挿絵作家を挫折し映画界へ 三姉妹の交流と成長を描く「花椒(ホアジャオ)の味」監督に聞く

2021年11月5日 14:00


オンラインインタビューに応じたヘイワード・マック監督
オンラインインタビューに応じたヘイワード・マック監督

父親の死によって互いの存在を初めて知った三姉妹の交流と成長を描いた香港発の人間ドラマ「花椒(ホアジャオ)の味」が、11月5日から公開された。監督・脚本を務めたのは、香港で活躍するヘイワード・マック監督。オンラインインタビューに応じたマック監督に、これまでの経歴や本作について話を聞いた。

別々の土地で育ったユーシュー(サミー・チェン)、ルージー(メーガン・ライ)、ルーグオ(リー・シャオフォン)の三姉妹は、父親の死でお互いの存在を初めて知り、出会う。父の火鍋店を継ぎ、秘伝のスープを再現する過程を通して、彼女たちは家族の温かさを知り、自分自身と向き合うことになる。

マック監督は、2007年に23歳で発表した長編デビュー作「烈日当空(原題)」が香港電影金像奨の最優秀新人監督賞にノミネートされ、脚本を手掛けた「恋の紫煙」では香港電影金像奨の最優秀脚本賞を受賞した。

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本作にプロデューサーとして参加した著名な映画監督・脚本家でもあるアン・ホイ(「客途秋恨」など)は、「『花椒の味』はヘイワード・マックの作品です。脚本や監督などクリエイティブな部分において、私はただ、そばで励まして感想を伝えただけ。こんな話をするのは、責任逃れをしたいわけでなく、彼女の才能にあやかっては申し訳ないから」と称賛。大きな事件が起こるような派手な作品ではないが、姉妹ならではの関係性、味わい深いセリフの数々、丁寧な人物描写が光り、火鍋のように温かい、そして時に痺れもあるリアルな人生が描かれている。

――まずはヘイワード・マック監督の経歴を教えてください。どのような経緯で映画界を目指したのでしょうか。

最初は大学でデザインの勉強をしていました。いわゆる平面デザインの勉強をしていて、挿絵などを学んでいたのですが、ある時、先生から「君の絵は子どもが怖がる、挿絵作家には向いていない。別の道を目指した方がいい」と言われてしまって(笑)。それが最初の挫折でした。

そのときに写真や映像などクリエイティブメディアの勉強もしていたのですが、そこで恩師でもあるパトリック・タム監督に出会いました。大学2年のとき、タム監督に私の書いた脚本を見せたところ、「君は映画に向いている、映画をやりなさい」と言われました。当時は漠然とただ言われただけで、映画をやるのかどうか分からないまま、そう言うならやってみようという状態でした。

その後、タム監督が私の自主制作の作品を映画関係者に見せたところ、そこから会社を紹介されて、助監督や脚本などをやらせていただいて、自分でもまだ映画界に進むかはっきりわからないうちに仕事を始めていました。その当時はまだ21歳でした。

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――助言を受けてこの道に入られましたが、今は映画界に向いていると思いますか?

映画の世界は向いてないんじゃないかと疑って、映画が怖くなったときもありました。撮りたいものがうまく撮れない、年齢の離れた周りの人と上手くコミュニケーションがとれない時期があり、自分はダメなんじゃないかと思ってたんですけれども、3作目(『DIVA 華麗之後(原題)』)を撮り終えた後、1作目(『烈日当空』)に出演してもらった俳優たちと偶然会ったんです。彼らはプロの俳優ではなくて、街中で見つけて出演してもらった方々でした。彼らともう一度会って、私はなぜ映画を作りたいのかという初心を思い出すことができました。

彼らをマネジメントする会社を作ったりして、それ以降も映画と関わっていったら、段々自分は映画界に合っているなと思えるようになりました。今はどんなときでも好きなものを撮る、好きなことをやるということが大事だと思えています。

――監督が敬愛している、影響を受けている映画作家はいらっしゃいますか?

好きな監督は多いですが、大学時代に一番影響を受けた黒澤明監督です。「」「影武者」それから「八月の狂詩曲」「」など、そういう作品に学生時代から影響を受けています。スタンリー・キューブリック監督も好きで、自分の脳内をいかに映像化するのかということに影響を受けました。私の1作目のときには、フランソワ・トリュフォーの「大人は判ってくれない」からも影響を受けています。

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――「花椒(ホアジャオ)の味」はエイミー・チャン氏による小説をもとにしています。映像化するにあたってどんなことを重視しましたか?

原作からは背景だけ使用していて、そのほかセリフなどは私が創作しています。脚本を書く時にまず考えたのは、キャラクター設定、そして三姉妹の周囲をどうやって狭い環境で見せるかということでした。それぞれの地位が全く違いますし、それぞれが完璧じゃない家庭環境にいる設定にしています。

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三姉妹に共通しているのは、過去の人、あるいは亡くなった方に対して、どうやって自分の気持ちを伝えるかという問題を抱えていることです。長女は亡くなった父親とうまくいっていなかったので、過去にしばられている状態。次女は母親とうまくいかず、どうやって母親に自分の気持ちを伝えるか悩んでいます。三女はおばあちゃんとの関係が描かれますが、これは未来への象徴という部分があるんです。どういうことかというと、人間にはいずれ死が訪れます。おばあちゃんが孫の未来を想像しようとしても、それは自分のいない未来になります。そういう部分を伝えたくて、三姉妹にそれぞれ違う環境、壊れた家庭を描きました。

演出をする時に特に重要だったのは、三姉妹を演じた俳優さんたちに、自分の役と相手を信じてもらうことでした。時間があまりない中でどうやって役になりきってもらえるか、一度みんなを集めて、全体の物語の流れを伝えて、彼女たちに自分の役を理解してもらいました。ただ理解してもらうというより、お互いを本当に思いやることができるまで理解してもらいました。彼女たちにお互いを信じてもらうことが、この映画を撮る中で一番大事なことだったと思います。

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