【アジア映画コラム】「配信」という鑑賞手段を再考する――アジア映画ファンが注目「JAIHO」の斬新な試み

2022年4月13日 15:00


「JAIHO(ジャイホー)」
「JAIHO(ジャイホー)」

3月10日~20日に開催された第17回大阪アジアン映画祭。今回も参加させて頂きましたが、香港映画「アニタ」をはじめ、多くの上映で満席状態。今回も大盛況のうちに幕を閉じました。

ポン・ジュノ監督作「パラサイト 半地下の家族」に続き、濱口竜介監督作「ドライブ・マイ・カー」が全世界を席巻しました。アジア映画への注目度は、より高まっています。一方、日本国内で劇場公開された映画のなかで、アジア映画の本数は決して多くはありません。映画制作がどんどん簡単になっている昨今、年間の新作本数は、これからも増え続けていくでしょう。その結果、劇場公開の枠は取り合いとなり、一般公開へと至らない良作が増えていくわけです。例えば、大阪アジアン映画祭で非常に話題になっても、映画祭上映のみに留まり、劇場公開を実現できなかったというケースは少なくありません。

となると「配信」という鑑賞手段は、ますます重要になってくるはずです。新型コロナウイルスの影響によって、Netflixを筆頭とした映像ストリーミングサービスは、映画業界の地図を変えつつあります。配信と劇場の議論は継続していくでしょう。しかし、配信は、劇場公開よりも多くの人々にさまざまな映画を提供できる。劇場公開よりも経済的なリスクも少ないため、配信プラットフォームのオリジナル作品だけでなく、劇場公開をせず、直接配信してしまうという事例も増えています。

実際、日本でも新しい動きが既に始まっています。そのなかでも、アジア映画ファンが注目しているのは、株式会社ツインが運営する「JAIHO(ジャイホー)」という配信プラットフォームです。

大阪アジアン映画祭のプログラミング・ディレクター暉峻創三さんは「JAIHO」を非常に高く評価しています。

「JAIHOは“オンラインで映画を見る”という新たな時代を作っています。鑑賞できる作品数は決して多くはありませんが『日本の映画ファンは、どのような作品を見たいのか』というものを的確にとらえている。『映画ファンとして見てみたいが、劇場で見ることが叶わない作品』を発見し、配信しているんです。これまでの配信プラットフォームとは異なり、新しい道を切り拓いています」

「ルージュ 4K」
「ルージュ 4K」
「ザ・ブローラー/喧嘩屋」
「ザ・ブローラー/喧嘩屋」

直近の配信作品を確認してみましょう。香港のスター、アニタ・ムイの代表作「ルージュ 4K」を独占配信しているだけでなく、ホウ・シャオシェン監督の名作「ナイルの娘」、「デーヴD」「血の抗争」のアヌラーグ・カシャップ監督の隠れた名作「ザ・ブローラー/喧嘩屋」などがラインナップされています。

今回、JAIHOの宣伝担当・徳嶋万里子さんにお話を伺いました。話を聞けば聞くほど、日本で鑑賞できる映画作品の数は“「JAIHO」によって、さらに豊かになる”と確信しました。


――まずは「JAIHO」を開設するに至った経緯を教えてください。

徳嶋:きっかけはコロナですね。2020年4月、最初の緊急事態宣言が発令された時、私たちは在宅勤務となり、劇場も完全に止まっていました。その時、社長から「せっかく時間があるので、新しい事業のアイデアを募集したい」と言われたんです。そこから生まれたのが、映画配信サービスの話です。

とはいえ、Netflixさん、U-NEXTさんといった競合他社がいますし、そこに参入するのは、とても勇気が必要なことです。ただ、社長は「毎年世界各国の映画祭に行って、映画の買い付けを検討している。しかし“自分が良いと思った映画”を、全部買い付けるわけにはいかない。そういった作品を中心に、配信する場があれば…」という考えを持っていました。だからこそ、他の配信プラットフォームさんと差別化を図りながら、実際にやってみようということになりました。

「JAIHO」という言葉には「万歳!」「勝利あれ!」という意味があるんです。映画を見た時の喜び、隠れていた良作を発見した時の感動といった意味合いも含めて、「JAIHO」は誕生しました。

――なるほど! 本当に素晴らしいサービスです。世界中で新たな作品が次々と製作されていますが、「JAIHO」はどのような基準で作品を選定しているのでしょうか?

