【インタビュー】阿部寛、アジア・フィルム・アワードで栄冠 アジア映画&是枝裕和監督との思い出を語る

2023年3月23日 13:00


「Excellence in Asian Cinema」を受賞
「Excellence in Asian Cinema」を受賞

阿部寛が、アジア全域版アカデミー賞「第16回アジア・フィルム・アワード」(AFA)で「Excellence in Asian Cinema」を受賞した。同賞は、優れた才能を持つ映画人にスポットを当て、その映画人のアジア映画界・アジア文化における業績と貢献を称えるもの。日本人としての受賞は、第9回(2015)の中谷美紀、第13回(2019)の役所広司に続く、3人目となった。

3月12日、香港で開催された授賞式では、満面の笑みで壇上にあがり、英語でこのようなスピーチを行っている。

「皆さん、こんばんは。Excellence in Asian Cinema Awardの受賞、そして多くの素晴らしい才能を持った方々の一員になれたことを大変光栄に思います。私たちをつなぎ合わせてくれたAFAアカデミーに感謝したいと思います。何十年にもわたる私の俳優としての仕事を認めていただき、感謝しています。昔、子どものころに好きだったアニメの役のオファーを受けたのが、映画の魔法の世界への入り口でした。タイムスリップしてお風呂をデザインできたり、ロマンチックでありながら結婚できなかったり等々、たくさんのキャラクターに挑戦してきました。多くの国で、多くの才能ある人たちと、様々な役柄を演じることは、素晴らしい冒険でした。しかし、その中でも香港は特に私の心に残っています。それは、ここで映画を作った良い思い出があるからです。私の旅を支えてくれたすべての人に、感謝とお礼を言いたいです。懐かしさと感謝の気持ちを込めて、この賞を受け取ります。本当にありがとうございました」

映画.comでは、今回の受賞を記念し、現地でインタビューを敢行。受賞の喜びや、これまで出演したアジア映画のエピソード、「歩いても 歩いても」「奇跡」「海よりもまだ深く」でタッグを組んだ是枝裕和監督への思いを語ってもらった。(取材/徐昊辰)


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――まずは、今回の受賞に対する率直な思いをお聞かせください。

嬉しかったです。でも、最初はあまり実感がわかなくて……こんなにも大きな賞だと思ってもいませんでした。「アジアの映画賞を獲った」と聞かされて、「それは一体どういうものなの?」と(笑)。そこから賞の大きさを知り、さらに実感がわいて嬉しさが増したような感じです。

――アジア・フィルム・アワードで交流してみたい映画人はいらっしゃいますか?

照れくさい……。自分からはなかなか話しかけにくいですよね。

――たとえば、一緒に写真を撮ってみたいという方は?

いや……照れくさいです…(笑)。

――(笑)。では、これまでのキャリアについてお聞かせください。阿部さんは日本国内だけでなく、海外の作品にも積極的に参加されています。

自分のことを知っていただき、色々なオファーが届くというのが面白いなと思いますね。これまでにも何本か海外作品に参加していますが、その度に色々な発見があります。そして新たな発見と同時に、「作品づくりの精神性」というものは、たとえ言葉が通じなくても、一緒なのだなということがわかるんです。(今回の受賞をきっかけに)色々な国からさらにオファーがくると嬉しいなと感じています。

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――海外作品に参加したことで“得たもの”というのはあるのでしょうか?

あります。それを密かに日本での撮影に生かしています。内緒にしておきたいので、あまり具体的には言えませんが……(笑)。例えば、監督それぞれで撮影の方法というものは異なりますよね。「こういう撮り方もあるのか」ということを知ったら、日本でも工夫しながらやってみたり。海外の著名な俳優たちがどのように役作りをしているのか……これも情報として入ってくるのですが、それを参考にしてみる。こんなにもこだわるのかと。実際にできるかどうかわかりませんが、そういうことに触れると、まるで目が覚めるような心持ちになったりするんです。

――では、かつて参加したアジア映画についてお聞かせください。トニー・レオンイーキン・チェンケリー・チャンが出演した「東京攻略」(ジングル・マ監督)に参加されています。私は中国で拝見しました。当時の中国映画市場はまだまだ小規模でしたが、個人的には非常に印象に残っている作品です。撮影時のことをおぼえていらっしゃいますか?

