ミュージカル界の貴公子枠から飛び出した田代万里生が「マチルダ」でブッ飛びキャラに挑戦!【若林ゆり 舞台.com】

2023年3月21日 12:00


「マチルダ」でミスター・ワームウッド役に挑む田代万里生
「マチルダ」でミスター・ワームウッド役に挑む田代万里生

チャーリーとチョコレート工場」(原作本邦題:「チョコレート工場の秘密」)のロアルド・ダールが書いた、児童向けファンタジー小説のもうひとつの傑作、それが「マチルダは小さな大天才」。自分に無関心なトンデモ両親のもとに生まれた天才少女のマチルダが、トンデモ女校長のいる学校に入学。さまざまな困難を乗り越えて幸せをつかむまでの、摩訶不思議でワクワク感あふれる物語だ。1996年にはダニー・デビートが監督・製作・出演を務めて映画化した「マチルダ(1996)」が公開され、人気を博している。

この作品がイギリスのロンドンでミュージカル化されたのは、2010年のこと。ロイヤル・シェイクスピア・カンパニー(以下RSC)が製作したこの舞台は、弾けるような演出で爆発的にヒット。13年にはブロードウェイに進出してトニー賞に輝き、22年には映画版「マチルダ・ザ・ミュージカル」も製作された。

そしていよいよ、この作品が日本に上陸する!

RSCのクリエイティブスタッフを招聘し、大々的なオーディションとみっちりとした稽古期間を設け、あの「ビリー・エリオット」を成功させたホリプロが打って出るのだ。これは楽しみ。今回オーディションを勝ち抜いたマチルダは、4人の小さな大天才女優たち。このほかのキャストも、マッチョで凶悪なミス・トランチブル校長役を男性のトリプルキャストが演じるなど、面白いことこの上ない。ここでは、斎藤司(「トレンディエンジェル」)とダブルキャストでミスター・ワームウッド役に挑む、田代万里生に話を聞こう。

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クラシック音楽教育を受けた“ミュージカル界の貴公子”のひとりとして知られる田代が、このキョーレツなキャラクターを演じるのも一興。マチルダの父親であるワームウッドは、96年の映画版でデビートが演じていた役。田代は子どもの頃、この映画を見た記憶があるという。

「僕のなかでは『マチルダ』という名前の映画を見たという認識はできていなくて、今回見て『あれ、この映画見たことある!』と気づいたんです。男の子がチョコレートケーキを食べているシーンなどはものすごく覚えていたし、当時はダニー・デビートがいちばんお気に入りでしたね。でもまさか、そのワームウッドを自分がやるとは夢にも思いませんでした。僕がこの役をやることになったことに、自分でいちばんビックリしています(笑)」

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えげつない拝金主義者のディーラーでテレビが大好き、本ばかり読んでいる娘には1ミリの興味ももたないミスター・ワームウッド。田代がイメージからかけ離れたこの役に挑もうと思ったのは、ここ数年の“脱・貴公子路線”的な経験があってこそだった。

「とくに『ジャック・ザ・リッパー』のタブロイド記者、モンロー役をやったことは大きかったですね。これをやっていなかったら、もしも『エリザベート』のフランツ・ヨーゼフのような役ばかりをやっていたら、今回のオーディションには参加していないと思います。実際、最初にオーディションの話をいただいたときはピンと来なかったんですよ。でも台本を読み込んでいくうちに、『お金、お金』とえげつないところなどモンローと共通する部分も感じましたし、いままでにない面白さがあるな、と思えてきました。お客さんが共感するのはマチルダやミス・ハニーだと思うし、ワームウッドはどちらかと言うと悪役で、暴言もいっぱい吐く。なのに、どこか憎めないキャラクターなんです。お客さんが『あいつバカだなー』と笑いながら、興味深い闇も感じ取れる。そういう風につくるのはさじ加減が難しいなと思って。やりがいを感じました」

オーディションはどんなものだった?

「最初はソロの歌、その後は芝居を『こう演じてみて』とリクエストされて、いろんなアプローチでやってみせるというのを何度か。とにかく振り切ってやるしかないと思ったので、派手な総柄の上下セットアップを着ていって、本当に最初からブッ飛ばしていきました(笑)。スチール撮影のときも、前に市村正親さんから『お客さんが行きたいと思ってくださるかどうかが決まるポスター撮りはめちゃめちゃ大事なんだ。千秋楽くらいの気持ちで行かないと』と教わっていたので、テンションマックスで挑みましたよ!」

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観客としては、ワームウッドには「こんなにかわいいマチルダなのになんでよ!?」とツッコみたくなるところも大いにあるのだが、その答えは?

