【ネタバレあり】「レジェンド&バタフライ」大友啓史監督&脚本・古沢良太が明かすタイトル&製作秘話

2023年2月8日 20:00


めくるめくトークを繰り広げた大友啓史監督(右)と古沢良太氏
めくるめくトークを繰り広げた大友啓史監督(右)と古沢良太氏

東映創立70周年を記念して製作された大友啓史監督、木村拓哉主演作「レジェンド&バタフライ」が1月27日、全国382スクリーンで封切られ、公開9日間で観客動員約83万人、興行収入約10億7600万円という大ヒットを記録している。映画.comでは、昨年6月の製作報告会見の直後、そして初日舞台挨拶直前の2回にわたり大友監督と脚本を手がけた古沢良太氏の取材を敢行。公開後の今だからこそ明かせる、目から鱗のエピソードをお届けする。(取材・文・写真/大塚史貴)


【「レジェンド&バタフライ」概要】
木村拓哉が織田信長、綾瀬はるかが妻となる「美濃のマムシ」こと斉藤道三の娘・濃姫(別名・帰蝶)を演じた今作の製作費は20億円。政略結婚で夫婦となったふたりが、一触即発の状態から、いかに思いをひとつにして本当の夫婦になっていったのかを描いている。木村をはじめとする俳優部の渾身の芝居、京都・太秦の職人たちによる丁寧な映画作りの神髄を垣間見ることのできる珠玉の168分。


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※本記事には「レジェンド&バタフライ」のネタバレが含まれています。未鑑賞の方は十分にご注意ください。

大友監督は、オファーを受けた際に「なぜよりによって信長?」という思いが正直あったと公言しているが、古沢氏の脚本初稿でそんな思いが覆されたとも明かしている。

大友「信長って、押さえておくべきポイントが多いうえに、描かれなければならない歴史上の事件も多い。オーソドックスなエピソードを押さえながら新しい信長の物語を作るのは、ハードルが高いなあと思っていて。でも、古沢さんの初稿を読んで“そういう事を心配しなくて良い脚本が来た!”という喜びがすごく大きかった」

これに対し、古沢氏も「確かに信長はやり尽くされていますが、濃というキャラクターをそこにかませる事で今まで描かれてこなかった信長の一面を表現できると思いました。信長や濃を知らない海外の人が観たとしても、普遍的な夫婦の物語としても成立させる事ができるのは、やりがいを感じました」と話している。


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古沢良太を驚かせた岐阜城のシーン

初日舞台挨拶直前に行われた2度目のインタビューは、大友監督と完成した作品を鑑賞した古沢氏が初めて顔を合わせるというタイミングだった。ここからは大友監督、古沢氏、そして時おり須藤泰司プロデューサーが飛び入り参加する形で、クロストークをお楽しみいただきたい。

――撮影中に須藤プロデューサーから現場の写真は送られてきたと聞いていますが、完成した本編を観ていかがでしたか? ご自身の想定を超えてきたシーンはありましたか?

古沢「映画らしい映画を観たというのが第一印象。ひと言で言い表すことがなかなか難しい。胸いっぱいになって劇場を出られる作品に仕上がっていましたね。木村さんと綾瀬さんの魅力が全て詰まっているというか……。あのふたりのことで、胸がいっぱいになるんですよ。

想定を超えてきたところ? ははは、全部ですよ(笑)。岐阜城のシーンにしても、『こんなところがあるんですね。行ってみたいな』と須藤さんに話したら、『作った』と言われて(笑)。全てが想像以上でしたね」

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「作った」のくだりで、大友監督をはじめ取材部屋にいた全員が爆笑したことは言うまでもない。大友監督も、オリジナル脚本を手がけた古沢氏の感想は気になっていた様子で……。

大友「間接的には聞いていましたが、直接聞けて取り敢えずホッとしました。僕は猜疑心の塊なんで(笑)。オリジナル作品を生み出した脚本家に満足してもらえるかどうかは、大切なことですから。木村さんをはじめとするキャスト、スタッフが現場に足を踏み入れた時に感動や驚きを覚えるということも演出上、大事にしていることです。そういう環境を用意して、もう一歩、背中を押す。東映さんが今回、そういうことをやらせてくれたことがありがたかった」