徳嶋:基本的には、エリアごと、国ごとで手分けして探しています。担当者が面白いと感じた作品を、定期的に会議をして、情報共有しています。中心となっているのは、海外での受賞実績があったり、高く評価されているにもかかわらず、日本国内で公開が実現できていない作品。それと、カイエ・デュ・シネマの年間ベスト10にランクインした作品ですね。実は上映されていない作品は、結構あるんです。

――アジア映画に関して言えば、日本での一般公開はまだまだ機会が少ないと思っているんです。東京国際映画祭、東京フィルメックス、大阪アジアン映画祭などで評価された作品でさえ、なかなか一般公開に結びつかない。ましてや、その他の映画祭で評価されたアジア映画は、特に“無視”されているような気がしています。そういう意味では「JAIHO」は、かなり貴重な存在ですよね。作品の選定には、東京国際映画祭プログラミング・ディレクターの市山尚三さん、大阪アジアン映画祭の暉峻創三さん、アジア映画研究者の松岡環さんが“アドバイザリーボード・メンバー”として関わっています。

徳嶋:アジア映画に関しては、特に力を入れています。新作だけでなく、70~80年代の作品、モノクロの作品も定期的に配信しています。ツインは、もともと韓国映画、インド映画などを配給しているので、長年お付き合いしているセールス会社もいますし、最新情報を常にチェックできているんです。ただし、私たちだけで作品を探していると、どうしても(選定が)偏ってしまう。そこで、さまざまな専門家に依頼をして、情報収集を行っています。アジア映画の選定に関しては、もはや情報戦と言えます。

昨年配信した台湾映画の「ゴッドスピード」(チョン・モンホン監督)、「大仏+」(ホアン・シンヤオ監督)、「血観音」(ヤン・ヤーチェ監督)は非常に反響が良かったです、ファンの方々が、わざわざ感謝のメールを送ってきてくださったんです。改めて、アジア映画の魅力を感じましたね。

「ゴッドスピード」
「ゴッドスピード」
「大仏+」
「大仏+」
「血観音」
「血観音」

――配信期間を「30日間/60日間」に限定するという試みもユニークです。

徳嶋:「JAIHO」は他社の出資を受けずに弊社だけで運営しているため、多くの作品を配信したいという思いはあるのですが、費用などの負担を考えると、限定配信が一番理想的な形なんです。権利元とも話し合った結果、今のような形で進んでいます。

ローンチと同時に配信したインド映画「'96」や韓国映画「小公女」は、当時非常に評判が良かったんです。「もう一回見たい」という意見が多かったので、今年2月、権利元と相談し、常時配信という形にしました。このような柔軟に調整できるシステムで継続していきたいと思っています。

――それは非常に良い形ですね。ただし「配信作品の本数が多い」「配信作品の認知度がそこまで高くない」という点に関しては、宣伝が難しいのではないかと感じています。いかがでしょうか?

徳嶋:仰る通りです。本当に知られていない作品ばかりなので、ほぼゼロからのスタート。とても苦戦しています。最近は、作品単体というよりも、「JAIHO」というユニークなサービスの魅力を伝えるという点を重視して、宣伝を行っています。例えば「きみの鳥はうたえる」の三宅唱監督に依頼し、「JAIHO」のプロモーション映像を作っていただきました。また、劇場に通っている“シネフィル”の方々にもサービスをお伝えするために、テアトル系列の映画館の幕間でプロモーション映像を流しています。また、監督のメッセージ動画を撮ったり、インタビューを実施したりしていますね。

――第71回ベルリン国際映画祭で金熊賞に輝いた「アンラッキー・セックスまたはイカれたポルノ 監督〈自己検閲〉版」は、JAIHOの配給で、4月23日(土)から劇場公開されます。これにあわせて、監督のラドゥ・ジューデの旧作「アーフェリム!」もJAIHOで配信。そして、第二次世界大戦下、オデッサで起きたルーマニア軍による虐殺を題材にした問題作「野蛮人として歴史に名を残しても構わない」も4月16日から配信を予定しています。このような「配信+配給」という点も、非常に斬新です。

徳嶋:今年から「配信+配給」の形で、色々やっていこうと考えています。その場合、ツインとのすみ分けはどうするのか。これに関しては、ツインは今まで通り、エンターテインメント寄りの作品を配給し続けます。JAIHO配給作品は、「JAIHO」で配信されているような作品と“同じカラー”としていきたいんです。

「ナイルの娘」
「ナイルの娘」
「マンタレイ」
「マンタレイ」
「私が、生きる理由」
「私が、生きる理由」

――では、今後配信を予定しているアジア作品を紹介していただけますか?

徳嶋:3月からは、ホウ・シャオシェン監督の特集をスタートしています。そのなかでも「ナイルの娘」は、独占先行配信です。4月には、2018年・ベネチア国際映画祭オリゾンティ部門で最優秀作品賞を受賞したタイ出身のプッティポン・アルンペン監督作「マンタレイ」、「美術館の隣の動物園」「おばあちゃんの家」で知られる韓国を代表する女性監督イ・ジョンヒャンの名作「私が、生きる理由」などのプレミア配信を予定しています。

(徐昊辰)

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