「沈黙のパレード」で福山雅治代表作「ガリレオ」シリーズは存続できるのか?【コラム/細野真宏の試写室日記】

2022年9月16日 09:00


「沈黙のパレード」
「沈黙のパレード」

映画はコケた、大ヒット、など、経済的な視点からも面白いコンテンツが少なくない。そこで「映画の経済的な意味を考えるコラム」を書く。それがこの日記の核です。また、クリエイター目線で「さすがだな~」と感心する映画も、毎日見ていれば1~2週間に1本くらいは見つかる。本音で薦めたい作品があれば随時紹介します。更新がないときは、別分野の仕事で忙しいときなのか、あるいは……?(笑)(文/細野真宏)


今週末9月16日(金)から、「ガリレオ」シリーズ待望の劇場版「沈黙のパレード」が公開されます。劇場版の公開は、2013年の「真夏の方程式」から実に9年ぶりとなりました。

そもそも「ガリレオ」シリーズは、1996年に東野圭吾による推理小説として発表され、2007年10月からフジテレビ系列の「月9」枠でテレビドラマ 「ガリレオ」として放映。平均視聴率21.9%(ビデオリサーチ調べ、関東地区)を叩き出しました。

福山雅治が主人公の物理学者・湯川学を演じていて、“「ガリレオ」といえば福山雅治”と思えてしまうほどの当たり役となっています。

「容疑者Xの献身」
「容疑者Xの献身」

そして、ドラマの勢いそのままに、原作「ガリレオ」シリーズ初の長編作品を映画化した「容疑者Xの献身」が2008年に公開され、興行収入49.2億円を記録しました。

その後、2013年4月から待望の「第2シーズン」として、フジテレビ系列の「月9」枠でテレビドラマ 「ガリレオ」が放映され、こちらも平均視聴率19.9%(ビデオリサーチ調べ、関東地区)と高視聴率を維持しています。

「真夏の方程式」
「真夏の方程式」

その流れで映画化第2弾であり、原作「ガリレオ」シリーズ3作目の長編作の映画化「真夏の方程式」が2013年に公開され、興行収入33.1億円を記録しています。

そして、2018年に原作「ガリレオ」シリーズ4作目の長編「沈黙のパレード」が出版され、映画化第3弾として2022年9月16日に公開されるのです。

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このように、「ガリレオ」シリーズは原作の進行状況にも左右されるため、期間が空いてしまう面があります。

そのため、「旬」を逃してしまうリスクが付きまとうのです。

個人的には、シリーズの出来も良く、続いてほしい作品ではあるのですが、アニメーション映画とは違って実写映画の場合はキャストが年齢を重ねてしまいます。

そこで、どこかで無理が生じてしまいますが、本作「沈黙のパレード」を見た感触としては、まだまだ問題なく行けると思っています。

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ただ、それの判断は、本作の興行収入にかかっている面もあり予断を許さない状況もあるのです。

作品の「旬」というのは、本当に難しい問題で、世の中には流行り廃りが必ずあります。

象徴的な作品には、例えば同じくフジテレビ映画で、第3弾まで公開された「土竜の唄」シリーズがあります。

第1弾「土竜の唄 潜入捜査官REIJI」は2014年に公開され、予告編を見た時は「ここまで体を張った映画がウケるのか?」という疑問はありましたが、「意外性」がウケたようで結果は興行収入21.9億円というヒットを記録しました。

第2弾「土竜の唄 香港狂騒曲」は2016年に公開され、前作の勢いもあり、興行収入14.3億円を記録しています。

ただ、第3弾「土竜の唄 FINAL」は2021年に公開されましたが、正直なところ、「これは危ないのでは?」というリスクも感じていました。

コロナ禍という想定外の問題が発生したこともあり、5年間という空白期間により「旬」は過ぎ去った感があったこと。加えて第1弾の際に感じた「体を張ったシーン」が、もはや時代の雰囲気から厳しいのでは、という予感がありました。

第1弾の際には、勢いと意外性で「体を張ったシーン」(要は、下ネタ系です)がウケたのですが、作品が「旬」を過ぎると、内輪ウケのような面が出てしまうのです。

それでも実際に試写で見てみると、作品全体的には「完結編としては悪くない」と感じました。

そこで、有終の美を飾るべく興行収入10億円を狙ってほしいと前向きに捉えましたが、やはり世の中の「旬」のズレは埋めがたかったようで興行収入4億円という残念な結果で終わってしまいました。

このように「旬」の難しさで、本作については予測が難しい面があるのです。

「土竜の唄 」シリーズの興行収入の推移は、21.9億円→14.3億円→4億円となっています。

実は、第1弾から第2弾の落ち込み幅については、「ガリレオ」シリーズと「土竜の唄 」シリーズは、ほぼ同じ水準となっているのです!

そこで単純にこれを参考にすると、「ガリレオ」シリーズは、興行収入49.2億円→33.1億円→9.3億円という水準になってしまうことになります。

つまり、単純に試算すると、通常の大作映画シリーズの存続ラインの興行収入10億円を割り込むような危険性さえあり得るのです。

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では、ここで、内容面を踏まえて本作「沈黙のパレード」の興行収入を考察してみます。

作品の出来としては、第1弾から全てメガホンをとっている西谷弘監督のセンスもあり、クオリティーは高いと思います。

そして、福山雅治を筆頭に役者陣の演技も申し分ありませんでした。

そのため、「ガリレオ」シリーズというのは、突き詰めると、東野圭吾の原作の出来によって「面白さ」が分かれると言っても過言ではないと思われます。

そう考えると、これはもう「見る人の好みの問題」なのかもしれませんが、私はこの3作品を好きな順番で並べると、第1弾、第2弾、第3弾となります。

ただ、誤解してほしくないのは、あくまで個人の趣味であり、CMでは本作を「最高傑作」と評しているように、正反対になる人もいると思います。

つまり、「本作の出来が良い」のは変わらないということです。

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そもそも第1弾の「容疑者Xの献身」(2008年)が興行収入49.2億円というのは、原作と映画の出来を考えると「低い」というイメージです。

ここから読み取れるのは、日本における本格的な実写のミステリー映画は、マーケットとして興行収入50億円が一つの限界なのかもしれません。

第2弾の「真夏の方程式」(2013年)についても、作品の出来を考えると、興行収入33.1億円というのは、やはり「低い」というイメージです。

このような結果を踏まえると、第3弾の「沈黙のパレード」の興行収入は20億円くらいを想定しておくのが現実的なのでしょうか。

もし「沈黙のパレード」が興行収入20億円規模を保つことができれば、まだ「ガリレオ」シリーズの映像化は続くのでは、と想定されます。

(映画化に向いているのかどうかは分かりませんが)2021年に原作「ガリレオ」シリーズ5作目の長編作「透明な螺旋」が出版されていますし、何より福山雅治柴咲コウ北村一輝といったメインのキャストは、良い意味で月日の流れが感じにくい外見なので。

本作では、ドラマのオープニングテーマ曲「vs. ~知覚と快楽の螺旋~」が流れたりと、これまでの「ガリレオ」シリーズのファンには入り込みやすいものとなっています。

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ラストに流れるこれまでの映像は何を物語っているのか? そして、前作から9年間という月日が流れましたが、果たして本作の興行収入はどのようになるのか。

なお、本作では、これまでのような連ドラがない代わりに、9月17日(土)に“本作の4年前の事件”を描いた完全新作「ガリレオ 禁断の魔術」がフジテレビ系列「土曜プレミアム」で放送されます。この作品との相乗効果にも期待したいと思います!

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