劇場公開日 2023年9月29日

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「人生をやり直すことがテーマの作品ならば、やり直す目的とやり直すことでどう変わってたのか効果を明確にしないと、観客の共感が得られなくなります。本作はそこが曖昧になってしまいました。」二十歳に還りたい。 流山の小地蔵さんの映画レビュー(感想・評価)

3.0人生をやり直すことがテーマの作品ならば、やり直す目的とやり直すことでどう変わってたのか効果を明確にしないと、観客の共感が得られなくなります。本作はそこが曖昧になってしまいました。

2023年10月27日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

幸せ

 幸福の科学の第27作目の劇場用作品。劇場用実写映画作品としては18作目。「人生の生きる意味や、愛とは何なのか」を深く問いかけるストーリー。人生を生きる時に「本当に必要な価値観とは」を振り返り「愛と反省」をメインテーマに描く物語です。
 本作では、教団のPRどころか、宗教的表現も控えめにし、ある日突然20歳の青年に戻った80歳の孤独な男の第二の人生を描いたヒューマンドラマに、フジテレビ「教師びんびん物語」の赤羽博監督が、真っ向挑戦しています。

■ストーリー
 一代で大企業を築き、世間からは「経営の神様」として尊敬されていた寺沢一徳(津嘉山正種)。しかし、引退後は高齢者施設で孤独な日々を送っており、唯一の楽しみは、施設を訪れる学生ボランティアの山根明香(三浦理香子)に会うことでした。ある晩秋の夕暮れ、一徳の身の上を知り悲しみを覚えた明香は、彼の願いをひとつだけかなえてほしいと神様に祈るのです。そんな明香が失恋の痛みを心に秘めていることを知っていた一徳は、彼女のために何かできることがあるなら、もう一度20歳に戻りたいと願います。すると次の瞬間、ある大学のキャンパスで一徳は20歳に戻っていたのでした。第二の青春を送ることになった一徳(青春期:田中宏明)は、「これは現実なのだろうか?」といぶかしがるものの、今度こそ悔いのない一生を送ろうと「第二の人生」を歩みはじめたのでした。

■感想
 人生をやり直すことがテーマは、映画の鉄板企画といえるでしょう。古くは『バック・トゥ・ザ・フューチャー』その代表格であり、最近ではマーベルスタジオの『ザ・フラッシュ』で描かれた、主人公の何度も何度も、母と死別しない人生に変えるための涙ぐましい努力と悲しい結末が記憶に新しいところです。
 人生をやり直すことがテーマの作品ならば、やり直す目的とやり直すことでどう変わってたのか効果を明確にしないと、観客の共感が得られなくなります。
 本作では、一徳が人生をやり直したい目的がイマイチはっきりしませんでした。家族を犠牲して、一代で興した不動産会社の経営にのめり込んでしまった悔恨の思いはわかるのですが、では20歳に若返って人生をやり直すとき、以前の自分の人生とは全く異なる人生を選択してしまったことから、以前の自分が関わっていた妻や息子たちと和解していくような人生とはならなかったのです。
 一徳が選択したのは、明香の父親が人気劇団の運営をしていて、明日香に引き込まれる形で俳優となってしまったのです。以前の人生で次男がバンドで自立するといって実家から独立していったとき、一徳は音楽で生計立てるなんて無理だと見下していたのです。自分の息子の才能や可能性を認めなかった反省から、まぁこれはこれで、一徳の息子に詫びる気持から選んだのかもしれません。けれども俳優として成功することは、たまたまであって、人生をどうやり直したのかということにつながっていないことが気になりました。むしろ一徳は、社長だったころの交渉術などのノウハウを活かして、人気俳優へと駆け上がっていくのです。明香の自分に対する恋心にも、知らんぷりして。これでは社長をやっていた頃と形が変わっただけで、同じことの繰り返しではありませんか。
 やはり一徳が一時でも二十歳に還った経験が、その後の人生にどう影響していくのかを描いて欲しいところでした。
 ところで、本作には気になるツッコミどころがあります。それは一徳が若返るとき天の啓示が舞い降りて、若返りの条件として30歳までは結婚できないことを告げるのです。もし破れば、その時点で若返りの人生が即刻終わってしまうことを警告されます。
 一徳はその警告をずっと頑なに守り続けたのです。そのため明香の告白にも、ずっと無回答のまま、彼女を長期間苦しめたのです。もしかしたら物語の冒頭の明香の失恋相手は、若返ってきた一徳本人だったのかもしれません。もしそうだと、物語は無限ループになってしまいます。
 ここで素朴な疑問は30歳の誕生日を迎える直前に、再度明香から告白の答えを求められたとき、なぜ誕生日まで待ってくれないかと本心を語れなかったのでしょうか。
 そもそもなんで30歳の誕生日まで、待つ必要があったのか、その理由も明かにされませんでした。なので最初に「30歳の誕生日」というプロットが脚本で定められて、そこからストーリーが肉付けされたような感じでなったものと思われます。
 赤羽博監督は、才能のある方だけに、次回作に期待したいと思います。それにしてもベテラン俳優の津嘉山正種は、素晴らしい演技でした。台詞がなくても表情や仕草だけで、自分が積み上げてきた人生が生み出した孤独と悔恨を体現していたのです。

流山の小地蔵