カモシタサラの新たな挑戦“映画のための曲を生み出すこと” 足立紳監督と語り尽くす【「雑魚どもよ、大志を抱け!」特別対談】

2023年4月18日 09:00


足立紳(左)、カモシタサラ(右)
足立紳(左)、カモシタサラ(右)

4月9日、東京の映画館「新宿武蔵野館」に美しい歌声が響き渡った。

ギター片手に壇上へ上がったのは、新進気鋭のバンド「インナージャーニー」のボーカル&ギター・カモシタサラ。魂を込めて歌い上げるのは、映画「雑魚どもよ、大志を抱け!」(公開中)の主題歌「少年」だ。

ステージ下の出入口付近には、カモシタの歌声に耳を傾け、感慨深げな表情を浮かべる人物がいた。

雑魚どもよ、大志を抱け!」を手掛けた足立紳監督だ。

この日行われたのは、観客を招いたトーク&ライブ付き上映会(場内は満席!)。2人は「雑魚どもよ、大志を抱け!」の撮影に関する思い出、主題歌「少年」の誕生秘話について語り合っていた。

2人の再会は、映画の撮影以後初めてだった。イベントの時間は約30分……その場では伝えきれないこともあったはずだ。

映画.comは、同日、新宿武蔵野館の控え室にて、足立監督とカモシタの対談インタビュー(約1時間)を実施している。「雑魚どもよ、大志を抱け!」の詳細な成り立ち、「少年」が完成形に至るまでの流れだけでなく、2人の少年少女時代、創作に対する姿勢についてまでも語り合ってくれた。本記事では、その貴重な内容をお届けしよう。


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【「雑魚どもよ、大志を抱け!」概要】

関西ジャニーズJr.の人気グループ「Boys be」に所属する池川侑希弥の映画初主演作。足立紳監督が、少年たちの葛藤と前進をつづった小説「弱虫日記」を自らのメガホンで映画化した。

地方の町に暮らす小学生の瞬(池川)は、乳がんを患う母の病状よりも、中学受験のため無理やり学習塾に入れられそうなことを心配していた。そんな彼の周囲には、犯罪歴のある父を持つ親友・隆造や、いじめを受けながらも映画監督を目指す西野ら、それぞれ問題を抱えながらも懸命に明日を夢見る仲間たちがいた。ある日、瞬はいじめを見て見ぬ振りしたことがきっかけで、友人たちとの関係がぎくしゃくするようになってしまう。


【インタビュー対象者の紹介】

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足立紳

1972年、鳥取県生まれ。相米慎二監督に師事。脚本を手掛けた「百円の恋」が、2014年に映画化。脚本作品には「志乃ちゃんは自分の名前が言えない」「こどもしょくどう」や「嘘八百」シリーズ、「アンダードッグ」(前編・後編)、ドラマ「拾われた男」などがある。23年10月からのNHK連続テレビ小説「ブギウギ」の脚本も控える。監督作は「14の夜」「喜劇 愛妻物語」など。

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▼カモシタサラ

4ピースロックバンド「インナージャーニー」のボーカル&ギター。同バンドは、19年に開催された10代限定フェス「未確認フェスティバル」の出場をきっかけに結成(ギター:本多秀、ベース:とものしん、ドラム:Kaito)。22年9月7日にリリースした1stアルバム「インナージャーニー」が現在ヒット中。若者を中心に幅広い世代から支持を集める。楽曲は「クリームソーダ」「エンドロール」「会いにいけ!」「グッバイ来世でまた会おう」「ペトリコール」など。


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●お互いの作品について なぜ「インナージャーニー」に主題歌をオファーしたのか?

――本日はよろしくお願いします。まずはカモシタさんに質問させていただきます。足立さんは脚本家として、そして監督としても数多くの作品に携わっていますが、これまでの「足立紳作品」にどのような印象を抱いていますか?

カモシタ:「アンダードッグ」や「百円の恋」などを観ていますが、大半の登場人物が社会で上手くいっているわけではないですよね。ダメダメな感じというか……共感というよりも“自分と同じ”といった印象を受けて、良い意味で嫌な気持ちになるんです(笑)。最初はそういった変な感情になるんですが、最後まで観てみると全員の事が好きになって愛しちゃうんです。

――“自分と同じ”だと感じたキャラクターを、最終的には愛してしまう。これは「(作品に)救われた」と言い換えてもいいのかもしれませんね。

カモシタ:そうなんです。だからこそ、自分自身も頑張れる。ほんの少しの希望を持てたような感じがしていました。

――足立監督は「インナージャーニー」のことをご存知でしたか?

