初音ミク主演のボーカロイド・オペラ、パリ公演。その反響は?

2013年12月3日 10:30


パリの地下の構内にはられたポスター
パリの地下の構内にはられたポスター

[映画.com ニュース] 先日、パリで初公演されたボーカロイド・オペラ「The End」を観た。公演は、フランスのアカデミー賞にあたるセザール賞の授賞式会場としても知られるパリの中心にあるシャトレ座でおこなわれた。計3日のうち1日は追加公演だったから、かなり注目を集めたことはたしかだ。初演の4日前には日刊紙リベラシオンに渋谷慶一郎とYKBXのインタビューを含めた記事が4ページにわたって掲載されるという大きな扱い。パリの地下鉄の構内には至るところにポスターが張られ、同劇場の通常の公演と比べてもかなりの宣伝費をかけている印象だった。文化庁のバックアップが付いていたようだから、これも“クール・ジャパン”戦略の一貫なのだろうか。

たしかに「The End」は日本のいまのカルチャーを宣伝するには格好の素材かもしれない。日本が世界に誇るアニメ文化と初音ミクといういかにも日本的なポピュラーなキャラ(露出度の高いコスチュームを纏ったキュートでイノセントな女の子、というかロボット)、「技術の国、日本」をアピールする人口オペラというアイディアに高度な完成度を誇る音響と映像。加えてルイ・ヴィトンの衣装協力でフランスにおける話題性も十分である。日本では賛否両論と聞いていただけに、わたしも大いなる期待を抱いて劇場に足を運んだ。

結果から言うと、個人的には落胆させられた。たしかに音響技術は素晴らしい。さらに舞台上にひとり立つ渋谷慶一郎の音響セットそのものを視覚効果に取り入れた、ミニマルかつモダーンで美しい舞台美術、スクリーンを重層的に使った、いわばナチュラルな3D効果の面白さなど、シャトレのクラシック然とした内装がミスマッチなぐらいの近未来感を醸し出し、吸い込まれるような魅力に満ちていた。だが、残念なことに物語の部分が弱い。一応、「ロボットの実存的な悩み」をテーマに打ち出しているものの、そこには語られるべきストーリーがほとんどない。そもそもこうしたテーマ自体、それこそ「ブレードランナー」やら「A.I.」など、これまで幾多の作家や映画監督が扱ってきたことで、そこに新しさがあるわけではない。だからこそよけいそれを掘り下げることが必要なわけだが、ハコだけ素晴らしく、観客の心を掴むような肝心のストーリーが不足しているという印象だ。「わたしは死ぬの?」とミクがひたすら繰り返す、(壊れたコンピューターにも似た)ある種の不快感がもしも狙いだとしたら、相当サドマゾ的要素があると言えるかもしれない。ボーカロイド“オペラ”とうたっているわりには、楽曲やその歌詞はむしろJ-POPなのではないかとも思えた。オペラと強調することで、高尚な雰囲気を出したかったのだろうか。

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わたしが観た最終日の観客層は、小さい子どもを連れた家族連れやティーン、30代前半ぐらいまでの若者が圧倒的で、少数ながらゴスロリ風少女も混ざり、観劇の客層というよりは「ジャパンエキスポ」(毎年7月に開催される日本文化の見本市。アニメ、マンガ好きに有名)会場のような雰囲気。「ボーカロイドのことはもちろん数年前から知っていたよ」という、アニメオタク(スマートフォンにびっしりと並ぶ海賊版アニメサイトのリストを見せてくれた)もいた。だが、周りのフランス人観客の何人かは上演開始30分ぐらいで飽き始めていた様子。親と一緒に来た12歳ぐらいの少年が、途中で携帯を付けてネットを始め(!)、親に怒られるという場面も。終演後、数人の男性に感想を聞いたところ、「凝ったビジュアルと音響装置がすごく良かった」という意見とともに、「途中で飽きてしまった」「ボーカロイドがどういうものか興味があったが、一回見れば十分」という声もあった。

これだけの技術を結集し注目を集めるボーカロイド・プロジェクトだけに、今後は見る者の心を揺り動かす中身(物語)もぜひそなわって欲しいと思わずにはいられない。(佐藤久理子)

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