劇場公開日 2023年10月6日

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「50代猪木信者にはどんぴしゃの映画だった。勇気をもらった。」アントニオ猪木をさがして たてやんさんの映画レビュー(感想・評価)

5.050代猪木信者にはどんぴしゃの映画だった。勇気をもらった。

2023年10月28日
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鑑賞方法:映画館

知的

幸せ

 猪木がこの世を去って1年。 猪木イズムの現在地を世に問いたいというのが この映画の主題なんだろう。そのメッセージを十分に感じとることができた。

●1つは、私のような世代の猪木信者に「おまえら猪木イズムを忘れていないか?挑戦してるか?戦ってるか?バカになってるか?」という投げかけ。50代の猪木のベイダー戦、ドンフライ戦、北朝鮮、イラクの救出劇を見せて、「おまえら もっとやれるだろ、頑張れよ」 って背中を叩かれた。

 職場や家庭で小さくまとまってきている自分、新しいことより昔話を楽しんでいる自分、に気づかされて恥ずかしい気持ちになった。猪木イズムを一言で説明するのは無理だが「挑戦・闘魂・風車の理論・バカになれ・迷わず行けよ行けばわかるさ」などのキーワードを 自分の中で再点火させることが出来た。

 ミニドラマもテーマに沿った内容だった。ブラジル取材も 何もない場所、貧しい生活からスタートしたことを強調していて よかった。

●もう1つは 「猪木イズムは後世に引き継がれるのか?、猪木の死をもってして消えてなくなるのか?」という投げかけ。 藤波や藤原の一緒にやっていた世代 棚橋・オカダの引き継いだ世代 そして海野の猪木を知らない世代を うまく対比させながら インタビューを織り交ぜたのはよい構成だった。人選も良かった。
 一言でいうと猪木に 藤波世代は心酔 棚橋世代はリスペクトしつつも我が道を、海野世代には歴史的人物であり影響は希薄 ということになろうか。

 「猪木問答」、永田や中西らはお笑いネタにされているが、棚橋の「プロレスをやりたいです」という答えは秀逸かつ、その後の新日本プロレスの方向性と隆盛を導いた名言だった。その舞台裏を棚橋から直接聞けたのは、この映画の見せ場だった。

 そして海野の「おれは怒りなんかないですよ。ドームツアー・国立競技場を満員にできる会社にしたい」という言葉に 不安を覚えました。「そんなことみんな思ってるよ、そのためにどうするのか?て事じゃないか」って。
 「プロレスvs世間」「猪木vs馬場」「プロレスvsリアルファイト」「猪木超えという反骨心」「選手間ジェラシー」「借金を返す」などなど たくさんの怒りがあるから戦いが生まれ、「見たい、応援したい」という共感が生まれるんじゃないのか?「怒りのない戦い、プロレス」とはどんなものなのか、海野は答えを出せるのか? もし出せたら すごいことだが、そのプロレスは歌舞伎やシルクドソレイユのようなものなのかもしれない。

●●
 猪木信者は猪木の試合は繰り返し見ているし、名場面も脳裏に刻まれているので、この映画で今更見る必要はない。 また、長州や前田など猪木と対抗した人間や 三銃士や小川らの話も もう知っているのでこの映画で聞く必要はない。ホーガン戦にしろ、その裏話も知っているので この映画で触れる必要はない。 晩年の猪木が出てこなかったのもよかった。
 猪木1周忌のイベントとしてとらえれば 最高の内容だったと思う。ただし、50代前後の猪木信者以外にはお勧めしにくい映画だとは申し添えておく。

 個人的に残念だったのは巌流島に時間割きすぎ。猪木にとって、猪木信者にとって、それほど重要な試合ではなかったように思う。それよりは(評判は悪いが)ミニドラマをもう1本 主人公が50代になった現代も描いてほしかった。

●余談:夜、一人見終わった後、牛丼でも食べて帰ろうと思ったが、「迷わず行けよ」と 六本木のアイリッシュバーに行ってみた。普段ならいかない場所に行って、バーテンさんや隣の外人に話しかけてみたり、とっても楽しかった。小さくまとまるな、挑戦しろ、自分。

たてやん