【「M3GAN ミーガン」評論】“不気味の谷”を超えて、狂気とブラックユーモアをまきちらすAI人形の暴走劇

2023年6月10日 15:30


「M3GAN ミーガン」
「M3GAN ミーガン」

人形をモチーフにしたホラー映画といえば、誰もが「チャイルド・プレイ」(1988)を思い浮かべるだろう。殺人鬼の怨霊が憑依した凶悪人形チャッキーが絶大な人気を博した大ヒット作。ところが2019年のリメイク版では人工知能搭載の人形が登場し、従来のオカルト映画から“テクノ・ホラー”へと変貌した。その半面、子供向け玩具の人形が残忍に暴れ回るというギャップを強調した恐怖描写はオリジナル版を踏襲しており、「設定を今風に変えただけ」の感は否めなかった。

その点、ブラムハウス・プロダクションズとジェームズ・ワンの強力タッグによる本作の趣向の凝らし方は、ひと味もふた味も違う。玩具メーカーの開発者であるキャリアウーマンのジェマが、交通事故で両親を亡くした姪っ子ケイディを慰めるためにあてがったM3GAN(ミーガン)は、最先端のAIを搭載した少女型アンドロイド。悲しみに暮れるケイディの遊び相手にも相談相手にもなってくれる優れものだ。

そのルックスはご覧の通り、正統派のブロンド美少女なのだが、あまりにもリアルな風貌ゆえに、私たち観客が親近感や愛らしさよりも不安や違和感を覚える一線、すなわち“不気味の谷”を超えてしまっている。そんなミーガンの特異なたたずまいや神出鬼没ぶりからしてゾッとさせられるのだが、アニマトロニクス、デジタル効果、特殊メイクを総動員した本作は、や眉といったパーツの繊細な動きでAI人形の狂気にも似た“感情”を表現。さらに生身の子役の演技も取り入れ、ロボットらしさと人間っぽさが絶妙に混じり合った所作の映像化を実現させた。

やがてケイディをあらゆる脅威から“守る”プログラムを組み込まれたミーガンは、外敵への攻撃態勢に入ると、獣のような四足歩行や奇怪なダンスなど予測不能のアクションを連発。サプライズとブラックユーモアが満載され、これほど一挙手一投足に目が釘付けになるホラー・キャラクターは近年まれではあるまいか。しかも人間界のデータを日々収集してアップグレードしていくミーガンは、疲れ知らずで罪悪感すら持たないのだ!

クライマックスに向けてミーガンの怪物化がエスカレートするストーリー展開など、「マリグナント 凶暴な悪夢」のアケラ・クーパーが手がけた脚本は、このジャンルの約束事に忠実。そこに新興企業の開発競争や、テクノロジーに依存する現代の世相を風刺した視点がタイムリーで、“テクノロジーの暴走”という古くからあるテーマはもはやSFではないことを印象づける。すでに2025年公開予定の続編「M3GAN 2.0」(原題)の製作も発表済み。猛烈な勢いで革新的進化を遂げるAIが、人形の姿を借りて人類に存亡の危機をもたらす、なんて日はそう遠くなさそうだ。

(高橋諭治)

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