性体験のない主人公が経験豊富な親友に秘密の頼み事 ヨルゴス・ランティモス製作・出演「アッテンバーグ」監督インタビュー&場面写真

2022年10月5日 12:00


ギリシャ映画「アッテンバーグ」の一場面
ギリシャ映画「アッテンバーグ」の一場面

映画配信サービス「JAIHO(ジャイホー)」(www.jaiho.jp)での、ギリシャ映画「アッテンバーグ」(2010/日本劇場未公開作)の配信を記念し、アティナ・ラヒル・ツァンガリ監督のインタビューと場面写真が公開された。

ティナ・ラヒル・ツァンガリ監督
ティナ・ラヒル・ツァンガリ監督

アッテンバーグ」は、「ロブスター」(15)、「女王陛下のお気に入り」(18)の鬼才ヨルゴス・ランティモスが製作・出演し、“ギリシャの奇妙な波(Greek Weird Wave)”と呼ばれるムーブメントを代表する1作。第67回ベネチア国際映画祭でプレミア上映され、本作で長編映画デビューしたアリアン・ラベドが最優秀女優賞を受賞するなど高く評価され、第84回アカデミー賞外国語映画賞ギリシャ代表にも選ばれた。主演のラベドは、本作で共演したランティモスと2013年に結婚している。

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<あらすじ>
23歳のマリーナ(アリアン・ラベド)は、海岸沿いの工場の町で建築家の父と暮らしている。男性経験の無いマリーナは、経験豊富な親友ベラとキスの練習や性に関する相談を重ね、若いエンジニア(ヨルゴス・ランティモス)相手に実践を試みる。マリーナの父は病に侵されていて、余命が少ないことを感じているマリーナは、ベラにある頼み事をする…。

――主人公・マリーナのキャラクターはどこから着想を得ましたか?

この作品は、私がギリシャで撮った最初の映画です。自分自身の言葉で映画を作れるかどうか、作れるとしたらどんなものなのか、それを考えるのに何年もかかりました。長くアメリカで過ごしたため、自分をギリシャの映画監督としてとらえるのはとても難しく、ギリシャ語で書くことも難しい。だから、自分の周辺の環境にも社会にも属さない少女の物語にしました。

――マリーナとベラの動物的な要素について教えてください。

動物学者のデイビッド・アッテンボローの映像をたくさん見ました。キャラクターを動物のように育てることが重要だったからです。俳優達にはそれぞれ好きな映像や動物があり、それは彼らが演技をしているときの記憶でもあります。私はアッテンボローの熱烈なファンで、子どもの頃から彼の映像を見続けてきました。とても優雅で、自然や被写体に対する優しさを持っていて、映画におけるキャラクターへのアプローチ方法について、私にとって大きなお手本となっています。

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――冒頭のキスシーンやマリーナとベラの関係が衝撃的ですが、どのような意図がありましたか?

冒頭のシーンはただのキスであってレズビアンのシーンではないので、余計に物議を醸すのだと思います。2人の女性が一緒に居たり、愛し合ったり、自身の性的指向に気付いたりするシーンではありません。ある少女が別の少女に、基本的な物事を教えるという内容です。それは、ギリシャでは非常に稀な、同じ目線に立って対等であろうとする父と娘の関係のようなものです。彼女は父親とはとても親密な関係ですが、ベラとは非常に敵対的な関係にあります。

――恐怖や緊張の不安な気持ちがうまく表現されている、マリーナとエンジニアのラブシーンについて教えてください。

マリーナは、異国のものについて探りながら、ひたすらしゃべり続けるというアイデアが良いと思いました。役者への演出という点だけでなく、皆友達で仲間意識が強かったのがとても良かったですね。その親密さが光っていたと思います。あのシーンはぎこちなく見えないように、あまりリハーサルをしませんでした。また、私がしばらく前から考えていることなのですが、私より若い世代の女の子たちはセクシュアリティに夢中で、自分の体について何の恐れも持っていないのです。

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――マリーナと父親の相性の良さと早口でまくしたてるような話し方が特徴的ですが、全て台本通りでしょうか?

セリフについては、ほとんどが台本通りでした。セリフはもちろんボディランゲージも含めて綿密にリハーサルを行いました。私はハワード・ホークスと彼の監督作「ヒズ・ガール・フライデー」(40)のようなスクリューボール・コメディに強いこだわりを持っていて、センチメンタリズムや自然主義的なメロドラマはあまり好みません。この作品では、全員が誰かと交渉しなくてはならず、触媒として働く第三者も必要で、それは非常に重要なことでした。感情と距離の関係をどのように調節すれば、突飛でもなく芸術的でもなく、ラブコメ映画のようにならないか、自分の言葉を徐々に発展させていこうとしているところです。

――あなたはギリシャで自身の制作会社を設立し、「籠の中の乙女」(09)の製作にも携わっており、ギリシャの映画界に活気を吹き込んでいますね。

ギリシャの映画界が活気づいているのは既に起こっていることで、私は数年続いている状況のなかの一部でしかありません。ギリシャで初めて製作した映画は、ヨルゴス・ランティモスの初の長編映画「Kinetta」(05)でした。自由で独立した感覚を味わえるので、私は自分の作品をプロデュースするのが好きです。「籠の中の乙女」と「アッテンバーグ」には共通点があるという人もいますが、私はそうは思いません。しかしヨルゴスと私は親類関係のようなもので、長い間ともに議論し仕事をしてきました。

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――非常にモダニズム的な雰囲気を持っている「籠の中の乙女」と「アッテンバーグ」のロケーションについて教えてください。

私が生まれ育った町へ戻り、撮影をしました。そこは60年代に建設された企業城下町で、70年代には多くの若いエンジニアが移り住み、その家族がこのモダニズムのユートピアに住んでいました。フランスの巨大コングロマリットに属する会社だったことも起因して、住民は半分がギリシャ人で半分がフランス人でした。私たちはその地を離れることになりましたが、私と妹は夏になると何度も足を運びました。なので、マリーナがディスコで男の子に夢中になるように、性に目覚める場所というイメージを持っていたのです。

――ある意味、とても美しい町だと思いました。父親とのシーンでマリーナが「画一的なものはとても落ち着く」と言うシーンがありますね。

とても美しいんです。町はとても活気があり、幸せで、スポーツや芸術が盛んだったと記憶しています。そんな文化的な環境でした。冬にクルーと一緒に戻ると、ゴーストタウンのような雰囲気があり、それがとても私に合っていました。20世紀の失敗についての父親の認識と一致していました。しかし、私たちスタッフにとって、この何もない画一的な町、白いブロックばかりの町での撮影は、とても不思議なものでした。まるで月のような、地球外にある町のようで、伝統的な美しさがないのです。

アッテンバーグ」はJAIHOにて11月14日まで配信中、12月9日~12月18日実施予定のシネマ映画.com×JAIHOのコラボ企画「JAIHOセレクション」でも配信予定。

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