劇場公開日 2023年10月13日

  • 予告編を見る

「「春画とワインの夕べ」」春画先生 きりんさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0「春画とワインの夕べ」

2024年4月15日
Androidアプリから投稿
鑑賞方法:DVD/BD

これ、イベントのタイトル。
この妙な取り合わせと言ったらないね。
学究に夢中な、大真面目なる春画先生の様が、クスクス笑いを誘うのだ。

人は、時として 思いもかけない出逢いをなすものだ。
「緊急地震速報」の警報音と共に始まる、カフェの女給= ユミコの新しき世界。
「春画と ユミコの夕べ」。

そう、あの日 ―
私の人生にこの先、
面白いことなど
何ひとつ起こらないだろうと
感じていたあの日、
あのとき、
私の人生が
大きく揺れ動いたのです
(映画冒頭のユミコの独白)

まさかの春画、
まさかのお宅への招待、
そして
まさかそれに応えてしまった自分の、新しい世界への「まさか!」。
激震と、胸の高鳴りだ。

いい掴みで始まった本作品。
あけすけなタイトルで敬遠していたのだが、こんなによく出来た映画 (特に前半) だとは思いもしなかった。
構成といい、演出や、俳優や、舞台となる旧家のロケハンまでいい。
そしてカメラが美しい。
恐らくは、ほかの鑑賞者さんたちも (評判などの前情報無しには)、あまり期待もしないで、この新作邦画のスクリーンに向かったのではないだろうか。

人は、持って生まれた性格やら得意分野の路線に従い、そこにのっとって、彼らは進学し、勉強し、その人生の進路図を描くものだ。
けれど予想だにしていなかった「まさかの世界」へのダイブが、これが生きることの醍醐味だ。
説明抜きで。
説得力なしで。
理屈もすっ飛ばして。

「春画研究のススメ」。
「やってみない?」、
「やっておくれよ」。
この突然の「お誘い」が、来し方を振り返ってみれば、
僕の人生においても、進路図の急旋回を繰り返し喰らわせてくれる ― それはもう「あみだくじ」のようなものだったし、
右へ左への 不思議な転職の引力だった気がする。

柄本佑も言っていた ―
リミッターが解除されるときに、
自分を縛っていたリミッターに気付く。

いつも何ゆえか、いろんなツテやら、知り合いからの「誘い」の連絡が引きも切らなかった僕。
印刷工場の立ち上げに呼ばれて、見に行ってみたならば「取説」を手渡され、そのままその日から印刷主任となり、
600坪の畑を突然に預けられ、はァ?
でも町イチの収益の花卉農家となって、俄然、花を航空機に乗せ続け、
誰も弾かないオルガンを見せられて、請われてパイプオルガンの奏者となり、
手を貸してくれと言われて特養の介護職員にもなり、
身寄りのない人たちへの宿の提供や、その人たちへの葬儀のために教会に住み込んでの働きもした。
その後ワインを作ったあとは、僕は、今ではなんと10トントラックの運転手なのだ。
ぜんぶぜんぶが、外界から突然に訪れた、予想外の初体験だった。

ならば、あのユミコにだって、春画の誘いくらいはあるだろう。

この映画は
「春画」の奥深さをレクチャーする作品として、もちろんその点で傑出しているのだが、
ウエイトレスのユミコが、行く先の案内も無しに、まさかの「冒険」をしたこと、
・・そこが、それこそが、観ている僕には大変に面白かった部分なのだ。

画面は、
古風で浪漫の調べあふれる衣装と、着物。
バックで流れるBGM、
フォーレのレクイエム、
グレゴリオ聖歌、
心臓の高鳴りを示す太鼓。
そして、性行為を誘イザナ う鰹節削りのリズムさえも、敢えてチープで、よく計算されていて周到。

真の滑稽のためには
登場人物が笑ったりするシーンなどは皆無でも良いのだと、
けたたましくない映像から、十分に人の生き様の愉快さを楽しませてもらった。

そして思ったのだ、
しとねよりも、枕元のペンが欲しい。そう!ひらめきを優先としたいのだ ―
僕も、春画先生と同じメモ魔だからだよね?

以上、
映画の前半の、ごくごく“さわり"の部分だけに絞ってレビューしました。

後半?
「翔んで埼玉」ふうのギャグ展開で、学究からストーリーが離れてしまったのは、ちと残念。
先生には、最後の最後まで弟子には溺れないで、振り向かないでいて欲しかったのです。

その点、「女よりも料理」を当然のごとくに選んだフランス映画 =「ポトフ」のプロットが、僕はだんぜん好み。

もしくは、

あるいは三崎あたりの温泉宿で、
二階の座敷から海を見ながら、「笑い絵」の二人になっていれば、
文学作品としては、それこそ風雅なまとまりになっていたのではないかな。
河岸でタコと赤魚をみつくろって。
宿の窓辺。
この関係がいつまで続くかわからぬ不安を、海原に感じながら。

·

きりん
琥珀糖さんのコメント
2024年4月16日

コメントそして共感ありがとうございます。

おっしゃる通り、前半は学究者の春絵先生。
そのまま格調高く進めば芸術作品でしたね。
私のあけすけなレビューを笑って下さって、
嬉し恥ずかしの心境でございます(笑)
私には後半の滑稽な先生が人間的で好きでした。

本当にきりんさんの人生って、波瀾万丈言うより、水の流れのように自然にまかされて、生きてらして、驚きと尊敬を感じています。
10トントラックの運転ですか?
並はずれたエネルギッシュなきりんさん!!
感嘆してます。

琥珀糖
きりんさんのコメント
2024年4月16日

「安達祐実のSM」は、
明治政府によって規制され「笑い絵」から「責め絵」へと変容していった庶民風俗の「緊縛」をメタファーしていますね。監督はそこのところの伏線回収を上手く説明し切れていなかったので、全体のバランスが崩れて違和感が残ってしまう結果に。そこは残念な部分でした。

きりん
きりんさんのコメント
2024年4月16日

グレシャムさん、
おお、転職を?
良き春となりますように‼️
サクラ咲く🌸✨

きりん
グレシャムの法則さんのコメント
2024年4月16日

きりんさんの人生も、そのままドラマになりそうですね。
レビューで書いてあることだけでもなんだか励まされます。
きっと身近な誰かの背中を押すエールの役割りも果たされてきたのではないでしょうか。
私個人もこの4月から異業種に転職したばかりなので、仕事を覚える苦労と新しい世界に触れる楽しみを味わってるところです。

グレシャムの法則