石坂健治氏が語る、特集上映「東南アジア映画の巨匠たち」見どころと開催意義

2019年6月24日 17:00


見どころを語った石坂健治氏
見どころを語った石坂健治氏

[映画.com ニュース] 日本と東南アジアの文化交流の一環として国際交流基金アジアセンターが主催している「響きあうアジア2019」プロジェクト。映画に関しては、公益財団法人ユニジャパン(東京国際映画祭=TIFF)がアジアセンターと共催で、東南アジアにおけるワールドクラスの作家を紹介する「東南アジア映画の巨匠たち」という、特集上映&シンポジウムを、7月3~10日に開催する。そこで東京国際映画祭で「国際交流基金アジアセンター presents CROSSCUT ASIA」など、アジア映画のプログラミングを担当している石坂健治氏に、本イベントの開催意義などを聞いた。

近年、アジア映画は国際的な評価を得る作品が増えているが、映画産業が成熟した中国や韓国だけでなく、東南アジアへの注目が集まっているのが特徴。きっかけは「2016年のフィリピンです」と石坂氏は語る。

「あの年に、ラブ・ディアス監督の『立ち去った女』がベネチア国際映画祭で金獅子賞と『痛ましき謎への子守唄』がベルリン国際映画祭の銀熊賞を、ブリランテ・メンドーサ監督の『ローサは密告された』がカンヌ国際映画祭で最優秀女優賞を受賞し、一気にフィリピン映画に注目が集まりました。世界三大映画祭のあと1年くらいかかって、日本で映画祭上映や一般公開され、『2017年はフィリピンが主役の年』という感じになったんです。余談ですが、カンヌは昨年、今年と2年連続で東アジア勢がパルムドールを受賞しているってこともすごいことなんですけどね。とはいえ現在、東南アジアの映画を牽引するのは、フィリピンであることは間違いありません」

このフィリピン優位の立ち位置は、政治や社会情勢の反動とも解釈できる。「実はフィリピンは70~80年代のマルコス政権による圧政期が第二映画黄金期。今のフィリピンはドゥテルテ大統領のエキセントリックな政治に対して反動が大きいですよね。あの国は植民地支配された時代が長かったこともあって、映画で抵抗の表現をうまく作る国なんだと思います」

圧政への反動が映画を豊かにする、とは皮肉な話だが、それはフィリピンに限ったことではない。経済的に豊かになりつつあるタイは「2000年代に優れた作家を多数輩出して『タイ映画ルネッサンス』と呼ばれるピークを迎えましたが、現在の軍事政権下では窮屈な思いをしている」と石坂氏。

「フィルムの時代の最後の方でホラーや青春もの、アクションなどで隆盛期を迎えたんですが、今は厳しいですね。たとえば逆にインドネシアは20世紀末にスハルト時代の独裁政権が倒れたんですが、その後から優秀な若手が続々出てきました。また、カンボジアもポル・ポト時代の傷跡を、俯瞰でとらえる作家がいます。フランス在住のリティ・パンですが、『消えた画 クメール・ルージュの真実』がカンヌのある視点部門でグランプリを受賞したことをきっかけに、ローカルの作家たちも後に続けとばかり、ここ数年、長編映画で表現するようになってきましたね」

そんなカンボジアには、アジアセンターとTIFFが共同製作している「アジア三面鏡」シリーズでソト・クォーリーカー監督が「Beyond The Bridge」を発表している。

「彼女の長編デビュー作『シアター・プノンペン』は、主人公の女子大生の父親が実は元ポル・ポト派だったという設定の物語で、若い世代がその父をどう許すかを問うテーマでした。クォーリーカー監督の父親は、実際にポル・ポトに殺されているんですよね。このように、カンボジアにしろ、フィリピンにしろ、圧政のあとの時代を生きる世代が、過去をどう解釈するかというのが、映画表現への原動力となっているところがある。それゆえに東南アジア映画の発展には注目してもらいたい」

一方、TIFFでもアジア映画の特集を積極的に行っているが、近年力を注いでいるのが東南アジア。これは「2014年に設立されたアジアセンターとのコラボレーションが実現したことが大きな転機」と語る。

「国際交流基金は、東南アジア各国(シンガポール、ブルネイ、東ティモールを除く)に事務所をお持ちなので、そのときどきに一番イキのいい現在進行形の作家や映画業界のリサーチができているんです。それをTIFFにも伝えていただけるので、我々がリサーチにいくときに大いに役に立っています。アジアセンターが設立されてから本格的にTIFFと共催で、いろいろな試みをできるようになりました。たとえば『アジア三面鏡』のようなオムニバスを2本も製作したり、TIFFでのCROSSCUT ASIAだったり。CROSSCUT ASIAは始めたタイミングが非常に良かったこともあり、2010年代中期から始まった東南アジア映画の盛り上がりをそのまま持ってくることができていると思います。今回の『東南アジア映画の巨匠たち/響きあうアジア2019』は、そんな5年間の集大成というイベントになります」

こうしたイベントやTIFFでの日本配給未決作品群などは、見逃すにはもったいない。特にこの熱気を感じて欲しいのは「日本の若い世代」という。

「シネコンや動画配信でメジャーな話題作を見る環境は整っていますが、劇場まで足を運んで東南アジア瑛がを見る機会はあまりないでしょう。各作品の面白さは私が保証しますので(笑)、今回のイベントは若い人に気軽に楽しんでいただけるよう、25歳以下の入場料は500円にしています。しかも、新作・旧作がまざった上映会にワールドクラスの映画人がこれだけ集まってくれるのはめったにないことです。新作を抱えてきたらその話だけになりますからね。きっとシンポジウムでのお話も普段は聞くことができない話が出るでしょうし、東南アジアの監督たちはみな、日本での映画作りに興味津々だから、そういったお話も聞けるかもしれませんよ」

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