足立監督:僕は本当に音楽に疎くて……。「インナージャーニー」だけでなく、ほとんどの方々を知らないんです(笑)。

――(笑)。では、なぜ「インナージャーニー」にオファーすることになったのでしょうか?

足立監督:本作の主人公は男の子たち。女の子がほとんど出て来ない内容です。だからこそ、女性の方に歌ってほしいという思いがありました。先程も言ったように、歌手についてはほとんど何も知らない状況(笑)。そこでプロデューサーの佐藤現さんやスタッフの方々に色んな方を推薦してもらったんです。「インナージャーニー」については、まず2、3曲聞かせてもらいました。そのなかで印象に残ったのは「グッバイ来世でまた会おう」。すごく良い歌でした。カモシタさんの声がとても印象的でしたし、まだお若いのに来世について歌っているのがかなり珍しいなぁと。

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●紆余曲折のあった脚本に触れる 相米慎二監督との思い出も

――カモシタさんは、まず脚本を読んでから、主題歌を引き受けたという流れになりますよね。脚本を読んだ際の感想を教えていただけますか?

カモシタ:映画の脚本を1冊丸々読むというのが初めての経験だったんです。小説を読む感覚とはまったく違うものでした。

足立監督:脚本というものは、なかなか読みづらいですよね。日本の脚本は想像力を働かせないとなかなか読み込めない。僕もいまだに他人が書いた脚本をスラスラとは読めませんから(笑)。

カモシタ:(笑)。脚本から感じとったのは「自分にもこういう事があったような気がする」ということでした。全面的な共感ではないのですが、そこが率直に良いなと思いました。

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――本作の原型となったのは、20年以上前に書かれた脚本(タイトルは「悪童」)。最初に見せたのは相米慎二監督。そして、相米監督から唯一褒められた脚本です。しかし、映画化への道のりは遠く、時は流れて、2017年に脚本を小説化した「弱虫日記」(講談社文庫刊)を刊行。19年には、松本稔さんが共同脚本として加わり改稿した「弱虫日記」が東京フィルメックスのシナリオ賞で準グランプリに選ばれています。自己資金で自主制作することも視野に入れていたそうですが、なぜ映画化にこだわったのでしょうか?

足立監督:20年片時も忘れなかった……というわけではないのですが、諦めていた時もありましたね。ただ自分がやりたいことをやれるような状態になった時に、やっぱりあの脚本はやってみたいなと。それでまた引っ張り出してきて、なんとかならないかなと考えていました。ここまでこだわったのは、なんでなんでしょうね……。本当に馬鹿みたいな理由ですが、最初に相米監督に褒められた経験は、自分の中で小さな自信になっていたと思うんです。この世界でどうにかやっていけるのかもしれないと。相米監督についていた時期は、大きな挫折を味わった頃でもありました。だからこそ、そんな時に一度だけ褒めてもらった作品を世に出したい。そんな思いが、ずっとあったんだと思います。

――相米監督からは、どのような言葉を投げかけられたのでしょうか?

足立監督:相米監督は直接褒めるような方ではなかったんです。マネージャーをされていた女性から電話がかかってきて「この前、足立君が相米に預けていたシナリオがあるでしょう? あれ、相米が良いと言っていたから、ちょっと預けてみない?」と。ものすごく嬉しかったですね。


●昭和の“雑さ” 足立監督「残しておいても良い部分もあるのではないか」

――小説「弱虫日記」は、いわゆる現代の話ですよね。スマートフォンも描かれていますし、本文中では「スター・ウォーズ フォースの覚醒」(2015年公開)についての言及もあります。ところが、映画「雑魚どもよ、大志を抱け!」の時代設定は1988年。この変更の意図も教えていただけますか?

