【山田孝之×國村隼インタビュー】“普通の人”の役が、一番難しい 義理の親子演じた「ステップ」を語る

2020年7月16日 18:00


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※このインタビューは新型コロナウイルス感染拡大前の、3月上旬に実施されたものです。

インタビュー部屋に入ると、すでに山田孝之がそこにいた。この日は、シングルファザー役で主演した「ステップ」(7月17日公開)の取材日だった。キャストたちは朝から夕方までインタビューを受け続け、夜には同作の完成記念イベントに参加する、目まぐるしい1日。束の間の休憩時間、マネージャーやスタイリストらと談笑する山田の姿を見ると、どこまでも柔らかな印象を抱いた。

あとから、義理の父親役で共演した國村隼もやってきた。山田を見つけると瞳がパッと輝き、口元にニヤリと笑みが浮かぶ。言葉には出さないが、表情からは「お、今度のインタビューは山田くんと一緒か」、そんな期待感がにじみ出ているようだ。

國村がポンポンと肩を軽くたたき、席につき、近況を尋ねる。並んで腰掛けた山田は、嬉しそうに「ちょうど昨日、(次作の)初回の編集だったんですよ」と応じる。

「よろしくおねがいします」。簡単に挨拶をした後、2人に「ステップ」を鑑賞した感想を伝えてみた。

すると山田は開口一番、「妻に感謝の日々ですよね!」と身を乗り出し、「お子さんがいる人は、この映画を毎年見てください。その都度、感想が変化すると思います」と笑った。國村も上品な関西弁とジョークを交えながら、真剣な演技論を展開してくれた。

日本を代表する演技派が語る、温かなインタビューが始まった。



――おふたりは「ジョジョの奇妙な冒険」「全裸監督」などに続いての共演ですね。「えらい落差だな」と感じるんですが、今回の共演はいかがでしたか?

國村 えらい落差、確かに(笑)。今回、僕は楽しかったですね。

山田 僕も、いつも嬉しいです。國村さんがいらっしゃると、いつも安心します。

國村 この方はもうね、世界観だとかキャラクターによってゴロッと別人に変わるから。小手先のことはしない。お腹からゴロンと変わる。「ジョジョ」のときなんかほら、とんでもない役だったわけですよ。そこから、この「ステップ」のこの役! どうですう?

山田 「どうですう?」て(笑)。國村さんこそ、この前(全裸監督)はヤクザ役だったじゃないですか! 國村さんのほうがゴロッと変わってますって。

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――本作のキャッチコピーでは、山田さんが「等身大の父親」「普通の人」を演じることがクローズアップされていますね。

山田 普通の人の役。読者の方々に「嘘だろ」と思われそうなことを言います。この役は、僕の「素」です。

國村 (笑)

山田 「嘘つけ!」「イメージアップ狙ってんじゃねえ!」みたいなツッコミがきそう(笑)。でも僕が健一として、妻を失い、娘の美紀と接するとしたらこうだろうな、という素が出ています。そうした思いは、どの役でも同じです。100%、役をつくることは、まずないじゃないですか。多少なりとも、自分と接する部分を踏まえて落とし込んでいくわけです。

國村 僕は思うんやけど、役者が演じるとき、「普通の人」が一番難しいんですよ。ね? 極端な人の役のほうが、「簡単や」言うたらおかしいけども、比較すると明らかに「普通の人をやってくれ」というオーダーが一番難しい。

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――「普通」と言うのは簡単ですが、「では普通を表現することとは何なのか」という問いも出てきますね。

國村 普通の日常って、なんの盛り上がりもなく、淡々と過ぎていくものでしょ。それを延々と、見ているお客さんを飽きさせず、ちゃんと伝えないといけない。なかなか難しいことですよ。

――そんな普通の人を演じるうえで、どんなことを大切にされていたのでしょうか。

山田 特別なことは何もしていないです。僕が健一としてその場に立って、起きたことをストレートに受け止める。「何もしていない」と言えば、していない。お芝居していない、ということかもしれない。もちろん、見せ方は常に考えていました。僕がどうすれば観客の共感を得やすいか、とか。いわゆる“きれいな感動ストーリー”にならないように、とか。

――山田さんは、以前は父親役への興味は強くなかったそうですが、本作への主演にあたり心境の変化があったのでしょうか。

山田 僕は妻を失ったことがなく、娘を育てたこともない。それを“健一という役”を通じて感じ、自分が何を思うかを経験してみたかった。経験する必要があった。経験したほうが良いだろうなと思った。そして実際の家庭に帰ったときに、何かが気づけるのでは、と思ったんです。

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――これまで多くの父親役を演じてきた國村さんは、今回は健一の義理の父親・明役でしたね。

