マイケル・スノウ、マン・レイ、黒沢清――建築という視点から映画を考える「建築映画館2023」開催決定

2023年1月17日 12:00


日本初上映作品「プロパティ」
日本初上映作品「プロパティ」

建築という視点から映画を考える映画祭「建築映画館2023」が、2月23~26日にアンスティチュ・フランセ東京で開催されることが決定した。建築に関する映画19作品が選定されており、「都市」「構造」「図面」「建築と人物」「アーカイブ」の5つのテーマに分けて上映される。

日本初上映となるのは「プロパティ」「Silent Witness」の2作品。1970年代のポートランドで地域の再開発から生活を守ろうとする住民達を描いたインディペンデント映画「プロパティ」は、若き日のガス・バン・サントが録音技師として参加。ケリー・ライカートなどの次世代の独立系映画作家に影響を与えたとして近年再評価されている。

また、映画がどのようにロサンゼルスを映してきたかを膨大なフッテージをもとに辿る壮大な映画エッセイ「ロサンゼルスによるロサンゼルス」は、字幕付き上映が日本初。さらに、23年1月5日に急逝した実験映画の大家マイケル・スノウ唯一の劇映画「SSHTOORRTY」など、滅多に上映機会のない貴重な作品の数々が集まる。

映画祭初日には「現代建築映像にまつわる対話」と題したオープニングイベントを行い、現代を生きる建築映像作家らの作品上映を交えながら、建築家とのトークショーを実施。そのほかにも、会期中は美術監督、建築家など映画・建築双方の分野からゲストを招待したトークショーを上映とあわせて行う予定だ。

「建築映画館2023」のチケットは「一般:1500円(上映のみの回)/ 1800円(トークありの回)/4200円(1日通し券)/1万5000円(4日間通し券一般)」「学生・障がい者:1200円(上映のみの回)/ 1500円(トークありの回)/3300円(1日通し券)/1万2000円(4日間通し券一般)※入場時に学生証・障がい者手帳を提示」(オープニングイベントは一般1500円、学生・障がい者1200円)。オンライン販売取り扱いはPeatix。販売開始は、1月23日の正午’※上映当日会場窓口にてチケットを若干数販売)。

上映作品の詳細は、以下の通り。


【都市】
人間の認識が及ばないほどに、概念や認識が無数に折り重なった都市の全体像を捉える方法のひとつとして映画がある。映画は自らが生み出した都市像を人びとに伝え、現実の都市へと影響を及ぼすことさえある。ここでは映画をつくる行為を通じて現実の都市へと接続する2作品を選出している。

●「プロパティ」(日本初上映/2月24日 15時40分~)
1979年/88分/デジタル/監督・脚本・製作:ペニー・アレン

1970年代のオレゴン州ポートランドで、急激に進むジェントリフィケーション(都市の高級化)から自分達の生活を守ろうとする住民達を描いた地域映画。都市計画に対するマニフェスト的な作品であり、その後のポートランドの変化と併せて考察したい。監督のペニー・アレンは70年代アメリカのインディペンデント映画シーンを先導した女性であり、ガス・ バン・サントや次世代のケリー・ライカートといったアメリカ北西部地域の独立系映画監督たちへ与えた影響から、近年その再評価が高まっている。本作には録音技師として若き日のガス・バン・サントが参加しており、ここでの撮影を通じて彼の初長編映画「マラノーチェ」(1986年)の原作者(本作主演のウォルト・カーティス)との出会いがもたらされたことでも知られている。

「ロサンゼルスによるロサンゼルス」
「ロサンゼルスによるロサンゼルス」

●「ロサンゼルスによるロサンゼルス」(日本語字幕付き初上映/2月26日 15時50分~※途中休憩5分あり)
2003~2014年/169分/デジタル/監督・調査・テキスト・製作:トム・アンダーセン

