「GUNDA」監督が明かす撮影の裏側「母ブタ=私たちの“メリル・ストリープ”」「牛の鳴き声は300種類」

2021年12月9日 13:00


ビクトル・コサコフスキー監督
ビクトル・コサコフスキー監督

ホアキン・フェニックスがエグゼクティブ・プロデューサーを務めた「GUNDA グンダ」(12月10日公開)は、母豚“GUNDA”と農場に暮らす動物たちの深遠なる世界を題材としたドキュメンタリー映画だ。斬新な手法、叙情豊かな語り口で描かれる映像詩――世界の名だたる映画作家たちが、同作を絶賛していることをご存知だろうか。

例えば、ポール・トーマス・アンダーソン監督(「マグノリア」「パンチドランク・ラブ」「ファントム・スレッド」)はこんなことを言っている。

「驚くべき映像と音響。本質だけが露になり、どっぷりと浸かるような映像体験が待ち受ける。映画以上の、まるで妙薬のようだ」

では、「ROMA ローマ」「ゼロ・グラビティ」のアルフォンソ・キュアロン監督は?

「この映画に『言語』は必要ない。荘厳で親密なポートレートを通して、存在の神秘と力を体験するよう誘う」

さらに「ヘレディタリー 継承」「ミッドサマー」で我々を身震いさせたアリ・アスターも、本作のファンと化した。

「鮮やかなマジックによって、日常的な瞬間が神話的でまったく奇妙なものになる」

ビクトル・コサコフスキー監督が切りとったのは、ある農場の光景。母豚“GUNDA”と生まれたばかりの子豚たち、一本脚で力強く地面を踏み締める鶏、大地を駆け抜ける牛の群れ――。洗練されたモノクロームの映像と驚異的なカメラワークがとらえるのは“生命の鼓動”。人工的な音楽、ナレーションを排したことで、生き物たちの息づかいすら聴こえてくる。

ありふれた農場のひとときを“小さな宇宙”へと変化させてしまったコサコフスキー監督。この唯一無二の世界をどのように構築したのだろうか。


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――本作を制作したきっかけは教えてください。

私は私たちが地球を共有している生き物たちについての映画をずっと作りたいと思ってきました。彼らを見下したり、擬人化したりすることはしません。また、感傷的に表現するのは避け、ヴィーガンのプロパガンダにならない映画を目指しました。しかし、私の企画は、イルカやパンダなど可愛らしい見た目の動物たちの映画ではなかったため、資金調達は不可能でした。

30年近く努力して、ついにノルウェーの映画制作会社Sant&Usantがリスクを冒して製作を引き受けてくれました。「GUNDA グンダ」は私が映画監督として、そして人間として作った映画の中で最もパーソナルで重要な映画です。

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――母ブタ“GUNDA”との出会いについてお聞かせください。

信じられないほどに幸運だったのは、リサーチのためにノルウェーの郊外に訪れた初日に“GUNDA”に出会えたことです。私がブタ小屋の扉を開くと“GUNDA”がやってきたので、プロデューサーにこう言いました。「私たちの“メリル・ストリープ”を見つけた」と。

“GUNDA”は非常にパワフルなキャラクターで、感情や経験を理解するのに通訳は必要ありません。そのため、私は一切の字幕や吹き替え、音楽を抜きでこの映画を作ろうと決めました。観客がただ“GUNDA”を見て、身を任せ、感じられるように。私にとって、映画の本質は見せることです。伝えることではありません。

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――本作には台詞も、音楽も、字幕もありません。動物と自然の音だけです。その他の説明を排した理由を教えてください。

通常、動物についての映画は、人間が動物について語ったり、説明しています。そうすると、動物から注意がそれてしまう。動物の屠殺や血なまぐさい詳細を説明する映画も目指しているものと違います。それはプロパガンダであり、人々から拒否されてしまうから。制作者の感情を排除し、動物たちの息遣いやどのようにコミュニケーションをとるのかを見せたかったのです。

音楽を使わないという決断もとても重要でした。だからこそ、立体音響技術「ドルビーアトモス(Dolby Atmos)」を取り入れ、様々な複雑なサウンドをすべて手に入れました。録音技師兼音響デザインのアレクサンダー・デュダレフの助けもあり、成し遂げることができたと思っています。そして、カメラの力で何ができるかチャレンジしました。そもそも「映画」はそのためにあって、私たちが普段見逃しているかもしれないことを見せてくれるものです。「映画」の原点に立ち返ることが正しいアプローチだと思いました。

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――なぜモノクロで撮影したのでしょうか?

モノクロで撮影したのも、似たような理由です。ひとつは、「映画」の原点に私を立ち戻させてくれるから。また、状況によっては観客が色に圧倒されてしまうことがあるからです。生々しい血の色や鮮やかな色味の背景にはつい気を取られてしまいますよね。私は本作で可愛らしいピンク色の子ブタたちを見せたいわけではありません。そのような形で観客を誘惑したくなかった。モノクロにすることで、見た目よりも魂に焦点を当てることができると感じたのです。

――撮影時に気を使ったことは何でしょうか?

私は撮影前に動物行動学について学び、自分に何ができて、何ができないのかをよく理解してから撮影に挑みました。まず、“GUNDA”と子ブタたちが住む場所を観察し、同じ小屋を隙間付きで設計しました。そして、カメラのレンズと8本のマイクを小屋の中に入れたので、どこへでも移動して様々な角度から撮影することができました。

また、ウシの声域は人間の約7倍以上あるので、非常に低い音から高い音まで出すことができます。鳴き声に着目したところ、少なくとも300種類の「モー」がありました。そして、私たちは、ウシが特定の状況で特定の種類の「モー」を言っていることに気づきました。また、GUNDAも子ブタに呼びかけるときに特定の音を出します。間違ったタイミングで別の音を使いたくなかったので、音声の編集は慎重に行いました。

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――動物たちを観察していて感じたことはありますか?

彼らはとても賢いんです。子ブタは生まれた瞬間から攻撃的な子もいれば、怠け者、怖がり、恥ずかしがり屋、ずる賢い子など、様々な性格があります。誰が一番賢くて、誰が一番創造的なのか、私にはすぐにわかりました。また、人間の赤ちゃんは食事と同じ場所で排泄をしますが、子豚は違います。子豚は隅に行って排泄をし、食事の場所ではしません。生まれた瞬間から、彼らはすでに何らかのルールを持っているのです。もしあなたがその場にいて、彼らの行動を見れば、あなたはすぐに彼らを尊敬するでしょう。

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――ホアキン・フェニックスがエグゼクティブ・プロデューサーになった経緯を教えてください。

共同プロデューサーのジョスリン・バーンズが本作を観て、「フェニックスなら気に入るだろう。彼と話をするべきだ」と言いました。私は本気にしていませんでしたが、本作を観た彼の反応は素晴らしかった。彼は、この映画に関わりたい、もっと多くの人に観てもらいたいと言ってくれました。彼がいなければ、何百万人もの人に予告編を見てもらうことはできなかったでしょう。

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