ストイックな“鎌倉殿”こと柿澤勇人がミュージカル版「東京ラブストーリー」に命がけ!【若林ゆり 舞台.com】

2022年11月27日 20:10


ミュージカル版「東京ラブストーリー」でカンチを演じる柿澤勇人
ミュージカル版「東京ラブストーリー」でカンチを演じる柿澤勇人

ミュージカルの世界にはストイックな人が多いと感じてきたけれど、こんなにもストイックな俳優にはめったにお目にかかれないのではないか。そう思わせるのが、ただいま大河ドラマ「鎌倉殿の13人」の“鎌倉殿”、実朝役で話題沸騰中の柿澤勇人だ。11月某日、彼は悩んでいた。ホリプロが手がけるオリジナルミュージカル「東京ラブストーリー」で“カンチ”こと永尾完治を演じるべく、稽古のまっただ中。疲れていないはずはない。それでも稽古後、汗を拭きながらインタビューに応じてくれ、「俳優人生で初めての壁にぶち当たっています」と正直な気持ちを聞かせてくれた。(取材・執筆・撮影:若林ゆり)

この作品は、元々は柴門ふみ氏による大ヒット漫画。1991年に織田裕二鈴木保奈美らの出演でドラマ化され、平均視聴率30%を超えて社会現象を巻き起こした名作だ。愛媛から東京に出てきた完治と、高校時代の親友・三上、片思いの相手だったさとみ、会社の同僚で自由奔放なリカとの間で繰り広げられるラブストーリーは、当時の若者たちを虜にした。この漫画を原作として、チャレンジングなミュージカル製作に定評のあるホリプロにより、30年あまりの時を経てミュージカル化されるというのだ。

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「これって、すごく超えなきゃいけないハードルの高い挑戦なんですよ。オリジナル作品をゼロから作ることの大変さ、要求されることの多いミュージカルの大変さをものすごく痛感しています。毎日、かなりの変更がありますし、それに追いつかなきゃいけないし、筋も通さなきゃいけない。みんなでいろんなアイデアを出し合いながら、ああでもないこうでもないと、トライ&エラーの繰り返しです。数日前から作曲家のジェイソン(・ハウランド)が稽古に加わってくれていて。彼の曲は一度聞いたらすぐに覚えられちゃうくらいキャッチーで美しい、いい曲ばかりなんです。でも、これをこの題材で、ミュージカルとして歌うのは本当に難しい。何が正解なのかわからなくて、もがいているところです」

2015年には、やはり日本発のオリジナルミュージカル「デスノート THE MUSICAL」で主人公の月(ライト)を演じていたけれど、そのときより大変?

「比べものになりませんね。『デスノート』は事件もいっぱい起こりますし、主人公の対立する構図とか、ミュージカルの題材としてもわかりやすい。役者としても感情が入りやすいし動きやすくはなるんですけど、今回の『東京ラブストーリー』は日常のなかのラブストーリーなんです。普通の、ごくごく当たり前な出来事や感情を、ミュージカルとしてどう歌えばいいのか。仕事や恋愛をするうちにいろいろ起こりますけど、僕たちが普段、生活していて歌うレベルの感情の起伏ってそんなにないですよね(笑)? もうギリギリまで最大限もがくしかない、ってところですね」

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恋愛に対しては、柿澤本人も「自分で決断できないしなかなか踏み切れなくて、どっちつかずの態度をとってしまいがち」。完治とは共通ポイントも結構あるのだとか。

「完治はちゃんと恋愛をしたことがない男で、わかりやすく言うと優柔不断。例えばあるひとりの女性と付き合っていても、もっと好きな人の方と上手くいったらそっちに流れちゃうような男なんですよ。だからお客さんはイライラするかもしれない(笑)。でもそういうのは人間的な部分だから、人間くさく演じたい。成長も見せたいと思います」

「ドラマ放映時は、リカとさとみのどっち派かということが話題だったみたいですけど、僕だったらやっぱりさとみですね。リカといると刺激的だけど、頑張ってあの自由なテンションに合わせなきゃいけないんですよ。自分の感覚と違うからこそ惹かれるっていうのはありますよね。でも結局、完治のベースとして流れているものは地方の愛媛の、自然があってせわしなくない、居心地のいい、あったかい場所。それがさとみであって、多分、本能的に求めていたんじゃないかな。僕も多分そういうタイプかなと思います。リカの一途に自分を思ってくれる気持ちはすごく感じているんですよ。でもそれに応えるのが、正直、重くなってくる。最初はすごい楽しいけど、だんだんしんどくなってくる恋愛ってあるじゃないですか。それに似たような感じなのかな」

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これまでの柿澤は、どちらかというと恋愛ものより、隣に仲間がいる方がしっくり来ていたようにも思えるし、純朴キャラよりは強烈な個性や野心をもった情熱的な役が多かった。しかし「恋愛ものに対する苦手意識はない」そうで、彼の苦悩は求めるものの高さゆえだ。

