700年前の叙事詩を、現代にも響く物語へ A24の壮大なファンタジー「グリーン・ナイト」デビッド・ロウリー監督の挑戦

2022年11月25日 10:00


デビッド・ロウリー監督が語る、ファンタジーへの思い
デビッド・ロウリー監督が語る、ファンタジーへの思い

「指輪物語」の作家J・R・R・トールキンが現代英語に翻訳し世に伝えた、14世紀の作者不明の叙事詩「サー・ガウェインと緑の騎士」。“中世文学の最高傑作”とも名高い、示唆に満ちた謎めいた物語を、「A GHOST STORY ア・ゴースト・ストーリー」のデビッド・ロウリー監督と、映画スタジオ・A24が映画化した「グリーン・ナイト」が、11月25日から公開中。映画.comはロウリー監督にインタビューを敢行。現代にも通じる点を見出した原典を映画化するに至った理由、出演したデブ・パテルアリシア・ビカンダーとのタッグ、ロウリー監督のファンタジーへの思いについて、語ってもらった。(取材・文/編集部)

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アーサー王の甥であるサー・ガウェイン(パテル)は、正式な騎士になれず、人々に語る英雄譚も持たぬまま、空虚で怠惰な日々を送っていた。そしてクリスマスの日、円卓の騎士たちが集う王の宴に、全身が草木に包まれたような風ぼうをした“緑の騎士”が現れ、恐ろしい首切りゲームを持ちかける。

その挑発に乗ったガウェインは、緑の騎士の首をひと振りで斬り落とすが、彼は転がる首を自ら拾い上げると、「1年後に私を探し出し、ひざまずいて、私からの一撃を受けるのだ」と告げて去る。それはガウェインにとって、呪いと厳しい試練の始まりだった。気が触れた盗賊、さまよう巨人、言葉を話すキツネ……生きている者、死んでいる者、そして人間ですらない者たちが次々と現れ、ガウェインの旅路を導いていく。

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――原典「サー・ガウェインと緑の騎士」は、さまざまな解釈が可能な物語です。ロウリー監督は長年にわたり、映画化への思いを深めていらっしゃったそうですね。原典のなかで魅力的に感じた部分や、どのような物語として解釈したのか、ご意見を教えてください。

とても薄気味悪いと思いました! 19歳のときに初めて読んだのですが、そのときは暴力やゴア描写、官能的なところにとても惹かれました。でも、後になって読み返すと、全体に漂う死生観や、現代に通じる文化性を感じられることが一番印象に残ったんです。700年前の詩人が書いたものがこれほどに現代に通じているというのは面白いですよね。私たちの周囲には日々、楽な道、最も抵抗の少ない道を選ぶ機会が溢れています。この詩は、その逆をやることに価値を見出そうというものです。

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――映画化にあたり、「若者が冒険を通して、自身の内面と向き合っていく成長譚」という側面を強調し、設定を変更したり、エピソードを追加したりされています。どのような方針で、物語を作り上げたのでしょうか。

私が加筆・修正したのは、ほとんど原典から推測したものです。詩のなかには、聖ウィニフレッドの井戸の話(※聖ウィニフレッドは、7世紀の聖女で、聖バイノの姪。求愛を断ったことではねられた彼女の首が、坂を転がり落ちて止まった先で、泉が湧き出して井戸になる。聖バイノの祈りで、首がつながって生き返ったウィニフレッドは、生涯を信仰に捧げたという伝承)など、どうしても、それだけで章立てしたくなる箇所があります。物語がさまざまな遠回りをしていくので、ガウェインはもっと真っ直ぐな軌跡をたどる方が、観客が迷わないと思いました。それから意識したのは、ガウェインと緑の騎士が交わす約束が、現代の観客にとって共感できるものであるかということです。詩を読んでいるときには気にならなくても、映画として見たときに、なぜガウェインはこの旅に出発するのかという理由を理解してくれなければ、そもそも成立しないですから。

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――特にガウェインの造形は、原典の「人格の完成された高潔な騎士」から、本作の「語るべき伝説を持たず、堕落した生活を送る、未熟な騎士ですらない若者」へと、大胆に変更されています。この変更の意図と、ガウェイン役のデブ・パテルをキャスティングされた理由を教えてください。

映画では、詩のように微妙なニュアンスを表現することはできないからです。彼がまだ騎士にはなれていないという変更点が、特に役に立ちました。原典でのガウェインはすでに百戦錬磨の騎士ですが、その状態で登場すると、観客は彼が成長していく様子を追体験しにくいのではないかと思ったんです。そのおかげで、彼に明確で、共感の持てる目標を持たせることができたと思います。

出会ってすぐに、「役柄にぴったりだ」と感じさせられる俳優にめぐり会うことがあります。デブ・パテルの場合もそうでした。彼を起用することで、観客がガウェインのキャラクターを応援してくれる理由になるだろうとも思いました。彼だからこそ出せる鮮烈さも生まれたんじゃないかと思います。

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――いくつかの改変ポイントのなかで、ガウェインの恋人エセルと、旅のなかで出会い、ガウェインを誘惑する城主の奥方が瓜ふたつという設定が印象的でした。この改変の意図と、一人二役を務めたアリシア・ビカンダーとの仕事の感想を教えてください。彼女は、脚本が完成した1週間後という初期段階で、ストーリーを読んでいたそうですね。

アリシア・ビカンダーと私は、早い段階でZOOMでの打ち合わせをして、脚本について素晴らしい会話を交わしました。その時点では、彼女にどの役を演じてもらうべきか迷っていたのですが、最終的には、エセルと奥方の両方を演じてほしいと思いました。多くの部分でふたりのキャラクターは写し鏡になっていると思うからです。原典にも変装や、ふたりの人物の重複といった考え方があるので、一人二役というのも、その延長線上にあるような気がしました。

アリシアとの仕事は、とても楽しいものでした。彼女の演技を見ていると、魔法にかけられたような気持ちになります。撮影中はいつも、一日の終わりにその魔法が解けるまでに時間がかかりましたね。

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――巨人をはじめとする壮大なスケールの映像や美術も見どころですが、ビジュアル面のこだわりを教えてください。

私はこの映画のスケールを大きくしたいと思っていました。登場人物が少なく、クローズアップを多用した、とても親密でパーソナルな映画ですが、同時に壮大で叙事詩的な感じを出したかったのです。

その上で、円卓のシーン以外は全てロケで撮影しています。この映画に限らず、自分が作る映画はなるべくロケにしたいと考えているからです。

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――本作のほかにも、「ピートと秘密の友達」や、「ピーター・パン&ウェンディ」が待機するなど、ファンタジー作品も数多く手がけていらっしゃいます。ご自身のクリエイティビティ、または本作の製作に影響を与えた作品を教えてください。

たくさんありますね。私はあらゆるものからインスピレーションを受けます。驚きや感動を与えてくれるものなら、どんなものからも刺激を与えられるんです。でも時には、本当に優れた職人技が全てと思うこともあります。美しく書かれた文章、本当に見事なドリーショット。それだけでいいんです。

この映画への影響でいうと、ロン・ハワード監督の「ウィロー」でしょうか。ファンタジー映画であり、「グリーン・ナイト」に最も大きな、直接的な影響を与えた作品のひとつです。子どもの頃に手に入れたアクションフィギュアを、いまでも全部持っています。

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――映画の題材として興味のあるトピックや、次回作の構想があれば、教えてください。

いま、次の映画に取りかかっているところです。音楽と友情についての映画になると思うのですが、まだよく分かりません。私は完成するまで自分の映画を完全に理解することができないんです。

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