■2021年夏、仮で別のタイトルが付いていた…

――私が今作の取材を密かに始めた2021年夏ごろは、仮で別のタイトルが付いていました。「レジェンド&バタフライ」というタイトルについて様々な考察が展開されていますが、おふたりの口から直接、現在のタイトルに着地した経緯を聞きたいのですが……。

古沢「紆余曲折ありました。レジェンド&バタフライって想像のつかない面白さがあるんじゃないかと思ったんです。良い方に転べば色々なミーニングも出来るでしょうし、奇妙でとてつもないものという印象も抱ける」

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――私は、日本のマーケットだけを意識したものではない……という認識を得たのですが?

大友「そこまで考えていなかったかもしれない(笑)。邦訳すると、レジェンド&バタフライは『伝説と蝶』。僕も『本当にこれで大丈夫なのか?』と考えはしました。ただ、この作品は、内容の後にタイトルがついてくるという稀有なパターンではないかと思ってね。分かり難いかもしれないけれど、十分にタイトルが内容に寄り添っている。観てくれた方々が、ああ、そういう意味ね、と後から納得してくれるタイプのタイトルなんじゃないかと感じています」

――尺は2時間48分。全く長さが気にならないくらい作品世界に没頭しましたが、個人的にはもっと長くなるかと思いました。

豪快に笑う大友監督をフォローする形で、須藤プロデューサーが「むしろ、監督は短くしようと一生懸命に考えてくれていたんです」と説明する。「あの内容でどこか切ると、“血”が出ますよね。“血”を流して面白くなくなるのであれば、むしろこの長さがいいという判断です。会社の上層部もそういう決断をしてくれました」。

大友「描いているのは人間の30年ですからね。しかも信長と濃姫ですから。背景も含め、肉付けしなきゃいけないことが多いし、その密度を思うと簡単ではないですよね。まあ、若いうちはセリフもテンポよく出来るし、動きもね、軽くていいというか。でも年齢を重ね、それぞれの深い思いが生まれてくると、芝居が重厚になり、テンポが作れなくなっていく。どんどん感情が複雑になっていきますからね。間をつまんだり……ってことは、もはや問題じゃなくて。もっと大切なことがありますからね。

演者たちの、それぞれの一挙手一投足、ひと言ひと言にもすごく思い入れが入っているのが理解できたので、特に中盤以降は尺を気にすることにとらわれている場合じゃないなという感じになっていったんです。切るところは切っているので、もう切れない。この長さが適切なんじゃないですかね」


大友啓史古沢良太のあいだに1時間の誤差(笑)

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――古沢さんは脚本執筆段階では、どれくらいの尺を想定していたのですか?

古沢「2時間いくか、いかないかくらいの……」

大友「あれっ? 1時間の誤差がありますよ(笑)」

古沢「本編をみると、木村さんの表情ひとつとってもグイグイ引き込まれていきますから、これは切れないよな……というのは理解できます」

テンポの良い会話が展開されていくが、根底に流れているのは互いの仕事ぶりへの敬意であるということは、想像に難くない。大友監督は、惜しみなく古沢脚本を絶賛する。

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大友「方言や必要な情報こそ後から入れていますが、基本的にセリフはほとんどそのままで全く変わっていない。最初から信長と濃姫の関係性が丁寧に描かれていました。それがあると、僕らは遊べるんですよ。崩れない軸がどしっとあるから、今回は現場で安心して肉付けの方に頭を持っていけるのはありがたかったですね」

古沢「方言は監督が入れてくれたのですが、信長は偉くなっていくにしたがって訛りが薄まっていく。一方、濃姫は訛ったままで、2人の関係性を表現していました。変わっていく信長と、自分の身近な幸せを求め始めていく濃姫との対比がついていて、そういう点にも注目してほしいなと思いました」

――織田信長を描くに際し、政略結婚を突破口に濃姫との話を主軸に置いたのはすごく新しかったですよね。

大友「愛のない政略結婚をした2人に、時間の経過とともに感情が生まれてくる、そのプロセスが好きですね。愛がないといえばお見合いだって同じだって、現代も似たり寄ったりじゃないかな。今の若い子たちは出会いのきっかけがマッチングアプリだって聞いたことがあります。学生時代に電車の中で毎日顔を合わせて……みたいな淡い恋は、なかなかなくなってきているのかもしれませんね。そういう意味では、政略結婚って特別なことではなかったと解釈できる。今作を経て、『よし、俺、ラブストーリーも撮れるな』と思いました(笑)」


