが、昨年1年間電影祭を行い、多くのアンケートを実施しました。そのデータを元に、色々分析を行っています。観客は、9割が日本の方でした。やはり中国映画を配給するのであれば、日本の観客に向けて、しっかり宣伝プランを立て、作品の魅力を紹介しようと考えています。

雄獅少年 ライオン少年」を公開作品に選んだ理由は、とてもシンプルで、昨年の電影祭の中で一番人気のある作品だったからです。 昨年末には、グランドシネマサンシャイン 池袋で終映イベントも行いました。そこで「雄獅少年 ライオン少年」の一般公開決定の情報を解禁しています。その際、観客の皆さんの反応が熱烈で、非常に感動しました。

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――――同作について、日本の観客におすすめしたいポイントはなんでしょうか?

リャン:おすすめポイントはいくつかあります。まず、日本とは異なり、中国のアニメ制作はアメリカと似ています。今は、基本的に3DCGアニメが主流です。そして「雄獅少年 ライオン少年」は、近年の中国における3DCGアニメの中でも、最も素晴らしい作品の1本ですから、これを日本の観客に紹介しないといけないなと思いました。

次に、ストーリーが非常に優れています。日本のアニメにも近い王道ストーリーに加え、社会的要素もかなり加わっていて、多くの観客、特に若い観客が共感するでしょう。

3つ目のポイントは、GAGAさんと共同配給するということもあり、日本の人気声優陣を迎え、吹き替え版を制作しました。主人公の声を花江夏樹さん。さらに山口勝平さん、俳優の桜田ひよりさんにも参加していただき、非常に素晴らしい吹き替え版が完成しました。中国のアニメファンからも、今回の日本語吹き替え版が見たいという声が多くあがっています。

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――佐々木さんは、この作品を見てどう思いましたか?

佐々木:この作品は、国や文化の違いにかかわらず、多くの人にとって分かりやすい非常に普遍的なストーリーです。日本人的に表現すると いわゆる“スポ根”モノです。「下から自らの努力で這い上がり、仲間と協力をして、最後には夢をつかむところまでいく」という流れですよね。我々は内々の会議では「王道ジャンプ的ストーリー」と表現していたこともあります。本作品が、中国映画であることとは市場にとってはあまり重要な要素でなく、日本人であれば馴染みのあるストーリーで、すごく受け入れやすいという部分があります。そういう、「日本のマーケットニーズに合致している」という点が、GAGAさまにも共感いただき、日本語版で配給しよう!という決断となったのだと思います。

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――最後に「OCE」の今後の展開について教えてください。

Sam:私たちのメイン事業は、いぜんとして映画とテレビであり、今後の大きな方向性は変わりません。もちろん、将来的には中国と日本だけでなく、香港、台湾、東南アジアも含めて、アジア諸国で配給できたら嬉しいです。

また、全体的な戦略も述べさせていただきます。当社は2021年から“ビッグIP戦略”を掲げ、IPの世界観と文化的・経済的価値を最大化するように努めています。そのため、配給作品の選定については、現在も「ドラえもん」や「名探偵コナン」「クレヨンしんちゃん」の映画を優先的に配給しています。日本では、8月4日に公開される「しん次元!クレヨンしんちゃんTHE MOVIE 超能力大決戦 とべとべ手巻き寿司」の中国配給権も、我々が取得しています。

もちろん、IP以外のクオリティの高い作品もさらに開拓していきます。クオリティの高い作品を配給することは、常に我々の原点であり、この事業を継続できるということは非常に喜ばしいことです。

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