【「トレインスポッティング」評論】次に本作を見るときは、僕はどんな未来を選び取っているだろう?

2020年4月19日 10:00


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[映画.com ニュース] 新型コロナウイルスの影響により、多くの新作映画が公開延期となり、映画ファンの鑑賞機会は減るばかりです。映画.comでは、「映画.comオールタイム・ベスト」(近日一覧を発表予定)に選ばれた、ネットですぐ見られる作品の評論を毎週お届けいたします。今回は「トレインスポッティング」です。

「未来に何を選ぶ?」。映画の冒頭、レントンはタバコやら財布やら、ポケットの中身をボロボロ落とすのも構わず走り、画面越しの観客に問いかける。自分は未来に何を望み、何を選ぶのだろう? 観客のそんな自問自答が生じ、身を焦がすような切実な映画体験が幕を開ける。

レントンを筆頭に、登場する若者たちは手際よくヘロインを摂取し、春の雪崩のように堕落していく。それはクソみたいな日常を脱するための、破滅という名の救いなのだ。シンプルでクリアな世界。退廃的で甘美な地獄。

ダニー・ボイル監督のアシッドな演出は、一度ハマれば抜け出せないほど素敵だ(レントンがバッドトリップの後、かび臭そうなカーペットにズブズブと沈んでいく場面は強烈)。しかし、むしろ、僕は若者たちが宿命的な絶望から逃れようともがき、のたうつ物語に目を奪われる。

「未来を選べ 人生を選べ」「こんな国クソッたれだ! 最低な国民 人間のカスだ」「生きていくのさ 未来を見すえて 死ぬその日まで」……。飛び跳ねるようなアクセントで繰り出されるセリフにのって、映画はなんとも言えず爽快な結末へと疾走していく。

もちろん、この物語はシニカルなメッセージを投げかけてもいる。しかしレントンの決して器用ではない生き様と、破れかぶれとも思える決断を見ていると、自分の悩みなど、とてもちっぽけなものに思える。鑑賞する間、ふわふわとした浮遊感に包まれ、不思議と勇気をもらえる。

だから僕は、人生の節目を迎えたとき、本作を見る。誰かにとっての「ニュー・シネマ・パラダイス」が、僕にとっての「トレイン・スポッティング」。シーンとともに、記憶がドッと溢れ出す、そんな類いの作品。

次に本作を見るときは、僕はどんな未来を選び取っているだろう。それはそれで、とても楽しみだ。

(尾崎秋彦)

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