「僕も最初は共感点がなかなか見つからなかったんですけど、演出補のジョセフ・ピッチャーさんと話してみて発見がありました。『ワームウッドはもちろんリアルに存在している人間だけど、描かれ方としては“マチルダから見たワームウッド”なんだ』と。ここがポイントとして大事。子どもは大人のすべてを見ているわけじゃないから、子どもに見えた部分だけを切り取ったと考えれば『ああ、こういう大人って実際にいるかも』となる。そう思ったら全部が腑に落ちて、いまは何の違和感もなく演じていますね」

マチルダ役の子どもたちにも、もちろん刺激を受けている。

「まだ舞台の経験がないという子もいると思うんですけど、みんなそれぞれに個性があって、本当に素晴らしい。何も考えないでやっているように見えて、すごく考えてやっているんだろうなあと思います。先入観なく思い切って、勇気を出して子どもたちがいろいろやっているのを見ると、僕ら大人も勇気とか、忘れていた何かを思い出すんです。すごく刺激的な現場です」

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映像版では歌うナンバーもなく、ちょっと影の薄かったミスター・ワームウッドだが、この舞台版ではそれはもう、存在感バツグン。2幕の頭では観客とやりとりしつつ歌う大ナンバーもある。ダブルキャストの斎藤とは、どんな風に切磋琢磨をしているのだろう。

「斎藤さんとは直接言葉で役について話し合うということはそんなにないんですけど、お互いにいいところがあったらどんどん取り入れています。個性がまったく異なるので、仕上がりはきっとまるで違ったものになると思います。もちろん段取りなんかは確認し合って協力していますし、同じように演出を受けて最高の作品を目指すというところは同じですから、タッグを組んでいるという感覚はありますね。この役は単純な人物なのでメロディも単純なんですけど、パワーがみなぎっている人だから、舞台ならではのエネルギーは絶対に必要な役だと思うんです。だから、いままで大きな劇場に立たせていただいた経験で培った、大劇場でのパワーというのは武器になるかなと思います」

この公演では海外のクリエイティブチームが全面的に作品づくりを率いている。その稽古の現場は「日本ではないみたいに、いつもとは違う風がビュンビュン吹いている」という。

「僕がいままで出演してきた、いわゆるグランドミュージカル(生演奏、大劇場で上演される作品)の5倍もの稽古場を使っているんですよ! そこで、いまはそれぞれのパーツを別々に組み立てているようなイメージ。非常に綿密につくられているんですけど、役者のもてる自由度は意外なほど高いんです。『ここがよかった、あれがよかった』と、それぞれの役づくりに余白をもたせながら、絶対に外してはいけないレールは示し、押さえるべきポイントはしっかり伝えてくださるので、その余白をどう育んでいくかは本当に役者次第なんだな、と思いました。いまはチームごとに稽古場を分けてやっているんです。僕たちはほぼワームウッド一家の絡みしかないので、別のチームが何をやっているのかわからない。秘密主義なんですよ。(取材時点では)ミス・トランチブル(校長)の稽古は一度も見たことがないんです。この後、『じゃあ、そろそろ一緒に』となったときには、お互いにビックリするんじゃないかな。『こんなことになってたんだ!』みたいにね」

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目指すのはやはり、ミュージカルならではの醍醐味だ。

「わかりやすい例で言うと、初めてミュージカルに挑戦する方は、『どうして音楽や楽譜に芝居を合わせるの?』とおっしゃることがよくあるんです。『このセリフはこう言いたいのに、何でメロディがついてるんだろう』とか、『このテンポで言わなきゃいけないの?』とか、『オーケストラの3小節目の4拍目でこれをやってください、って決まっているところに合わせるなんて……』って。でも実は逆で、僕たち演じる側から生まれたタイミングがたまたまそうなるように、僕らがまずつくっていくことなんです。そうすると、音楽の力には言葉やお芝居を超越したものがあるので、その音楽を味方につけられればもう最強なんですよ! 伝わるものがすごい。だから音楽に合わせるんじゃなくて、自分たちの力で生み出したものが結果、その音楽になっているだけ、という風になるのがいちばんの理想です。そう考えると決まり事は多いし、それを覚えるまでは大変なんですけど、体に入ってしまえば、まさに奇跡が起こる。そうなれば『このタイミングで、この音でしかセリフを言いたくない』『ここでこの動きしかしたくない』という風にピタッとはまるところが出てくるんです。そうなったときが、まさにミュージカルですよね」

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いまはミュージカル「メリー・ポピンズ」や舞台「ハリー・ポッターと呪いの子」など、魔法がかかったような魅力をもつ舞台が増えてきているが、本作も間違いなくそのひとつとなるだろう。

「昔はピーターパンみたいに『空飛べたらなぁ』とか本当に思ってたのに、現実世界で疲れていたりすると、なかなか思わなくなるじゃないですか。大人になってしまうと。でもやっぱりどこかで魔法を信じたいんです。大人もみんなディズニーランドが好きなのも、そうですよね。音楽もそうですけど、舞台は魔法そのものだと思うので、しっかりと、本物の魔法をみなさんにかけたい。劇場に来なければ体験できない魔法を、観客のみなさんにぜひ堪能してほしいと思っています」

ミュージカル「マチルダ」は、3月22日~3月24日のプレビュー公演を経て、3月25日~5月6日、東京・東急シアターオーブで上演される。大阪公演もあり。詳しい情報は公式HP(https://matilda2023.jp)で確認できる。

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撮影:岡千里

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