「リテイクはできない」三上博史、“ラブホテル形式”映画でさらけ出した役者としての矜持

2019年1月17日 13:00


約14年ぶりに映画主演を果たした三上博史
約14年ぶりに映画主演を果たした三上博史

[映画.com ニュース] 役者という生き物の魅力を存分に味わえる映画が、平成最後の年に誕生した。宅間孝行監督が“グランドホテル形式”ならぬ“ラブホテル形式”で紡ぎあげたワンシチュエーションの密室群像劇「LOVEHOTELに於ける情事とPLANの涯て」だ。約14年ぶりに映画主演を果たした三上博史が矜持を貫いた物語には“キャラクターを生きる”役者の凄みが、全て映し出されていた。(取材・文/編集部、写真/間庭裕基

舞台となるのは、新宿・歌舞伎町のラブホテル。警察官の間宮(三上)はビデオカメラをセットし、勤務中にもかかわらずデリヘル嬢・麗華(三浦萌)との情事にふけっていた。そこへ間宮の妻で婦警の詩織(酒井若菜)が踏み込んできたため、取り乱した間宮は麗華を銃で撃ち、死体処理のためにヤクの売人ウォン(波岡一喜)が呼ばれる。登場人物全員が弱みを握られ、かつ弱みを握っているという状況下でそれぞれの思惑と立場が交錯し、物語は一気に転がっていく。

三上がオファーを受けたのは、WOWOWの連続ドラマ「社長室の冬 巨大新聞社を獲る男」へ参加していた時のこと。同作の撮了後、宅間組クランクインまでに残された期間は、わずか1週間だった。「脚本が面白いと感じたんですが、準備期間がない。1カットずつ撮っていくのならどうにかできるかなと思ったんですが、(本作は)その1カットが“重たい”。1シチュエーションでしたし、役者への比重が大きい」と感じ、即決とはいかなかった。だが「最高の座組」と振り返る酒井、波岡らとの共演を諦めることはできず、「個人的には端正な役どころが多かったので、こういうやんちゃな役というのはあまりない。自分の中では新たな役という感覚はないんですが、世の中のイメージ的には新鮮なのではないか」と考え、本作への参加を決断した。

登場人物は全員“クソ野郎”!
登場人物は全員“クソ野郎”!

役者としても活動する宅間監督の演出について「一言一言が直接的ではない。(指摘の手法が)役者同士のつつき方なんです」と説明した三上。「『そこ、怠けているでしょ?』『逃げてるでしょ?』という指摘は、役者でなければわからない。逆に言えば、その点をわかっているからこそ“武器”になる部分がわかっている。映像派の監督であれば、役者をオブジェとして使ってしまうところを、宅間さんは役者を信用しきり、その場に置いて『あとはどうぞ』というイメージ。僕ら役者が見せたいことを、余計なことをしないで生のまま届けてくれる感覚なんです」と全幅の信頼を寄せていたようだ。

本作の特徴のひとつとしてあげられるのが、固定カメラによる驚異的な長回しだ。約40分にも及ぶカットが2つも使用されているのだが、意欲的な挑戦には困難がつきもの――スタッフが見切れてしまうトラブルが起こってしまったが、三上は「リテイクはできない」と粘ったようだ。「できないことはないんです。ですが、1度目以上のテンションでは絶対にできない。1カ月後にはできるかもしれませんが……。そのシーンではどうにかスタッフの見切れを処理してもらったんです。帰り際には、酒井さんが『代弁してくれてありがとうございました。私たちでは言えなかったから』と。そういう絆があったんです」と述懐しつつ、酒井&波岡とは“1発撮り”という暗黙の了解を共有していたことを明かした。

劇中では各キャラクターがビデオカメラを移動させていく。キャスト陣に要求されたのは、カメラマンとの二人羽織のような作業だ。リハーサル時、カメラマンと一心同体となり、画角や動きを決め、リアリティを生み出すため、画面外での芝居も創造していく。1カット長回しのため、バミリ(立ち位置を示す目印)を貼ることはできなかった――そのため想定外の事態も起こってしまったようだが、「演技好き、役者好きの人たちにとってはたまらない映画」という言葉を裏付けるエピソードがあった。

三上「演劇であれば『彼の足下を見たい』『この場面ではなぜポケットに手を入れているのだろう』という細かい部分に着目して見る方がいますよね? この映画でも、それが“全部見れる”んです。例えば、デリヘルのマネージャー・小泉(阿部力)と言い争う場面。僕がカメラを高い位置に移動させてからのショットなんですが、2人の顔がきちんと映っていない。実はこの展開、本当はバストアップを撮りたかったんです。本来であれば演技をしている人物の目に注目するところなんですが、(意図しないルックになったからこそ)手が気になった。映像をチェックしてみたら、手もきちんと芝居をしていました」

また、エキセントリックなセリフの応酬、ハイテンションな演技合戦には「アドリブは99%ない」と断言した三上。「アドリブは上手くはまるといいんですが、僕自身は基本的にいらないものだと思っています。勿論、映画のテイストにもよるんですけどね」という発言を受け、あえて役者としてのスタンスを探る質問をぶつけてみた。「では、アドリブを求められたら?」。すると、意外な答えが返ってくる。

三上「必死でやりますよ。だからこそ、僕は関西弁の芝居には手を出さないんですよ。関西弁のセリフは、余白の上手さが求められるもの。例えば相槌の返し方です。語尾にも性格が出ますよね。あの表現は関西の方にしかできないですし、それができなければ演じる資格はありません」

「僕たちは役者としてメシを食っている」と自身の仕事へのプライドとこだわりを示した三上は「役者の力を見せてやりたいと思った」と胸中を吐露。「それが邪魔になる時もありますが、僕はそうやって生きてきたんです。役者の力というものを示せなかったら、僕たちが存在している意味がない。(本作は)宅間さんが役者だったからこそ成立した企画。自分で出演することもできたはずなのに、それをせず、信頼して見守ってくれた。小さな映画だけども、全員で出来る限りのことをしようという思いがありましたし、“役者がいなくてもできる”とうたうような作品とは訳が違うんです」と熱弁していた。

全編を通じて張り巡らされた伏線を、初見で全て見抜くことは難しいだろう。先に記したあらすじも作品の核を覆った“薄皮”をなぞっているだけに過ぎず、ストーリーは何度も舵を切りながら、予測不能のクライマックスへと導かれていく。1度目の鑑賞は、これらの仕掛けの妙にただただ酔いしれてほしい。そして、緻密に計算されていたセリフの意図やタイミングに膝を打つ再見において、全てをさらけ出した“役者としてメシを食う者たち”の底力を感じてほしい。

LOVEHOTELに於ける情事とPLANの涯て」は、1月18日から東京・テアトル新宿ほか全国順次公開。

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