数々の作品の舞台となってきた都市・ロサンゼルス。これまでロサンゼルスで撮影された200本以上の映画フッテージを用いて、ロサンゼルスという都市が映画の中でどのような背景や被写体であったかを分析した映画エッセイ。映画のサイレント期から現代まで約100年にわたり、映画と都市が互いに影響を受けながら発展してきたことを明らかにしようとする。2014年に新たにリマスターと再編集、膨大な数の映像引用に対する著作権処理がクリアされ、商業公開とソフト化が可能となった。監督のトム・アンダーセンはロサンゼルス在住の映画監督・映画批評家・教育者であり、カリフォルニア芸術大学で長年にわたり映画分野の教員をつとめている。


【構造】
構造映画とは、ショット構成や物質的な支持体であるメディア(フィルムやビデオテープ)など、映画を成立させるための構造それ自体を主題とした映画を指す言葉である。これらの構造への操作によって喚起させられる空間体験が、建築と密接に関わる作品を上映する。

「11×14」
「11×14」

●「11×14」(2月23日 16時50分~)
1977年/81分/デジタル/監督:ジェームス・ベニング

「構造映画」の余波の中で製作された、ジェームス・ベニングによる初の長編映画。アメリカ郊外を捉えた65の静的なショットで構成されている。物語を超えて構図・色・テクスチャ・画面の内外の関係を映し出し、映画を見る側の自発的な空間への注視をうながす。

「WVLNT(“Wavelength For Those Who Don’t Have the Time”)」
「WVLNT(“Wavelength For Those Who Don’t Have the Time”)」

●<短編セレクションA>マイケル・スノウ作品集(2月23日 19時~)
 マイケル・スノウによる2000年以降のビデオ作品群。空間に対して複数の時間が重なり並行していく「WVLNT」「SSHTOORRTY」、配置された物や人物への画像変形処理によって空間性が変化する「The Living Room」など、映像的な操作によって空間が顕在化する3作品を上映する。

「WVLNT(“Wavelength For Those Who Don’t Have the Time”)」2003年/15分/デジタル/監督:マイケル・スノウ
「SSHTOORRTY」2005年/20分/デジタル/監督:マイケル・スノウ
「The Living Room」2000年/21分/デジタル/監督:マイケル・スノウ


【図面】
映画を分析・批評する目的で、映像の情報をもとに図面(主に平面図)を描き起こす方法が存在する。図面というフォーマットにより、映画に一人称ではない視点が与えられ、俯瞰的な議論の下地となる平面が生まれる。そうした映画の図面分析を通して、映画と建築の関係性を再考しうる作品を上映する。

「底抜けもててもてて」
「底抜けもててもてて」

●「底抜けもててもてて」(2月25日 14時20分~)
1961年/96分/デジタル/監督・製作・脚本・出演:ジェリー・ルイス

ジャン=リュック・ゴダールにも影響を与えたスラップスティックの名手ジェリー・ルイスによるコメディ映画。4階建ての女子寮のセットを断面から捉えた現実の空間では不可能なカメラワークとともに繰り広げられる取り留めのない物語が、セットという建築物によって、ひとつの映画へと繋ぎとめられる。

「雪夫人絵図」
「雪夫人絵図」

●「雪夫人絵図」(2月25日 12時10分~)
1950年/88分/35ミリ/監督:溝口健二

熱海の名邸・起雲閣で撮影された、旧華族の夫人、放蕩夫、夫人を慕う男が織りなすメロドラマ。後に「西鶴一代女」(1952年)で国際的評価を高めていく溝口健二の監督作。物語の流れに沿って効果的に建築の部分を映し出す手つきに着目し、再評価を試みる。美術監督・水谷浩が手がけるセットにも注目。

「クリーピー 偽りの隣人」
「クリーピー 偽りの隣人」

●「クリーピー 偽りの隣人」(2月25日 16時40分~)
2016年/130分/デジタル/監督:黒沢清

建築物の配置がストーリー上の重要な要素として登場するサスペンススリラー。撮影時も現場の俯瞰図のなかに役者の動線を描き込みながら演出をつけていくという黒沢清。その監督作品のなかでも、空間構成と物語の構成が互いを利用しながら展開していく本作を、改めて図面とともに見直したい。


