音と映像の万華鏡 5夜限定のベンダースのプロジェクションマッピングがパリで開催
2019年4月22日 13:30
[映画.com ニュース]パリのグラン・パレといえば、1900年のパリ万博博覧会のために建てられ、美術展用のホールと、ファッションショーやサロンにも使用されるガラス屋根の美しい本堂を擁する、壮大なランドマークだ。この本堂で、4月18日から5夜(21時~0時)のみ限定で、ビム・ベンダースのインスタレーションが開催された。
プロジェクションマッピングと言われるシステムを使用したその内容は、4Kの12個のプロジェクターを使用し、本堂の壁に「Alabama」(1969/日本未公開)から「Pina ピナ・バウシュ 踊り続けるいのち」(2011)に至る厳選した16作品の映像を映写したもの。といっても、ただ映画を流し続けているわけではない。本展のために彼が特別に編集をし直し、それに合わせて音楽を付けた、オリジナルなインスタレーションなのだ。夜だけなのは、ガラス天井から明かりが差し込むために、暗くならないと映写できないため。それにしても、たった5夜だけとはなんとももったいない。
入場料は無料ということもあり、初日から多くの人が詰めかけた。だが13500平米のスペースだけに、ぎゅうぎゅうになるということがなく、30分で1クルーの映像に導かれ、ゆるゆると場内を散歩しているうちに、あっという間に時が立つ。
とくにこれまでベンダースの作品を見てきた者なら、「アメリカの友人」「パリ、テキサス」「ベルリン・天使の詩」「ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ」「ミリオンダラー・ホテル」など、感涙せずにはいられないだろう。奇しくもデニス・ホッパー、ハリー・ディーン・スタントン、ブルーノ・ガンツなど、亡くなってしまった俳優が並び、彼らへのオマージュも感じられる。
もっとも、「懐かしさ」を売りにしているわけではない。このオリジナルなインスタレーションは、物語を語るという映画の目的を換骨奪胎し、訪れた者がこの巨大な空間ならではの、音と映像の万華鏡に身を浸すことが目的だ。思えばヴェンダースの映画は、移動、ムーブメントを扱ったものが多い。「ブエナビスタ~」やピナ・バウシュのドキュメンタリーもそのひとつだ。身体的な動きの自由、空間的な自由、そして詩情に満ちた概念としての自由。それらを謳う彼のインスタレーションは、まさにユニークな身体的体験であると共に、魂の共振をもたらされる。(佐藤久理子)