足立監督:まず「悪童」は、90年代の終わりころに書いた脚本でした。それを小説という形で世に出す時、出版社側の提案で“現代の物語”にすることになりました。ただ、時代背景を現代に変更することについては、妙にしっくりきてない部分があったんです。映画化が決定したタイミングは、そこからさらに時間が経過しています。今は、急激に価値観がアップデートされていく世の中。変わるべきところは変わらないといけないとは思いますが……“昭和=良くない”という風潮があって、果たしてそれは本当に正しいのだろうかと思ったんです。あの時代の“雑さ”に関して、残しておいても良い部分もあるのではないか。そういう思いから、1988年という設定にしています。


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●撮影現場を来訪 “地獄トンネル”での光景から得たもの

――本作のロケ地は、岐阜県飛騨市。カモシタさんは、撮影現場を訪れています。

カモシタ:訪れた日は雨でした。山道を進むと木々がどんどん生い茂っていて……思い込みもあるのかもしれませんが、やっぱり空気が美味しかったです。

――映画の撮影現場というのは、初めて足を踏み入れる場所でしたか?

カモシタ:初めてでした。短いシーンを撮るだけでも、これだけたくさんの人が関わって、こんなにも時間がかかるものなのか……と感じていました。今目の前で繰り広げられている光景が、映画の中に組み込まれてる。それを生で見られたことが嬉しかったです。

――キャストたちや足立監督と交流を図ったそうですね。具体的にはどのようなことをお話されましたか?

カモシタ:キャストの方々には演技に影響が出てしまうかもしれないなと思っていたので、挨拶だけさせていただきました。足立監督とは、曲について、映画のタイトルについてもお話しました。

足立監督:楽曲についての唯一の要望は「映画が終わったという感じではなく、瞬たちの人生がそのまま続いているような歌にしてほしい」。お話していたことで覚えているのは「雑魚」の意味についてです。僕はいわゆる「しょうもない奴」という意味合いでとらえていたんですが、カモシタさんは「色々な魚が混ざっている」というようなことを仰っていました。確かに、瞬たちはそういう意味での「雑魚」でもあるなと。

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――カモシタさんが見学されたのは“地獄トンネル”にまつわるシーンです。同シーンを見たうえで構想を膨らませ、帰りの新幹線ではすぐに曲作りをスタート…ということになりました。

カモシタ:見せていただいたのが、瞬君が“地獄トンネル”を走り抜けるという場面。まずは走っている雰囲気を出すために、アップテンポの曲調にしようかなと考えていました。それとトンネルでの撮影は、向こうからやってくる風も冷たかった。そんな向かい風にも負けないくらいの歌詞にしたいと思っていました。これは現地に行ったからこそわかったことです。

――“地獄トンネル”や瞬が走る線路といった、映画における象徴的な場所は、ロケハンを経て脚本に書き込まれていった要素でした。

足立監督:瞬たちが頻繁に訪れている場所で「ここの試練を乗り越えれば、俺たちは少し変われるかも……」と感じるものを作りたいなと考えていました。共同脚本の松本稔さんと話し合いながら、ひとまず適当なことだけは書いておいて、何か良い案はないかなと探し続けていました。そこで飛騨に行った時に、あのトンネルを見せてもらって、劇中に取り入れることにしました。やっぱり格好いいといいますか……自分も子どもの頃、あんな風に線路に入って遊んでいましたし、やっぱりワクワクする場所なんですよね。


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●アカペラで始まる 奇跡的な合致で生まれたバージョンだった

――では、最初に「少年」を聴いた時にどう思いましたか?

足立監督:実は家族でディズニーランドに行っている時に、デモ音源が送られてきたんですよね(笑)。その場ですぐに聴かせていただいたら、すごく良い歌だなと。少しだけこの辺りをこうしてみたらどうでしょうと指摘した部分はありましたが、最初のバージョンからはほとんど変わっていないと思います。

――エンドロールに使用されている「少年」は、アカペラで始まっています。当初は弾き語りスタートだったそうですが、足立監督や製作陣のアドバイスによって変更した……とお聞きしました。どのような意図があったのでしょうか?