【建築と人物】
 ある特定の人物がその映画に関わっていることが大きな意味をもつ映画をとりあげる。ここで言う人物は、映像を撮った人物の場合もあれば、映像に映る人物の場合もある。その人物は建築的な言葉でいえば、施主である場合もあれば、利用者である場合も、もしくは設計者である場合もある。こうした人物と建築の関係をめぐって、上映プログラムを選定した。

「Koolhaas Houselife」
「Koolhaas Houselife」

●「Koolhaas Houselife」(2月24日 14時~)
2017年/58分/デジタル/監督:イラ・ベカ、ルイーズ・ルモワンヌ

OMAの設計によって1998年に竣工した「ボルドーの住宅」を、その掃除をする家政婦の所作を追いかけることで描き出した作品。世界で活躍する建築映画作家ベカ&ルモワンヌの処女作にして傑作。

「Silent Witness」
「Silent Witness」

●<短編セレクションB>近現代建築と運動(上映51分+トークショー 2月24日 17時50分~)

マン・レイが住宅建築を舞台に製作した映像や、ル・コルビュジェによるモダニズム建築のプロパガンダ的映像作品「今日の建築」、本邦初公開となるOMA設計の「ヴィラ・ダラヴァ」竣工直後の映像作品「Silent Witness」など、建築家の設計による建築物を撮影対象とした映像作品を中心に、「運動」という共通のテーマのもと上映を行う。

「サイコロ城の秘密」1929年/26分/デジタル/監督:マン・レイ
「今日の建築」1930年/10分、デジタル/製作・撮影:ピエール・シュナル
「Silent Witness」日本初上映/1992年/12分/デジタル/撮影・編集:クラウディ・コルナース、編集:ハンス・ベールマン
「Renee’s Sweetness」(映画「1,2,3 Rhapsody」より)1965年/3分/デジタル/監督:1,2,3グループ(レネ・ダルダー、レム・コールハースヤン・デ・ボン、キース・メイヤーリング、フラン・ブロメット


【アーカイブ】
 映画の保存・継承は、映画フィルムのなかに遺されてきたさまざまな建築空間を、時間や場所を超えて体験することを可能にしてくれる。スクリーンを通して、映画によって建築を記録/伝達するこれまでの試行をその黎明期から見つめ直す。

「チセ・アカラ ──われらいえをつくる[日本語版]」
「チセ・アカラ ──われらいえをつくる[日本語版]」

●「チセ・アカラ ──われらいえをつくる[日本語版]」(2月26日 12時~)
1974年/57分/デジタル/監督:姫田忠義

消えてしまったアイヌの伝統的な家づくりとその文化的背景を伝えるため、アイヌ文化研究者の萱野茂がアイヌの青年たちと2軒の民家をつくる様子をとらえた貴重なドキュメンタリー。宮本常一に師事し日本各地の消えゆく生活文化を記録し続けた姫田忠義が監督を務めた。日本語版にくわえて英語版とアイヌ語版が存在する。

「農村住宅改善」
「農村住宅改善」

●<短編セレクションC>建築メディアとしての日本映画(計65分 2月26日 14時~)
 建築が映画の主題として扱われた日本映画4作品を紹介。リサーチ(「農村住宅改善」)や設計・プレゼンテーション(「コミュニティ・ライフ」「出合いの街」)、広報(「ARCHITECTURES JAPONAISES」)といった建築をつくる過程を巡るさまざまな行為とその映像表現の多彩さに着目したい。

「農村住宅改善」1941年/20分/デジタル/監督:野田真吉
「ARCHITECTURES JAPONAISES(日本の建築)」1937年/13分/デジタル/撮影:三村明
「コミュニティ・ライフ」1972年/13分/35ミリ/監督:松本俊夫
「出合いの街 集住体──パサディナ・ハイツ」1974年/19分/デジタル/製作・演出・脚本:松本俊夫

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