「TAR ター」トッド・フィールド監督インタビュー ケイト・ブランシェットは「映画全体を理解する、フィルムメイカーのような視点を持っている」

2023年5月13日 09:00


トッド・フィールド監督とケイト・ブランシェット
トッド・フィールド監督とケイト・ブランシェット

トッド・フィールド監督が16年ぶりに手がけた長編作品で、ケイト・ブランシェットを主演に、天才的な才能を持った指揮者の苦悩をサスペンスフルに描いた「TAR ター」が公開された。ブランシェットの神がかった熱演が高く評価され、第80回ゴールデングローブ賞で主演女優賞(ドラマ部門)を受賞し、第95回アカデミー賞では作品、監督、脚本、主演女優ほか計6部門でノミネートされた。

リディア・ターという複雑でカリスマ性のある主人公を演じたケイト・ブランシェットとの仕事をトッド・フィールド監督がオンラインインタビューで語った。

※このインタビューには、ネタバレとなる記述があります。未見の方は、十分ご注意ください。

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<あらすじ>
ドイツの有名オーケストラで、女性としてはじめて首席指揮者に任命されたリディア・ター。天才的能力とたぐいまれなプロデュース力で、その地位を築いた彼女だったが、いまはマーラーの交響曲第5番の演奏と録音のプレッシャーと、新曲の創作に苦しんでいた。そんなある時、かつて彼女が指導した若手指揮者の訃報が入り、ある疑惑をかけられたターは追い詰められていく。


――リディア・ターというのは複雑でカリスマ性のあるキャラクターであり、あの役はケイト・ブランシェットでなければ成し遂げられなかった偉業だと思います。架空の人物としてあなたが作り上げた設定以外で、ブランシェットからも人物像についての提案はありましたか? あれば具体的に教えてください。

脚本はケイトにあて書きしていたのです。当初、そのことを彼女には伝えていなかったので、脚本を渡す時に、私はナーバスになっていました。もし、「ノー」と言われた場合、他の俳優でこの映画を作りたくなかったのです。でも、彼女は「イエス」と言ってくれたので、すぐに会話を始めました。監督と女優という上下関係はなく、対等に話をしました。他の俳優が決まって、リハーサルを始める1年前から、設定やキャラクターについてずっと話を続けていました。その些細な一部分を具体的に取り上げることはできないのですが、彼女との会話はとても豊かなものでした。

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――当初から、リディア・ター役にケイト・ブランシェットを想定して作られた物語だったのですね。そのアイディアは、彼女の過去作品の演技を見てひらめきがあったのでしょうか?

10年前にある作品の脚本を書きました。その作品をケイトにやって欲しいと思ったのですが、残念ながら映画にはならずに終わってしまいました。その時に、彼女と対話を続けたいと思ったのです。彼女は映画全体を理解する、フィルムメイカーのような視点を持っているのです。自分の与えられた役だけではなく、全体的にものを見ることができる人だったのです。

普段私が脚本を書くとき、純粋にキャラクターしか書かないのですが、今回は、なぜかケイトの顔が心に浮かんで離れないので、毎朝、椅子に座って「ハイ!ケイト、おはよう」そんな風につぶやきながら執筆を進めました。ケイトはもちろんそんなことは知りませんでしたが。

――そんな思いのこもった脚本執筆の経緯を知ったケイト・ブランシェットは驚かれたのではないでしょうか?

そうですね。しばらくこのことは彼女には黙っていました。最終的に話をしたのは、撮影が始まってしばらくしてからです。その前に言ってしまうと、変なストーカーのように思われてしまうかもと不安だったので(笑)。もちろん、言ったらとても驚いていました。

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――ターがもし男性だったら? 突出した才能を持つ人物の仕事の評価と人間性は分けられるべきなのか? など、様々な議論を呼ぶ作品です。SNSでの悪意を持った投稿、またキャンセルカルチャーなど、時宜的な現象も巧みに複合的に表現されています。ターという人物とこの物語をいつ頃から構想されていたのですか?

もともとこの話は現代に設定しようと思ったのです。そして、主人公の人物像のほかに、現代的なスキャンダルも描きたくなりました。今はSNSがかかわり、すべてが早く伝搬し、冷たい感じで終わります。それはテクノロジーを使うからです。テクノロジーはマジカルなもので、与えられるダメージも大きい。これが、10年、20年、もしくは100年前であれば、同じようなスキャンダルがあってもその発露から結果に至るまでの速度はゆっくりだったと思います。

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――スキャンダルの後、ターがヨーロッパを離れるシーンについて教えてください。

現代の指揮者の中でビデオゲームの指揮をしたことがない人はいないと思うのです。それくらい、ゲームの音楽は多くの人が知るものです。また、今の世の中では、テクノロジーの普及もあり、どこにいても隠れることはできません。指揮者にとっての楽器は人間です。あのような事件があったあと、それでも彼女に楽器を与えてくれる場所、彼女を雇ってくれる場所に彼女は行ったのです。私もビデオゲームは大好きで、広く知られている「モンスターハンター」の音楽を使いました。

また、あの音楽は、クラシックのように死んだ白人が作った音楽ではなく、現代を生きる人が作り、現代の人が熱狂的に聞くもの。最後のシーンの観客がコスプレをしてるのも大事で、音楽を聴くためにあれほど熱心にドレスアップする観客はドイツにはいなかったということを示したのです。多くの方にとっては、古臭いアイディアと感じるかもしれませんが、良い音楽、高尚なものとは何か?とか、どこで演奏されるべきかとか、そういったものはくそくらえ、という思いが私にはあります。もしかしたら、彼女はヨーロッパのクラシック音楽の頂点で頑張っていたのに、遠く離れてあのような音楽をやっている……と考える人もいるかもしれません。その解釈はそれでも良いのですが、フィルムメイカーとしてはそのようには思っていません。

場所はフィリピンを念頭に置いていました。窓を開けるシーンはフィリピンで、フィリピンのキャストを揃えましたが、当時フィリピンはロックダウンをしていたので、実際の撮影はタイで行いました。どこの国かはっきりわかるようにはしたくなく、もしかしたらリディアの空想であるかのようにも撮りたかったのです。

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――監督ご自身も音楽への造詣が深く、愛してらっしゃることが伺えます。今回、「ジョーカー」(19)で、第92回アカデミー作曲賞を受賞、日本の坂本龍一さんとも親交のあったヒドゥル・グドナドッティルに音楽を依頼した理由を教えてください。

彼女のことは「ジョーカー」のずっと以前からアーティストとして尊敬していました。これまで私はトーマス・ニューマンとずっと仕事をしていましたが、今回の仕事はスタジオからの条件で、ヨーロッパの人と仕事をしてほしいという条件がありました。今回、アメリカ人は私一人です。

ヒドゥルはベルリンに住んでいたので脚本を送ったら、彼女は他のすべてを捨てて引き受けてくれました。14カ月の仕事になりましたが、本当に素晴らしい経験でした。映画監督として、これ以上望めないくらい良い経験となりました。素晴らしいアーティストで、疲れを知らずに働いてくれるのです。音楽という目に見えないアプローチをとるのですが、彼女はストーリーテラーとして考えることができる人で、彼女は私の親しい友人のひとりだと思っています。

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