足立監督:(アカペラは)ひとつのパターンとして見せてほしいということだったと思います。当時は、エンドロールに瞬たちの写真を出すというアイデアもまだなかった頃。物語が終わって、そこからすっとエンドロールに入ってしまうのは、果たして正解なんだろうかと考えていました。どうすれば、この映画が少しでもお客さんの脳裏にへばりつくだろうか……と。色々なパターンを試してみたのですが、歌い始める時の“息を吸う音”があるじゃないですか? 僕はあれがすごくいいなと思っていて。少々こじつけになってしまいますが、あの息遣いが、瞬たちの息遣いと繋がっているような感覚があるんです。

カモシタ:あの“息遣い”は緊張しました。“息を吸う音”が残るくらいで録音しておいた方がいいかなと話していたんです。

足立監督:でも、そこはリクエストはしていなかった部分。アカペラにすると、あのような“息遣い”が入るとは一切想像していませんでしたから。

――つまり、互いがベストだと思った案が奇跡的に合致したということになりますね。

足立監督:主題歌に対しての意見というのは、本当に難しかったです。具体的に言いすぎると、曲が大きく広がらないような気もしていましたし……僕が言っていた“小さな意見”はわかりづらかったかもしれない(笑)。

カモシタ:模索していました(笑)。

足立監督:でも「映画は映画、主題歌は主題歌」となってしまっているパターンが多いんです。そうなってしまうと、映画にとっても、主題歌にとってもよくない結果になります。だからこそ、脚本から読んでいただいたうえでお願いしているんです。


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●注目して欲しい歌詞は? 足立監督もお気に入りの一節

――歌詞についてお聞かせください。カモシタさんには、特に注目して欲しい一節はありますか?

カモシタ:「君の痛みは 君だけのもの 美しい鱗になる」です。

足立監督:そうなんですか! ここ、すごく良いですよね。

カモシタ:最初に送ったバージョンは、勢いで書き進めてしまった歌詞という認識があったんです。そのバージョンに対して「例えば、トカゲ(戸梶元太/演:白石葵一)など、様々な境遇の少年たちが立ち向かっていく感じが欲しい」と仰ってくれました。確かにそれはそうだなと納得して、色々考え抜いた結果、生まれた歌詞だったんです。

足立監督:「傷つけることは悪い」という前提のうえで、僕には「傷つくのは悪いことなのか?」という思いがあるんです。とにかく傷つかないように、傷つかないようにという方向に世の中が進んでいると思いますが、さまざまなことにぶつかり、傷つきながらでも進んでいった方がいいのではないか。そういう思いがあるからこそ、この歌詞が非常にいいなと思いました。


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●「雑魚どもよ、大志を抱け!」は初恋の話でもあった

――カモシタさん自身は、瞬たちと同じ年代の頃、どのような子どもでしたか?

カモシタ:はっきりとは覚えていないんですが、今の私からすると、あまり友達になりたいタイプではないかもしれません(笑)。結構真面目でちゃんとしていて、かなり型にハマっていたような……大人の目を気にするような子だったと思います。

――主題歌情報の解禁時には「映画で描かれている時代は私が生まれるよりも前の話ですが、なぜだか懐かしくなったり、きっと誰もが一度は持ち合わせたことのある苦いような酸っぱいような感情が入り混じっていて、何度も心がぎゅっとなりました」とコメントされていますが、どのような部分に懐かしさを感じましたか?

カモシタ:「雑魚どもよ、大志を抱け!」は、初恋の話でもある――監督が最近そんなことをツイートされていましたが、これは瞬に芽生えた“隆造への恋心”という意味合いですよね。その気持ちがすごく理解できたんです。友達なんだけど、友達以上の感覚を抱いてしまう。他の人とは仲良くして欲しくないと思ってしまったり。この子の前では、こういう自分でありたい……そんな風に思ってしまう友達がいたので。あの年代ならではの感覚なのかもしれません。

足立監督:自分の恋愛対象が異性なのか、同性なのか。小学生の頃、この部分はまだふわふわしていると思うんです。そういう意味では、瞬は隆造に恋をしているのだろうなと思っています。

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――ちなみに足立監督の少年時代はどうでしたか。ストーリーの中心を成す7人の少年たちの中にご自身はいらっしゃいますか?

足立監督:そこはやっぱり瞬なんです。僕にも隆造のように憧れている奴がいました。字は異なりますが、名前もそのまま「りゅうぞう」。ですから、本作は彼に対する憧れを描いたという感じです。ただ、妹が映画を観てくれた時にこんなことを言っていました。「あの人たち、もっと悪いことしていたよね?」と(笑)。

一同:爆笑

足立監督:オオサンショウウオを学校の池から引きずり出そうとする光景は、実際の思い出でもあるんです。母校で飼育していて、小学校5、6年生くらいになると、妙に池から出したくなる。そんなことをやっていると、目撃した女性生徒が職員室にチクりにいって、先生から追いかけられて逃げる。逃げながらも、次の悪さをしにいく。その一連の流れがすごく楽しかった。映画の冒頭では、瞬たちがいたずらをしては逃げるという光景が繰り広げられていますが、これは当時の光景をそのまま描いています。

――カモシタさんは、いまだに記憶に残っている光景・思い出はありますか?

