トム・ハンクスが目指した「七人の侍」並みの没入感 脚色に6年費やした「グレイハウンド」を語る

2021年2月26日 12:00


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フィラデルフィア」「フォレスト・ガンプ 一期一会」で2度のアカデミー賞主演男優賞に輝き、長年ハリウッドの第一線で活躍し続けるトム・ハンクスが、アメリカン・シネマテークで開催されたイベントに出席。監督のアーロン・シュナイダー、撮影監督のシェリー・ジョンソン、衣装のジュリー・ウェイスらとともに、脚本も手掛けた主演作「グレイハウンド」への思いを語ってくれた。(取材・文/細木信宏 Nobuhiro Hosoki)

作家C・S・フォレスターの小説「駆逐艦キーリング」を実写映画化。第二次世界大戦下、英国に補給物資を届ける輸送船団を護衛することになった、クラウス艦長(ハンクス)率いる米海軍駆逐艦・グレイハウンドと、それを待ち受けるドイツ海軍潜水艦Uボートの死闘を描いている。当初は、ソニー・ピクチャーズの配給によって、2020年6月19日に全米公開を迎えるはずだったが、新型コロナウイルスの影響によって封切りが延期に。その後、ソニー・ピクチャーズが配給権を放棄し、米配信サービス・Apple TV+が約75億円で配信権を獲得。同年7月10日から配信がスタートした。

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ノルマンディー上陸作戦を描いた「プライベート・ライアン」に主演したハンクスは、テレビシリーズ「バンド・オブ・ブラザーズ」では、監督、脚本、製作総指揮を務めるほど、第二次世界大戦に造詣が深い。原作小説「駆逐艦キーリング」は、進行中の思考プロセスで紡がれている点に着目していた。

ハンクス「フォレスターは、ナチスのUボートが潜航する凍るような荒い海で、クラウスが輸送船団を護衛している瞬間を同時にとらえている――原作では、それがリアルタイムで記されているんだ。これほどのリアルタイムの長い記述は読んだことがないし、そんな内容を描いた映画を観たことがない。クラウスに起こる全てのことが、彼自身の頭の中でも起こっていて、それが彼特有の言葉(=会話)として記されている。そのため(映画では)クラウスの自宅などを映したカットはないんだ」

進行中の思考プロセスを小説として楽しむ場合、それは“贅沢な読み物”だ。しかし、それを映像化する場合、かなり困難な作業になってしまうのではないだろうか。

ハンクス「クラウスの内面にあるモノローグを、僕自身は持っていない。だから(クラウスの視点に)物事を適応させ、脚本家としてのあらゆる秘訣を駆使したり、当時のさまざまな画像を見ながら“心の目”と“思考”をスクリーン上に投影させた。そのような脚色の作業に、約6年の月日を費やしたんだ」

ハンクスは、この過程を字幕付きの黒澤明監督作「七人の侍」に例えている。同作は「最初の7分間が経過すると、自分が日本語を話せないことを忘れてしまうほど、映画に没頭してしまう」とのこと。「グレイハウンド」でも、そのような観客を没入させる脚色を目指していたようだ。

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これまでのキャリアにおいて、ヒーロー的な役柄を数多く演じてきたハンクス。今回のクラウスには“日の目を見なかった”という点に魅力を感じたようだ。

ハンクス「クラウスには、自身のキャリアのなかで昇進を見送られてきたという感覚があるんだ。定期的な昇進の機会が訪れる度、ステータスが上がったり、よりお金をもらえるというようなことがなかった。その代わり、暗黙の信任投票だけを(周りの同僚から)得ていた。どういうことかと言うと、海軍に留まるには充分なことをしてきたが、広い見識で見てみると、彼は人々の記憶に残るようなことをしていなかった。それが、日本が真珠湾攻撃をした際に大きく変わる。突然、海軍の専門用語や過剰な作業を熟知している人が重宝されるようになったんだ。もし第二次世界大戦がなかったら、おそらくクラウスは、1941年、あるいは1942年に海軍を退役し、サンディエゴのバーテンダーかタクシー・ドライバーになっていただろう。なぜなら20年後には、誰もが海軍を退役していたからね」

脚本30ページにも及ぶ内容を1シークエンスで撮影――その大役を担ったシュナイダー監督。リアルな映像を見せるため、必要な技術的要素を揃えるという課題に臨んでいる。

シュナイダー監督「最大の課題は、実際にセットを歩いてみるとわかった。トムは、駆逐艦の舵窓からジンバル(=ある軸を中心にして回転するリング状の台座)に乗り、目の前にある照明の光に反応しているだけ。つまり、第二次世界大戦という世界観、戦術的なシナリオによるスリル感のある側面は、我々がポストプロダクションに入るまで存在しなかった。そのため、トムに仮想の戦闘で何が起こっているのかを俯瞰図で示すことができるかが重要だった。もしもトムが感情的に入り込むことができなかったら、観客も劇中で起きていることに感情移入することができないからね。例えば、ひとつのシーンでグリーンスクリーンを恐竜に見立てて演じることがある。『グレイハウンド』では(トムにとって)全てのシーンがそんな感じだったと思う」

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大半のシーンは、手持ちカメラでの撮影。ジョンソンは、限られた空間での撮影について「限定された空間だったからこそ、カメラを手持ちで撮影したんだ」と明かす。

ジョンソン「カメラを(船内に)埋め込んだ場合、セット全体の映像は見えない。しかし、手持ちカメラで撮影すると、駆逐艦が揺れるたび、俳優が演じるクルーだけでなく、カメラマンもその影響を受けることになる。すると、動いている駆逐艦の感覚が(映像で)掴めるようになるんだ。ただ、駆逐艦(=セット模型)から水が漏れ出し、それが水流のようになって、クラウスの帽子に当たることもあった。その水流さえも、重力によって落ちる角度が変わっていた」

ウェイスは、クラウスの衣装に関して、相当な下準備を行っていたようだ。

「クラウスは、ほとんどユニフォームを着ている設定だけど、レザージャケットも着用することがある。多くのレザージャケットを用意したんだけれども、最初にトムに着てもらった時は『まるで1970年代の売春斡旋者みたいだ』と言われた(笑)。でも、その内のひとつに一度決めたら、それはトムの物になった。彼はそのレザージャケットを甲板で着続けていた――その瞬間、トムとクラウスが鏡の前でひとつになった気がした」

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