「潔(いさぎ)と対照的な凪を主人公に劇場版をキックオフする巧みな戦略」劇場版ブルーロック EPISODE 凪 高森 郁哉さんの映画レビュー(感想・評価)

4.0潔(いさぎ)と対照的な凪を主人公に劇場版をキックオフする巧みな戦略

2024年4月24日
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鑑賞方法:試写会

楽しい

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「ブルーロック」の原作漫画は未読ながら、2クール24話構成のテレビアニメは放送時に毎週予約録画で観ていて、次回が待ち遠しい大のお気に入りだった。「世界一のストライカーになるため、誰よりもエゴイストになることが求められる」という、従来のサッカーもの、いやそれどころか日本のチームスポーツ系創作物の歴史に照らしても前代未聞で突然変異のような世界観に魅了され、“青い監獄”に集められた潔世一(いさぎ よいち)をはじめとする才能の原石たちがそれぞれのエゴに向き合い能力を開花させていく過程をわくわくしながら見守ったものだ。

さて、その劇場版の第1弾が「EPIOSODE 凪」であることに意外な思いもしたが、聞けばアニメ放送開始の2022年10月より少し早い同年6月から連載が始まったスピンオフ漫画が原作だという。正伝の主人公である潔がサッカーに対して人一倍真摯で情熱的、試練のたびに次第に能力を伸ばしていくのに対し、凪誠士郎は卓越した身体能力の持ち主でありながら冷めていて面倒くさがりで、当初はサッカーの面白さも知らず同級生の玲王にしぶしぶ付き合う形でブルーロックへと導かれてきた。そんな好対照なキャラクターを外伝のメインに据えることで、一次選考の5チームリーグ戦を中心にブルーロックでの戦いをより多面的に描き出すことに成功している。

数次の選考過程で文字通り「昨日の敵は今日の友」になるのも「ブルーロック」のストーリー上の魅力のひとつ。一次選考で凪と潔は敵チームとして、そして二次ではチームメイトとして関わり、互いに化学反応を起こしていくが、劇場版ではとりわけ凪の内面の変化がダイナミックに描かれるのが嬉しいポイントだ。

二次選考の途中からダイジェスト的な駆け足の展開になっているので、漫画もアニメも通らずにこの劇場版を観た人には不満や物足りなさが残るかもしれない。それでも、主要な配信サービスでアニメを鑑賞できることもあり、劇場版で興味を持ったあとに原作やアニメでじっくりその世界観に浸るのももちろんありだろう。テレビアニメの第2シーズン、さらに劇場版の第2作以降もますます楽しみだ。

高森 郁哉