劇場公開日 2023年9月29日

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「上映開始から一秒たりとも目が離せない緊張感に包まれたポリティカルサスペンスの傑作。」ハント レントさんの映画レビュー(感想・評価)

5.0上映開始から一秒たりとも目が離せない緊張感に包まれたポリティカルサスペンスの傑作。

2023年10月19日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

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今年は新年早々「非常宣言」で度肝を抜かれたが、まだまだ来るね、韓国映画。相変わらずのクオリティーの高さに驚嘆するが、それも今回は人気俳優イ・ジョンジェ初監督作という。
「新しき世界」そして「イカゲーム」と人気のイ・ジョンジェ。あの「イカゲーム」なんて一日で一気に見てしまうほど夢中になって見た。そんな人気俳優がいきなり監督なんて、そうそうつとまるのかなと思いつつ鑑賞。
ほんとに初監督作品か、一級の作品以上だよ。もしかして助監督が優秀なだけなんじゃないのとか勘ぐってしまうほどの完成度の高さに驚き。ただ、キャスティングにもびっくり。主役クラスの俳優がちょい役で何人も出演。あの人からあの人まで、って、どんだけサービス精神すごいんだよ。脇役なんかも必ず韓国映画ではお目にかかる面々が総出演。いやあ、イ・ジョンジェの人脈の広さか、人望が厚いのか、彼が監督だからこそ実現しえた豪華キャスト陣。そして全編息詰まるスパイ攻防戦を描いた見事な演出、脚本のうまさ。満点の出来だよ。予告編をはるかに超えていた。

舞台は80年代前半の韓国。「KCIA 南山の部長たち」、「タクシー運転手 約束は海を越えて」と「1987、ある戦いの真実」のちょうど間くらいの時期。この時期を描いた韓国映画はどれも名作ぞろいで映画好きならばチェックしてるような作品ばかり。だから本作の時代背景についても難なく受け入れられたのではないだろうか。

この激動の時代を背景に祖国を思い革命を起こそうとする者、同じく平和のために統一を願う者、そんな男たちの熱き思いが交錯する。

KCIAの国内組、国外組、どちらかに潜んでいるであろう北朝鮮スパイのトンナムをあぶりだすために、あるいはトンナムに仕立て上げるために両者の駆け引きが全編通して描かれる。
時代背景を色濃く映した学生民主化デモ、赤狩りと称して行われた民主化デモ弾圧あるいはスパイでっち上げによる弾圧、それに伴う拷問、ミグ戦闘機による北朝鮮兵士亡命事件、ミャンマーでの北朝鮮による大統領暗殺爆弾テロ事件などなど史実に沿った物語が展開してゆく中でいったい誰がスパイなのか、二転三転する展開は息をもつかせぬもので、本当に裏でこういう男たちの戦いがあったのではと思わせるだけのリアリティを感じさせ、見ごたえ充分だった。
当時の歴史的事件をエンタメに昇華させる手腕も見事だが、それだけではなく歴史的暗部も余すところなく晒すことで、祖国への思いが込められた志の高い作品としても素晴らしい出来だった。
また特筆すべき点としては、当時の東京を模した街中での「ヒート」を彷彿とさせるリアルな銃撃戦、そしてクライマックスのタイでの壮絶な戦闘シーンとアクションもこれまた見ごたえ充分。
そしてラストに迎えるスパイとしての悲しき宿命と、最後までてんこ盛り。これだけのものを詰め込んでもストーリーが一切破綻することなく完成度の高いものに仕上げてしまう韓国映画の手腕は相変わらずだが、舌を巻く。

最初から最後までスクリーンにくぎ付けで見終わった後はお腹一杯。心地良い疲労感に包まれて劇場を後にするのであった。ありがとう、イ・ジョンジェ。スターウォーズも期待してるよ。

今秋公開される「極限境界線」も期待度マックス。ただ、これだけコンスタントに傑作を生み出してる韓国映画だが、韓国本土では興行収入が伸び悩んでいて窮地に立たされてるという。ちょっと信じられないが今後も傑作を期待したいので何とか盛り返してもらいたい。

レント