カモシタ:あまり悪さはしていなかったんですが、何をしていたんだろう……よく縄跳びをしていたと思います(笑)。

足立監督:いいですね。縄跳びをしていましたって(笑)。


●“あの人のために創る”ということ

――小説「弱虫日記」における足立監督の“まえがき”は、非常に印象的です。約10年前、深夜のアルバイト(百円ショップ)で出会った少女にまつわる出来事が記されています。そして「自分が作ってきた作品は、あの子に向けて作っていると言うとおこがましいが、いつかあの子のような目をした子たちに触れて、そして面白がったりつまらなかったりしてもらいたいと思っている」という言葉で締めくくられています。本作を製作している間、この出来事を思い返すことはありましたか?

足立監督:“まえがき”で触れたような子が映画を観に来てくれた時に「一体、どんな反応をするだろう?」という考えは、頭の中にありました。面白がってもらってもいいですし、つまんないと思ってもらってもいい。とにかく“反応”があれば、なんでもいいんです。音楽にも同じ事が言えるのかもしれませんが、実は何かを作っている時、誰かの事を思い浮かべている、もしくは、この人がお客さんとして来てくれていたら……と考えてしまうことってありますよね。

――カモシタさんは、これまでの創作活動で「あの人のために」という思いを込めた経験はありますか?

カモシタ:あります。手紙をくれたファンの子です。その子は学校にいけない時期があって、引きこもってしまったことを打ち明けてくれました。でも、「インナージャーニー」の曲を聴いていると「それだけで自信になって、強くなった気持ちになります」と言ってくれたんです。その子はたびたびライブへ来てくれて、今でも手紙を送ってくれています。「夢ができました。いつかサラちゃんをインタビューできるようになりたい!」と書いてくれたことも。どんな道を歩んでくれてもいいのですが、その子と一緒にお仕事ができる日までは辞められないなぁと思っています。そんな気持ちを込めた曲もあるんです。


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●カモシタサラ、大好きな映画は「きっと、うまくいく」 お気に入りの“雑魚”は誰?

――素敵なエピソードをありがとうございます。映画中心の媒体なのでこんな質問も……“映画”はお好きですか?

カモシタ:はい、大好きです! 好きな作品は「きっと、うまくいく」。ブラックな一面もあるのですが、主人公が周囲に流されず、皆を巻き込みながら物事をどんどんと進めていく。そこが格好いいんです。私もそんな人でありたい。人生の基本にしたいと思うほど、憧れています。

――では、完成した「雑魚どもよ、大志を抱け!」を鑑賞して、どう思いましたか?

カモシタ:めちゃくちゃ良い映画だなと思っています。自分が関わっていたことを忘れてしまうほどでした。それと「脚本に書かれていたことが、こんな風に描かれるんだ」と驚いたり、自分の歌がエンドロールで流れると急にドキドキしてしまったり……(笑)。特に注目してしまったのは、瞬と隆造が互いの心情を吐露し合う光景を長回しでとらえたシーン。圧倒されてしまいました。

――特に注目してしまった、もしくは感情移入してしまったキャラクターはいますか?

カモシタ:西野君(映画監督を目指す少年/演:岩田奏)がすごく魅力的ですよね。周りに流されず、自分の中で“大切にしているもの”を持っている。揺らがない感じがいいんです。でも、トカゲもいいんですよね。隆造に守られているいじめられっ子という印象が強かったのですが、物語の途中からとてつもない勇気を示すじゃないですか。その姿が格好いいんですよね。

――西野&トカゲには、モデルとなった人物はいましたか?

