役づくりと明かさず、ストリップクラブに3週間潜入! Twitter投稿を映画化した「Zola ゾラ」をキャストが語る

2022年8月25日 09:00


テイラー・ペイジとライリー・キーオがインタビューに応じた
テイラー・ペイジとライリー・キーオがインタビューに応じた

全ての始まりは、2015年10月27日に米デトロイト在住のアザイア“ゾラ”キングがTwitterに投稿した計148のツイート。彼女は、友人に誘われたフロリダでのダンス出稼ぎ旅が、想像を絶する事態へと変ぼうした実体験を、スリリングな語り口で綴った。ツイートはたちまち拡散され、誰もがゾラの衝撃的な“物語”の虜となった。

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映画「Zola ゾラ」は、全米を熱狂させたTwitterの連続投稿と、その物語をフィーチャーしたローリングストーン誌の記事を、気鋭の映画スタジオ・A24が映画化した作品。ウエイトレスで、ストリッパーでもあるゾラはある日、勤め先のレストランに客としてやってきたステファニと、「ダンスができる」という共通点で意気投合し、連絡先を交換する。その翌日、ゾラはステファニから「ダンスで大金を稼ぐ旅に出よう」と誘われ、あまりに急な出来事に困惑しながらも、一緒にフロリダ・タンパへ向かうことに。これが48時間の悪夢の始まりだとは、ゾラは想像もしていなかった――。スクリーンには、ツイートやテキストメッセージのイメージが映し出され、通知音が鳴り響き、観客をSNSの世界へと誘う。

当初は良好な関係を結びながらも、片方のある企みが明らかになったことで、ゾラとステファニの友情は試されることになる。思慮深く、いつでも冷静に状況を打開しようとするゾラを演じたのは、「マ・レイニーのブラックボトム」のダシー・メイ役で、一躍注目を浴びたテイラー・ペイジ。予測不能な言動を繰り返すステファニには、エルビス・プレスリーの孫としても知られ、「マッドマックス 怒りのデス・ロード」「ローガン・ラッキー」など話題作が尽きないライリー・キーオ。ペイジとキーオのふたりに、友情、ジェンダー、人種への鋭い考察が潜む物語について、話を聞いた。(取材・文/編集部)

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Zola ゾラ」には当初、白人の男性脚本家によるオリジナル脚本が存在していたが、製作陣が変わり、黒人女性のジャニクザ・ブラボー監督と、黒人男性の劇作家ジェレミー・O・ハリスの手によって、脚本が書き直された。オリジナル脚本の段階では、本作への参加を見合わせていたというペイジだが、新たなバージョンになったあとで、オーディションを受けることを決意した。

ペイジ「何よりも、ジャニクザ監督の物語への理解が、すごく明瞭でした。ゾラがこのツイートで語っている真実、書くことで彼女なりに何かを整理しようとした心情を守ろうとしている意識が感じられました。ゾラ本人はハリウッドのなかに人脈はなく、なおかつ守られている存在ではない。自分の声を発する唯一の手段が、この公共のプラットフォームであるTwitterだったわけで、そうした彼女を守ろうとする気概が感じられたんです。私のなかに、ジャニクザ監督にもジェレミーにも、『物語をこの人たちの手に委ねることができる』という確信がありました」

ペイジ「誰かの声を拾って植民地化する(colonize)、つまりは自分のものにしてしまうというケースが、よくあります。ですが、やはり誰かの人生を扱っているストーリーなので、そこには敬意と共感がなければならないんです。ゾラ本人も、何かを処理しようとしながらも、読む人を楽しませるために面白おかしく書いているわけですが、この経験がトラウマであることには変わりないんです。ジャニクザ監督もジェレミーも、ゾラに配慮する意識が徹底しているなと思いました」

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一方のキーオも、「こんなに良い脚本を久しく読んでいない、と感じるほど、素晴らしい脚本でした」と声を弾ませる。

キーオ「まずはTwitterスレッドをベースにしている点に興味がありました。次に、ジャニクザ監督やジェレミーが描くさまざまな人物像が独特で。面白くて、クレイジーで、ワイルドな登場人物が集まっている点も、素晴らしいと感じました」

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ふたりが演じたゾラとステファニは、実在の人物がモデルとなっている。ペイジは、ゾラ本人とコミュニケーションを重ね、さらには実際にストリップクラブで働き、役づくりを進めた。