中谷美紀を興奮させた“血沸き肉躍る”ラブシーン

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――劇中で描かれる金平糖のくだりとか、監督の描く“血沸き肉躍る”ラブシーンだと思いましたよ。

大友「血まみれですか(笑)。中谷美紀さんに撮影中『あのシーン、どうなるんですか?』って好奇心満々で聞かれたので、『血まみれのラブシーンにしてやりますよ』と言ったら、『わたし、そういうの大好き!』って喜んでくれました(笑)。実際は、思ったほど血まみれにはなりませんでしたけどね」


また今作では、宮城・石巻市のサン・ファン館内にあった復元船サン・ファン・バウティスタ号が登場する。撮影後の老巧化によって解体された同号を使った南蛮船のシーンは、今後語り草になっていくはずだ。

――南蛮船のシーンは、クランクインして間もない頃に撮影したと木村さんからうかがいました。

大友「クランクインしてすぐだったので、信長と濃姫のドラマをまだ何も撮っていない段階でした。ただ、直感的にあのシーンには、2人が過ごしたかった一生というものを端的に込めるという意図があったんです。

当時、船旅って数年を要しても不思議ではない。その過程で台風に出くわすこともあったはず。だったら、それを本気でやっちゃえ!と。どのくらい船に乗っていたのかを想定し、そこから2人の喜怒哀楽のシーンを作っていったので、使わなかったものも含めると、結構、分厚く撮りましたね。実際に航海の時間を、少しでも演者たちに体感してほしいと思いましたから。

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とにかく幻想にはならないよう、水もぶっかけて、何トンもの水を落として、スタッフ皆にも今後の撮影に慣れてもらうという意図もありました(笑)。そう、最初って肝心なんです。風も凄い事になっていて、僕がスピーカーで『カット!』と言っても、大型扇風機の音で消されちゃって声が届かず、みんな延々と撮影している。まあ、リアルでしたよね(笑)。

停泊した船で芝居をするって、想像以上に難しい。VFXに最初から頼り切ってしまうと、ろくなことにならない。その場でリアルな感情を作ることに意義があるからこそ、とにかく2人(木村と綾瀬)を追い込む状況を作ってね。一方で、これで大丈夫なんだろうか? と自問自答していたのですが、そうすると須藤さんが優しく激励してくれるわけです(笑)」

須藤「見たことのない光景が毎日、目の前に広がっているわけですから、激励というか本心ですよ。実際、本当に大変なんですけど、僕もどこかネジが外れているので、『これが出来たらすごいよな!』という気持ちが勝っちゃうんですよ」

古沢「あのシーンは、もう少し幻想っぽく書いていたんです。それをリアリズムで撮っているから、もうひとつの現実から本当の現実に引き戻されるものになっていましたよね」

大友「僕は今作を、ハッピーエンディングだと思っているんです。2人が同じ刻に、同じ思いを抱いて死んでいったようにも、構成上は見える。最期を迎える信長と濃姫が、離れた場所で交互に同じ夢を見ている。2人が生きたかった人生を、最後に走馬灯のように目にしたってね。でも、実際にあのまま異国に辿り着いちゃったら、大変。言葉も通じないし、王様と姫だから仕事だって何もできない。お付きの人もいないし、何をするんだろう、この2人……と考えないでもないですけどね(笑)」

古沢「お付きの人たちはみんな、信長を守って死んでいっているのに……というのはありますよね(笑)。脚本には書かなかった部分として、濃姫のそばに南蛮屏風があるんです。これを見た濃姫が見た夢でもあるんだ……というのが分かって、すごく感動しました」

大友「あれは、美術部のお手柄で。セットに入った時に真っ先に目に入ったんですよね。で、どこかで使おうと思っていて。あの南蛮屏風は効いてきますよね」


■須藤プロデューサーが涙を流した場面とは?