大半のシーンを日本で撮影したような気がします。 皇居外苑のお堀がありますよね? そこで縦横無尽に撮影を行っていたので、これはすごいことだなと。それと日本人では気づかない日本の姿というものをとらえていたような気がします。日本人が撮ると、東京は普段抱くイメージのまま。ですが、海外の方が撮ると、少し異国に見えたりするんですよね。トニーさんとは1シーンくらいの共演だったような気がします。かなり日本語のセリフに苦労されていた覚えがあります。

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――チェン・カイコー監督作「空海 KU-KAI 美しき王妃の謎」にも参加されています。約5カ月に及ぶオール中国ロケ、約6年の歳月をかけて、東京ドーム約8個分の土地に超巨大な長安の都を再現した作品となりました。

セットのスケールの大きさ、エキストラの数には本当に驚きました。都全体を作ってしまうというパワー、そして人の多さに圧倒されていましたね。参加していて、とても楽しかったです。チェン・カイコー監督はとても優しい方で、非常にこだわりを持った方。たとえば、(不具合が生じれば)撮影がストップすることもありました。時には「3日間も撮影が止まっているな」と(笑)。そんな体験すらも、とても楽しかったですね。

――近作では、マレーシア映画「夕霧花園」(トム・リン監督)に参加されています。

日本人庭師を演じているのですが、これが非常にミステリアスな役どころだったんです。当初は、機械で訳してもらった台本を読んでいたので、役柄を理解するまでにかなりの時間がかかりました。第二次世界大戦の戦中、戦後という背景も、国によってとらえた方が異なる繊細な時代ですから、そのあたりの詰め方を丁寧にやっていたと思います。フランス、インド、マレーシアなど、さまざまな国のスタッフがいらっしゃいましたが、撮影に入ると言語の違いというのは、ほとんど関係がなくなるんですよね。何をやっているのか、何を話しているのかということも大体わかる。言語が異なれど、見ている方向が一緒であれば何も問題はないんです。

――“アジアの映画”が世界で存在感を増しています。例えば、ポン・ジュノ監督作「パラサイト 半地下の家族」、濱口竜介監督作「ドライブ・マイ・カー」は世界で高い評価を受けました。その一方で、アメリカで製作された「エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス」「ミナリ」などには“アジア”の要素が含まれています。今の“アジアの映画”についての印象をお聞かせください。

この勢いに日本ものりたいですよね。西島(秀俊)君が出演された「ドライブ・マイ・カー」は本当に素晴らしかった。もっとこういう作品が増えていってほしいです。そうなってくると、さらに面白くなるだろうなと思います。最近のアジア映画では、ちょうど是枝監督の「ベイビー・ブローカー」を観たところです。日本ではとらえることができない風景、坂のシーンも印象的でした。

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――是枝監督とは、長い付き合いになりますよね。阿部さんから見た“監督・是枝裕和”というものを教えてください。

歩いても 歩いても」に参加する以前は、わりとエキセントリックな役が多くて、是枝さんが描くような“何気ない日常の静かな話”というテイストの作品にはあまり出演したことがなかったんです。だからこそ、オファーが来た時は本当に嬉しかった。是枝さんと一緒に台本を読みながら「どうしましょうか」「こうしましょうか」と綿密に相談させてもらいました。それから何本かやらせてもらっていますけど、是枝さんは何気ないところにある人間の喜びや狂気を表現できる素晴らしい監督だと思います。ここ最近は出演できていませんが、またご一緒できたら嬉しいなと思っています。

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