國村 健一さんと比べてみたら、僕の明は非常にわかりやすい。「ちょっと子どもっぽい人やな」と解釈していたから、そのチャイルドな感じを楽しんで演じていました。そんな明が、シングルファザーとして娘を育て、一緒に育っていく健一との関わりを通じ、初めて大人になっていく。その過程が、山田くん演じる健一を見ていたら、すごく自然と表現されていったんです。

――明にも「ステップ」があった、ということですね。

國村 そう。僕は実際、孫はいないんですけどね、でも終盤のあるシーンで、明という人を通してこんなことがあった。僕は普段、お芝居では涙を“落とさない”と決めていて。泣く芝居はするけど、涙は見せたくないんです。でも今回は、「あかん!」となってしまった。普通、役者は絶対したらあかんのやけど、キャメラからぐぐ~っ! と顔をそむけた。逃げ切れへんかった(笑)。

山田 (笑)

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國村 どこかで明というキャラと僕が、ピッタリ重なった瞬間だったんでしょう。映画の現場ってね、時々「アンコントローラブルや」という不思議な瞬間が訪れることがありますな。よく「映画の神が降りる」ともいいますが。昔、ダスティン・ホフマンが「真夜中のカーボーイ」をNYで撮影しているときに、横断歩道を渡ろうとしたら、イエローキャブが突っ込んできた。不測の事態です。そのときにホフマンはバッと前に出て、ボンネットをバンバン叩きまくって、「俺を! 誰だと! 思ってんだ!」とか叫びまくった。

山田 最高ですね……!

國村 それが本編に使われているんですよね。そういう瞬間って、絶対に企んでできない。アドリブであれができるダスティン・ホフマンもすごいけどね。映画ってそういう面白い瞬間があるからやめられない。

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――山田さんは今回、そうした瞬間はありましたか?

山田 ええ~? 國村さんとダスティン・ホフマンのあとに僕の話(笑)? う~ん、何かあったかな。(10秒ほど考え込んで)ひとつ思い当たることはありますが、言わないほうがいいのでやめておきます。

國村 (笑)

――おふたりにお話を聞くうえで、外せないシーンがあります。明が健一と向き合い「これが親父からの最初で最後の……」と話す場面。非常にエモーショナルなシーンでした。

國村 健一という人を見ていて、自分の口から素直にセリフが言えた。「血はつながっていないし、いろいろあったけど……今やっと、あんたに言えるわ」という感じでした。これは義理の親父としての、明としての、僕としての、今までとは違う距離感でやっと接することができるという意味なんです。

山田 健一として、義父・明さんに対しては常にいろんな気持ちが混ざっています。僕自身も結婚していて、妻の父親もいて。義父は子どもを預かってくれることもあって、いつもありがたくて、とても感謝しています。でも、やっぱり「あんまりおもちゃ買わないでくれよ……」と思うことも、どうしてもあります(笑)。

一同 (笑)

山田 やっぱりどうしても、いろいろ複雑ですよね。でも、あのシーンはすごく、純粋に嬉しかったです。國村さん演じる明に、ストレートにああ言ってもらったことが。だから「嬉しい」と同時に、「(義理の両親が)家にいてくれたら助かるけども、常に家にいられたら困る」と思っていた自分が恥ずかしい、という気持ちも。「明さんは俺を本当の息子のように思ってくれていたのに、俺はなんてやつなんだ……!」。いろんな感情が、バーっと出てくるわけです。嬉しくもあり、複雑でもあり、悔しくもあり。だから、「すみません、ありがとうございます、すみません」としか言えなかったです。

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――ところで、映画.comで勤務する子育て中のママさんたちから、山田さんへの素朴な質問を預かってきました。お答えいただけますでしょうか?

山田 なるほど。いいでしょう!

――ありがとうございます。「映画では健一が授業参観に行くシーンがありますが、山田さんは授業参観には行かれましたか?」。

山田 ないですねえ~……。息子の幼稚園の卒園式には参加しましたが、行事ごとには基本、参加しないようにしていたんです。というのも、運動会とかに「行きたいな」と思って、芸能界の友だち何人かに相談しました。そうしたら、だいたい「やめたほうがいいよ」と、結構、全力で止められました。いろんなことが起きてしまうんじゃないか、と。まあ、そうだよな~と思った。わかってはいたから参加しなかったんです。

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――しかし、行きたい気持ちは強かったんですね。

山田 自分が小学校のとき、親父は運動会には来てくれていたんです。家族みんなでブルーシートを敷いて、ごはんを食べたりするのがすごく嬉しかった。息子にその思い出がひとつもないのは、さびしいだろうなと思った。でも冷静に考えると、僕の「行きたい」気持ちを通すと、息子が嫌な思いをしてしまうかもしれない。だから息子も僕もお互い我慢だな、と。仕事が特殊だから、付き合い方も特殊になるのはある種、仕方がないと思います。というか僕はいろんな役をやっていますし、下手したら息子がいじめの対象になるかもしれないし(笑)。

國村 (笑)。

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