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――木村さんへのインタビューでも、太秦の職人たちとのエピソードを盛り込ませてもらいました。大友監督にも改めて、撮影所のスタッフとの仕事を振り返ってもらえますか?

大友「先日、プロモーションで京都へ行って、綺麗にまとめてきたところなんです(笑)。僕自身もそうですが、1本1本が勝負。良いところを発揮してもらわないと、お互いに次に繋がらない。たとえば衣装、装飾、画面に映る小道具などは、たくさん“倉庫”の中に眠っているものがあるはずです。もちろん、倉庫というのは比喩ですよ。そこから出してきて並べる事はできるんだけど、ただ並べるだけでは既成のものを出したに過ぎない。

ドクロの盃にしても、京都には既成のものがある。でも浅井長政、浅井久政、朝倉義景、3人の頭の形はそれぞれ当然違う。信長の残酷性ばかりが今まで際立足せられてきたけれど、作っているのは明智光秀なわけです。光秀の知性も反映させたいと思うんですよ。で、調べてみると、人骨で作った器には復讐心ばかりではなく、中国の古事によると敬意も含まれていて、それで立派な装飾などが施されているんですよね。であれば、きちんと作らないといけませんよねって事になる。

大事なのは、京都が持っている素晴らしい技術を、作品の個性ごとに応用して提示できるのか。過去に作ったものをそのまま持ってくるのではなく、いかにアレンジして持ってこられるかだと思います。ただ、僕の方でも“気づき”はいっぱいあった。かつて京都の撮影所で撮った映画を改めて結構な数、観たんですが、1950~70年代のプログラムピクチャー時代の作品って、とにかく面白い。それを今の時代にどう活かすかというのは、職人的な発想とは違う、プロデュース的な発想が必要です。その部分が今回、僕に課せられた役割だったんだと思います。彼らも今回の仕事は手ごたえを感じているから、『お互いに頑張ったね』って握手ができました」

須藤「あの握手をしているところで、僕は一番涙が出ました(笑)」

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大友「継続するって大変ですよね。太秦の京都撮影所では15年くらい大作時代劇を作っていなかったから。でも、今回みたいな機会があって、僕みたいなうるさいやつが行くと、培ってきた素晴らしいノウハウがどんどん出て来て」


■太秦で大友3部作?

――撮影が終わった後にお会いした際にも、「撮影所の職人さんたちの仕事のレベルはとにかく高い。ぜひまたやりたい。今回の撮影で『大友が来たらこうなる』って諦めてくれたでしょうし(笑)」とおっしゃっていましたね。コンスタントに続くと面白いですね。

大友「しばらくいいや……と思っているんじゃないですかね(笑)」

須藤「僕みたいなネジが抜けた人が何人かいると、良いところしか覚えていないという状況が生まれる。またやりたいなっていう気になるんですよね。成功体験って恐ろしいもので(笑)」

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――太秦撮影で大友3部作などいかがでしょう?

須藤「じゃあ豊臣秀吉と徳川家康を!」

大友「古沢さんがいま、家康を書かれているからなあ…。井原西鶴とか世話物も面白いですよね。古沢さんが書いてくれないかなあって思っちゃう。今回は信長だからお金がかかってしまったけど、もう少し抑えられると思う」

須藤「………(怪訝な表情)」

大友「信用してくれてないみたいだ(笑)」

須藤「少し抑えても、あんまり変わらないですよ(笑)」

大友「いや、古沢さんの本が僕を誘っているんですよ」

古沢「誘っていないけどなあ。お城が大きくなっていく過程を1行2行、ちょっと書いただけだけど、これを本気でやったらえらい事になるんだろうな……というのは、恐れてはいたことですけどね(笑)」


まだまだ話は尽きない様子ながら、そろそろお後がよろしいようで……。今作に関わる誰も彼もが妥協知らずだったからこそ、これほどまでに一寸の隙もない作品が完成したことは最早語るまでもないだろう。大友監督が取材中に「継続することが大切」と話していたということは、近い将来に京都での再始動を視野に入れていると暗に明言したようなもの。監督・大友、脚本・古沢、プロデュース・須藤の再タッグは、いつ実現するのか。そして、次にどのような題材をピックアップするのかにも目を離すことができなくなった。

(執筆者:大塚史貴)

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