足立監督:西野にモデルはいないんです。でも、新しい友達ができたりすると「こいつ、こんな奴だったんだ」と意外な姿を見せてくれる奴はいましたね。自分の世界を広げてくれるような奴との出会い……そういうことはありました。トカゲは、モデルとなる人物がいました。「14の夜」で青木柚君が演じてくれた役(=多田ミツル)と同様のモデルになります。

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●それぞれが考えた「勇気を出した瞬間」とは

――足立監督は、第35回東京国際映画祭でのワールドプレミア上映の際、「僕自身、勇気の持てない人生をかなり長く歩んできた。今もそう。わずか1ミリの勇気があれば、もしかすると人生が好転するかもしれないということは伝えたいし、自分自身にも言いたいという気持ちがあった」と本作に込めた思いを吐露していました。映画では“実は弱虫”な瞬が勇気を振り絞る瞬間をとらえています。カモシタさんは「勇気を出した瞬間」として記憶に残っていることはありますか?

カモシタ:ほとんど勇気を出せないまま、今まで生きてしまっている気がしていますが……(笑)。あえて挙げるとするなら、メンバーをバンドに誘った時です。もともとはソロで活動していたのですが、バンド音源をとりたいと思っていたんです。一緒にやるなら「演奏が上手い人たちの方がいい」とも考えていました。誘う瞬間まではあまり関わりがなくて、直接喋るのも怖いくらい。でも、あの時「この人たちと音楽をやるのは楽しいのかもしれない……やっぱりこの人たちが良い!」と感じて、メッセージを送ったことが、今の自分に繋がっています。

――足立監督は、いかがでしょうか?

足立監督:勇気を出した瞬間……それは、これから先の出来事なのかもしれません。ただ、シナリオを相米さんに見せる時は、かなり勇気を出していましたね。でも、映画の中の主人公のような勇気はまだ出せていない。僕はいつも映画の中の主人公だけに辛いことを経験させ、勇気を出させているんです(笑)。いつかは自分もちゃんとしなきゃいけないなと思っています。


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●足立監督に質問! カモシタ「あのセリフは、もしかして……」

――カモシタさん、この場を借りて、足立監督に「これだけは聞いてみたかった」ということはございますか?

カモシタ:瞬君の母親(臼田あさ美)が子どもたちに「来世で会いましょう」と伝えるシーンがありますよね。あれは最初からあったセリフなんでしょうか? 私たちの楽曲に「グッバイ来世でまた会おう」というものがあるので……(笑)。

足立監督:あれはね……すいません、違うんです(笑)。

カモシタ:(笑)。

足立監督:僕の母親がああいうことばっかり言う人だったんですよ。「私は星になる」なんてことを冗談めかして言っちゃう人でした。どんな母親でもそんなことを言っているんだろうなと思っていたら、そうでもないらしい。ちなみに、ヤクザに文句を言いに行くというエピソードも本当のこと。瞬の母親と父親に関しては、僕の両親をモデルにしています。でも「来世で会いましょう」は現場で追加したセリフなんですよね。もしかしたら「グッバイ来世でまた会おう」のことが頭の片隅にあったのかもしれません。


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●映画のために曲を作る 新たなチャンレンジで感じとったことは?

――作品のために楽曲を提供する。これは、カモシタさんの普段の活動とは異なる思考で取り組んだ作業だったと思います。今回の参加についての感想を改めてお聞かせいただけますか?

カモシタ:ずっと正解というものがわからなかったんです。自分の中だけで完結させるなら、それが正解となりますよね? でも“作品に合う曲”ということになると、適切な表現を探し続けなければいけませんでした。その考える時間も含めて楽しかったです。自分だけでは生まれなかったものが、どんどんと引っ張り出されていく感じもありました。今後も機会があれば映画やドラマといった“作品と一緒に歩む”作業をやっていきたいですし、足立監督ともまたご一緒したいなと思っています。

――では、最後の質問となります。「雑魚どもよ、大志を抱け!」は既に公開されていますが、これから先は、どのような方の目に止まってほしいと思っていますか?

足立監督:子どもたちだけでなく、大人の方にも観てほしいなと思っています。今は、大人のみっともなさというのがバレバレになっているような世の中です。だからこそ、映画の中で描かれるような“一生懸命生きている子どもたち”の姿を見てほしいという思いがあります。

カモシタ:“弱虫”側の人間のことがすごくわかる映画なんです。だからこそ、色々“恵まれている人”に観てほしいなと思っています。“弱虫”側の生き方や考え方が伝わってくれるといいなと……あとは、最後の最後(=「少年」が流れるエンドロール)まで見てほしい(笑)。エンドロールを含めて楽しんでいただきたいです!

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