ペイジ「ストリッパーを演じるにあたり、『クレイジー・ガールズ』というストリップクラブで働きました。役づくりのためとは言わずに、3週間潜入したんです。ラスベガスでも働いてみようと思ったんですが、胸が小さ過ぎるということで合格できませんでした(笑)。ストリップクラブでの仕事はかなり過酷で、朝の4時~5時まで働いて、日中に寝るような生活でした。ストリップクラブには、バネッサとサベージという女の子がいて、サベージからはストリップクラブでの振る舞い方や事情を教えてもらいました。マイルズというポールマスターや、カシーナというポールダンスの選手の指導も仰ぎました」

ペイジ「もともと幼少期からダンスをやっていたので、ストリップの世界にもすっと入っていけたんですが、やっぱりダンスとストリップは全然違うので、ある種の難しさがありました。あと芝居のなかで意識したのは、歩き方です。自分はダンサーなので、歩き方にもダンサーとしての型や意図があるんですが、今回はストリッパーとしての動きを意識しました」

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対するキーオは、ゾラを罠にかけ、望まない世界に誘う悪役のような立場でありながら、“世話役”のX(コールマン・ドミンゴ)に性的に搾取される被害者でもあるという、複雑なキャラクターを作り上げた。キーオとブラボー監督は、ステファニのファッションや話し方を含む造形を通して、“文化の盗用”(cultural appropriation/マジョリティが、マイノリティの文化の背景にある歴史や解釈を無視して、一時的に取り入れること)を表現したという。マスコミ用のプレス内でキーオは、「私たちはブラックカルチャーに浸り、影響を受けている白人女性の姿を見ていたのです」と語っている。

キーオ「『文化の盗用』に関しては、ジャニクザ監督と話し合い、彼女が脚本に書いた通りに演技をしました。彼女には社会に言いたいことがあり、深いメッセージを伝えているのだと思います。ほかの監督であれば、こういうメッセージを意図しなかったと思うので、ジャニクザ監督についていこうという思いで、演技をしました。ジャニクザ監督は、いろんなステレオタイプをものすごく大げさに表現することを、意図的にやっています。大げさにやらないと、この作品は成り立たないんです」

キーオ「ステファニの被害者性と加害者性については、誰もが抱えている両面性だと思いますが、やはりこの点も大げさに演じています。人間はそういう複雑性を持った多面的な存在なのです。物語のなかでは彼女もXも、ヴィラン的な立ち位置にあります。ですが、観客が彼女たちを見るときに、『いまは本音を言っているのかな』とか、『娘のためにやっているから、しょうがないのかな』と考える局面があると思うんです。ヴィランでありながら、観客の共感を呼び起こすことができる存在は、演じていてとても面白かったです」

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劇中では有色人種差別の意味がこめられているとされるアメリカ連合国軍の国旗、警察が黒人男性を暴行する光景などが挿入され、ゾラの不安を高めていく。ステファニはゾラの目の前で黒人女性を侮辱する話を持ち出し、物語の後半では、“ステファニ側の物語”とでも言うべき、人種差別的なおぞましいシークエンスが繰り広げられる。そんな最悪の危機に陥るゾラの姿を通して、アメリカで黒人が生きること、男性が支配する社会で女性がサバイブすることに伴う闇や困難が描かれている。

ペイジ「私は黒人であり女性であり、ゾラと同じ境遇なので、そうした(居心地の悪い)環境しか知らないんです。ですが、自分の境遇を変えたいかというと、そうは思わない。痛みや逆境を知っているからこそ、他者への理解が生まれ、他者とよりつながることができるわけです。そういう自分になることができて良かったと思っています。現実はとても大変だし、希望など持てないときもありますが、その世界を逆転させたい、反転させたいというミッションは、自分のなかにあります。世界に『違うやり方があるよ』と知らせたいという大志があります」

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キーオ「異なる世界にいる人物に共感できるということに、映画や、映画に出演することの素晴らしさがあると思っています。自分自身が生きてこなかった人生を演じることができる、共感できるということは、素晴らしいです。観客としても、2時間どっぷり物語に浸かって、自分とは全然違う人々に共感したり、異なる苦悩に触れたりできることが、喜びですね」

Zola ゾラ」は8月26日から、東京の新宿ピカデリー、渋谷パルコ8F ホワイト シネクイントほか全国で公開される。R18+指定。

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