「歌は魅力たっぷりなんですけど、コンサートじゃないからただ歌えばいいってものじゃない。そこに伝えるべき心情が正しく乗らないと。僕はここ2年くらい、ミュージカルから離れていました。今年やった『ブラッド・ブラザーズ』はミュージカルではありましたけど、演出の吉田鋼太郎さんは、なんならもう音楽いらないっていうぐらいで『絶対に歌うな、全部セリフでしゃべるつもりでやれ』という作品でした。だから歌うということを一切考えないこの数年だったし、自分もそれを求めていたんです。だから久しぶりにミュージカルの現場でジェイソンの曲を歌うためには、喉の筋肉を相当鍛えなきゃいけない。芝居プラス歌の技術や表現が必要だから、2カ月くらいの稽古でものにできるのか、ギリギリの闘いなんです」

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この稽古に入る前には約半年の間、大河ドラマ「鎌倉殿の13人」に専心。三谷幸喜が描く新しい源実朝を演じた経験は、どんなものだったのか。

「あの環境は、僕がこの十数年『自分はこういうことがしたい』とか、『こういう人と出会いたい、こういう人たちのところで勝負したい』と言い続けてきたことが、やっと叶った現場でした。僕にとって理想の形そのものだったんです。とにかく共演者がみなさん、芝居のことしか考えてない、熱い人たちばかりで。みんながみんな、作品に対する愛がすごくあって、どんな役でも愛情をもって『やりきった』という表情でクランクアップされていく。すごく刺激を受けました。すべての作品が、こういう現場であるべきだと心の底から思いますね」

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柿澤の演じる実朝は、三谷をして「思い描いていた実朝がそこにいた」と言わしめた。

「実朝は下を向いて悩んでる時間が長かったんですけど、役者としてはすごく幸せな半年間でした。実朝について調べれば調べるほど、彼の悲しい人生を世間に知ってもらわないとかわいそうすぎる、という思いが強くなったので。僕は舞台が中心でしたから、おそらく視聴者のほとんどが僕のことを知らなかったと思います。ただ、演劇のファンの方たちは僕がダークな闇の部分とかを得意とするって認識されているようで。『泣き叫んでほしい』とか『暴れてほしい』とか、いろいろ言われていたらしいんですよ。けど、実朝はそういうことにはならないし(笑)。だから『裏切りたいな』と思ったんです、僕のそういうイメージを。それは三谷さんも多分思っていることで。『柿澤さん、こういう役は初めてでしょう』と。それを踏まえた上であの役を書いてくださったので、『人のことをしっかり見ているんだろうな』と思いましたね」

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そしてこの後、23年の3月からは名作ミュージカル「ジキル&ハイド」で主役のヘンリー・ジキルとハイドを演じることも決定。

「いろんな方から『すごく楽しみ』とか『いつかカッキーやると思ってた』などと言っていただいていて、驚いているんです。とにかく曲が好きで、鹿賀丈史さんが演じられていた頃からよく見ていましたけど、自分がやるとは考えていませんでした。役者としては、やっぱりひとりで二重の役を舞台でやるというのは単純にハードルが高いわけだから。映像だったら扮装を変えたり、編集や加工で別人に見せたりすることは、舞台より簡単な気がするんですけど、舞台は生なので、目の前でそれを見せなきゃいけない。大変だろうけど、やりがいがあるだろうなと思っています」

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「鎌倉殿の13人」で得た経験値は、柿澤を大きく成長させた。それが舞台にどう反映されるかも楽しみなところ。

「すごい先輩方の芝居を見ながら『自分の信じてきたことは間違っていなかったんだ』と思いました。作品とシーンを成立させるために、ものすごい熱量を持って『死ぬ気で』『命がけで』やる人ばかりでしたから。芝居って正解がないので、どうしても『この程度でいいや』とか、『これで今日はもう終わりにしよう』という風になっちゃうんですけど、実際はやってもやってもたどり着かない。それでもやっぱり求めていかなきゃいけない、満足したら終わりだって僕はずっと言い続けているんです。『鎌倉殿』はいろんなジャンルから来た方たちがいらっしゃったので、ぬるま湯でやってたらダメだって感じましたし、そういう現場でした。すごい共演者のみなさんのように、僕もこの経験値を無駄にしないよう『続けていかなければ』というのがいまの気持ちです」

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いま現在は、「東京ラブストーリー」に「命がけで」挑戦中。

「死ぬ気でやらないと、とても追いつきません。でも深刻な作品ではないので、楽しんでもらうことがいちばんですね。ミュージカルって外国で生まれたものなので、日本でミュージカルを作るということ自体、想像つかない人が多いと思います。ましてや『東京ラブストーリー』がミュージカルになるというと、ちょっとネガティブな意見をもつ方もいらっしゃるかもしれません。でも、それを裏切ることができるような作品にしていきたい。『日本で作るミュージカルって面白いじゃん』とか、『意外と頑張ったな』と思ってもらえたら最高ですね」

ミュージカル「東京ラブストーリー」は11月27日~12月18日、東京建物 Brillia HALLで上演される(キャストは【空】【海】の2チーム制で、柿澤は【空】キャストとして出演)。以後、大阪、愛知、広島公演あり。詳しい情報は公式サイト(https://horipro-stage.jp/stage/love2022/)で確認できる。

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撮影:若林ゆり

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